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面影  作者: 槇野文香(まきのあやか)
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第二十話

秋の紅葉に山が色づき始めた頃だった。内田道興が、館で茶会を催すことになり、佐藤常春様が招待された。茶会は大事な社交の場であり、また、いろいろな密談が行われる場だった。

 常春様は、御家来衆を数十人ひきつれて、内田道興の茶会に出かけた。

 その茶会が終わり、常春様が帰る道筋、佐藤家の領地に入る手前で事が起こった。


「明綱殿、明綱殿」

 佐久間殿が真剣な表情で来た。

「どうなさった」

「常春様が襲われた」


 私と佐久間殿は、手勢を連れ、常春様が襲われた場所に馬で駆けつけた。

 そこでは、すでに戦いは終わり、多くの御家来衆が無惨にも倒れていた。

「常春様はおらぬ。うまく逃げたのかもしれない。さがそうぞ」

 私たちは幾つかに分かれ、常春様の足取りをさがすことにした。

「とにかく、ご無事でいてほしい」

 と私は言った。

「まだ、残党がおるかもしれぬ。気をつけようぞ」

 と佐久間殿が警戒して言った。


 川沿いに来てみると、血痕があった。

「これは、誰のものであろうか」

 私たちが、その血痕をたどると、草むらに行きついた。

「佐々木様」

 その声の主は誰かと思えば、家来の野々村伝兵衛だった。草むらの中で、血まみれななって倒れていた。

「伝兵衛か、大丈夫か。常春様はどこじゃ」

 私は伝兵衛を抱き起して言った。

「あの木の陰です」

 伝兵衛が苦しげに声をふりしぼって言った。見ると少し離れた木の陰に、常春様がうつ伏せになっていた。

「常春様」

 私たちが駆けつけると、深手は負っていたが、生きていた。

「明綱か、よくぞ来てくれた」

 声はかすかだったが、意識があった。

「もう大丈夫でございます。御安心下さい」

 私たちが、常春様を何とか馬に乗せたときだった。冷気を感じた。

 殺気だ。

「佐々木明綱か」

 そこにいたのは、兼忠殿だった。みると郎党も一緒だった。

「これを仕掛けたのは、兼忠殿か」

「そうだ。そなたと佐藤は許せぬ」

 と言うと、兼忠殿は刀を抜いた。

「明綱、そなたはわしが切る」

 私も刀を抜いた。

「兼忠殿、これが最後じゃ」

 兼忠殿は、郎党もろとも襲いかかってきた。双方ぶつかりあった。

 兼忠殿は、私に向かって切り込んできた。しばらく、刀が火花を散らして組み合っていた。兼忠殿の顔は執念に燃え、鬼神のごとくだった。

 そのとき、私に背後から切り込んだ者がいた。それを、体を回転させて避けた。思わず、体が下に沈んだ。

「明綱、覚悟」

 そこへ、兼忠殿が勢いをもって切り込んできた。私は反射的に体が舞って、兼忠殿に切りつけた。

 兼忠殿は無言でそこに倒れた。

 みると他の郎党も打ち取られ、草むらに横たわっていた。

「明綱殿、大丈夫か」

 と佐久間殿が言った。

「ああ、大丈夫だ」

 と私は言った。


 常春様と手傷を負った者を連れて、館に帰ると、奥方の輝様が泣きながら迎えてくれた。

「よくぞ、殿を連れ戻してくれた」

 小夜様も涙でくしゃくしゃになりながら言った。

「皆の者、よくやってくれました」

 常春様はかなりの傷を負われ、館に着いたときは気を失っていた。とにかく、それでも、常春様が生きて戻れたことはなによりだった。

 ただ、これで、私はついに兼忠殿を打ち取ってしまった。

 これが、あの男と私の運命だったのか。残酷なものだと思わずにはいられなかった。



 

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