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面影  作者: 槇野文香(まきのあやか)
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第九話

次第に領地争いが激化する中で、佐藤家でも戦略会議がしばしば行われていた。私も末席ながら、その場に参加できるようになった。

 ここのところ領地を接している増田の侵入が著しいという話し合いが終わったときだった。佐藤常春様に呼び止められた。

「明綱、話がある。こちらへ参れ」

「何でございましょうか」

 私は常春様の近くに座った。

「小夜が、そなたの稽古場によく行っているそうだな」

「はい」

「あれが、何かとそなたのことが気になるらしい」

 常春様が心配そうに言った。

「小夜様には、いろいろとお気遣いいただいています」

「あれはかわいそうな娘なのだ。嫁いだ先では折り合いが悪く、すぐに出されてしまった。一時は元気がなかったが、やっと元にもどってくれた」

 小夜様にもいろいろと苦しいことがあったのだと私は知った。

「そなたは小夜をどう思う」

 小夜様と遠乗りしたときの、あの真剣な眼差しを思い出した。

「小夜様は気高い心の方だと思っております。私のような領地も持たぬ一介の貧しい武士にも、何かと心がけて下さって、ありがたく思っております。しかし、私とは御身分が違うので、あらぬことを言われてはと気をつけてはおります」

「そなたは、好きな女子がいるのか」

「とんでもございません。今はただ、この佐藤家にお仕えし、務めをはたすことでいっぱいでございます」

「そうか。そなたの剣の腕前、当家でも右に出る者がないほどじゃ。当家のために励んでほしいぞ」

 そして常春様が言った。

「小夜のこと、わがままを言うが、宜しく頼むぞ」

 私は常春様の娘を思う気持ちがわかった。

「私としてできる限り、小夜様にお仕えいたします」

 と私は言った。常春様は何か言いたげだったが、それ以上、小夜様のことは話題にはしなかった。

「ところで明綱、この頃の佐々木家のことは知っておるか」

「いいえ、どうかいたしましたでしょうか」

「養子に入られた兼忠殿と舅の信明殿との仲があまり良くなく、信明殿もこの頃病気がちだそうだ」

「信明様が」

 私は信明様と麗様の顔が浮かんだ。

「しかし、私はもう、佐々木家を出て久しくなっております。ただ、ご無事をお祈り申し上げるだけにございます」

「そうであるな。そなたはもう当家に仕える身、忘れなくてはならぬ」

 と常春様が言った。

 私は常春様にはそうは言ったものの、佐々木家のことが心配だった。


 長らく御無沙汰していた光安和尚様から、私に書状が届いた。

 その書状には会って話がしたいとあり、日時も指定してあった。信明様のことを聞いていたので、その事ではと私は思った。

 その日、佐藤様のお許しを頂き、私は光安様のいる山寺へと、馬に乗り向かった。

 その日は薄曇りで、山にさしかかると、木に陽がさえぎられ暗く感じられた。ちょうど一理ほどで寺につくというところで、妙な殺気を感じた。しかも、それは数人にのぼる人の気配だった。私は刀に手をかけた。

「覚悟」

 その言葉とともに、数人が路に立ちはだかった。

「何者ぞ」

 と言うと、私は馬上で刀を抜いた。怪しき者たちも刀を抜き、刀が鈍い音をたてぶつかり合った。私はそれを打ち払い、何人かに手傷を負わせ、馬をすばやく走らせた。

 寺の山門に一気呵成に入ると、すでに陽は沈んでいた。

「どうしたのじゃ明綱」

 光安様が驚いて出て来た。

「怪しい者どもに襲われました」

「怪我はなかったか」

「大丈夫です。相手方には傷を負わせました」

 寺に入り、書状を見せると、それは光安様の偽の書状だとわかった。

「巧みに私の筆跡をまねているが、これは違う。そなたを待伏せるための罠だったのだ」

 と光安様が言った。

「誰が、何のために、このような罠をしかけたのでしょうか」

「わからぬ」

 兼忠殿か。私はそう思いましたが、口には出さなかった。

「明綱、そなた、狙われている以上は気をつけねばならぬぞ」

 兼忠殿であれば、なぜ今、このような所業に及ぶのだろうか。



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