第十八話
「お久しぶりにございます」
私から挨拶をした。
「明綱殿か。しばらく見ないうちに、たくましくなられましたな」
と内田道興が言った。
「内田殿はお変わりないご様子ですね」
「そうでもない。信明様が亡くなられてから、だいぶ、いろいろなことがありましてな」
内田道興は緊張したためか、汗をぬぐっていた。
「まったくあの兼忠様はうつけものでござる」
と内田道興が言った。
「私も一度お会いしましたが、めんどうな人物とみうけられました」
「そうであろう。そのため信明様もご苦労なさって、結局それがたたってお亡くなりになったのだ」
信明様の最後にお会いしたときの、あの老いた姿がそれをものがたっていた。
「兼忠殿と信明様はやはり、うまくいかなかったのですか」
「むろんじゃ。なにしろ、麗様を殴ったりするのだからのう。兼忠様はすぐにかっとなるご気性なのだ」
あの男が麗様を苦しめていたのは事実なのであった。
「麗様がそんなひどいめにあっていたとは」
「兼忠様はひどい男じゃ」
「麗様はどうしていらっしゃいます」
やはり聞かずにはいられなかった。
「よく泣いておられた。だが、あの方も強くなられた」
「そうですか」
「明綱殿、あの兼忠様はだめじゃ。家臣もほとほと手をやいておる。人の話をきかないのじゃ」
と内田道興が言うと 聞いていた佐久間殿が言った。
「我らは、内田殿にお味方する所存にございます」
「それはありがたい。今日はそのことをお願いに来たのだ」
と内田道興は言った。佐久間殿が続けて言った。
「佐藤家では佐々木のお家の事情は理解しております。これからは、内田殿に佐々木家にかわってご領主になって頂きたいのです」
「佐藤家がお味方して下さるのならば、万事、抜かりななく事ははこぶだろう。わしと同じ思いの家臣が大勢おるからのう」
内田道興との話し合いは首尾よくいった。すでに佐々木家の家臣団は割れていて、兼忠殿を追い詰める密談があった。
佐藤家に帰ってから、内田道興との話し合いを常春様に報告した。
「これでなんとかなりそうだな。ひとまず、今回の事、周辺に知られぬよう用意周到におこなわれなければならぬ」
常春様は満足そうに言った。




