第十四話
しばらくしてから、私は常春様に呼び出された。
「明綱、事の次第がわかった」
「どういうことでしたのでしょうか」
「背後は安川だった」
安川といえば、佐々木兼忠殿の元主君。常春様は厳しい顔をしていた。
「増田と組んだのだ」
増田は安川の勢力を利用して、この佐藤家の領地を狙うつもりだった。
「めんどうなことになりました」
と私は言った。
「わが領地で嫌がらせを繰り返し、混乱させ、それに乗じて攻め込むつもりだろう」
「増田の考えそうなことです。油断はできない」
「それが戦国の世じゃ。そのために備えをしてきておる。明綱、心しておれよ」
「かしこまりました」
このままでいくと、増田との戦は避けられないかもしれない。その背後に安川の勢力があるとすれば、佐々木家はどうするであろうか。ということが、私の頭をよぎった。佐々木家が安川に味方すれば、私と佐々木信明様は敵対することになる。それだけは、なんとしても避けたかった。
私は意を決して、光安様に会うため寺に行った。
光安様は足が弱られたようで、痛そうに座られた。
「明綱、久しぶりであったな」
寺はいつものように清浄な雰囲気だった。
「実は、光安様にお願いしたい儀がございます」
私はいつになく丁寧に頭を下げた。
「何事じゃ」
「佐々木信明様にお会いしたいのです」
光安様はううと渋い声をあげた。
「会ってどうする」
「大事な話があります。麗様のことではありません」
私は事の次第を光安様に話した。
「なるほど。それはめんどうな話じゃな」
「そこをなんとか、光安様にお力添えしていただきたい」
光安様はしばらく考えこんでいた。
「わかった。信明殿に伝えてみよう」
と決意して下さった。
ほどなくして、寺の円徳殿が、佐藤家にいる私の処へ来た。
「明綱殿、光安様からのお言付けです」
以前の出来事があったため、光安様は円徳殿を使者としてつかわした。
「うけたまわりました。お約束の日に必ず参ります」
と私は返事をした。佐々木信明様が、寺で会うと約束をしてくれた。
長い時間会っていなかった信明様、私をまだ恨んでいるだろうか。不安だった。しかし、とにかく会って話さなくてはならないと決意したのだった。
信明様に会う日、私は佐藤家の館を朝早く出た。
寺に着くと、すでに信明様の馬があった。光安様が外に出て、私を待っていた。
「おお、明綱来たか。信明殿はもうまいられておるぞ」
「今日の事、光安様には御礼申し上げます」
と私が言うと光安様はうなずかれた。




