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面影  作者: 槇野文香(まきのあやか)
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第二十四話

明綱様は話を終えました。

「殿はそれで、麗様のために、妻をめとらぬと決意されたのですね」

 と私は言いました。いつしか私は泣いておりました。

「そうだ」

 と明綱様はお答えになりました。

「殿はひどい人です。そのようなお話は、綾には酷でございます。殿のお心がその方にあったとは」

 明綱様にお仕えするようになり、妻にはなれなくても、私は明綱様に愛されていたと思っておりました。それが本当のお心は麗様にあったのでした。

「綾、どうしてそなたを我が手元においたと思う」

 私は涙が止まらず、明綱様の顔は見られませんでした。

「そなたを初めて見たとき、麗様に似ていることに驚かされた」

「私が」

「そなたは麗様の面影をうつしていた。不思議に思い調べると、そなたは麗様の母方の血をひいていたのだ。私はその事を知って、そなたを誰にもわたすまいと思った」

 私は明綱様の顔を見ました。

「そなたが母を亡くしたため、そなたの身内が嫁がせようとしていたが、私は家老という立場でそなたを強引に連れて来た。そなたは麗様の生まれ変わりだ。そなたの顔、そなたのしぐさ、麗様そのものなのだ」

 明綱様はそう言うと私をひきよせました。

「そなたに得て、私の行き場のない想いがようやく満たされた。綾、そなたを思いのたけ慈しむことができて、私は幸せだった」

「殿」

 私は涙をぬぐい、明綱様に申しました。

「殿、今宵は雪見酒でございますね」

 明綱様はようやく笑みを浮かべました。

「そうじゃな」

「殿のために、殿のお好きな酒の肴を用意いたします」

「綾、たのむぞ」



 これにて麗姫様と佐藤家の元御家老佐々木明綱様の悲しい恋物語はおしまいにございます。

 されど、今は明綱様は私だけのお方にございます。


                                

                                 完

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