第十三話
小夜様を襲った山賊どもは、やはり背後関係があるようだった。小夜様の話によると、山賊は小夜様を佐藤家の姫君と知っていたようだ。
「市での嫌がらせといい、小夜様が襲われたことといい、何者かが背後にいる」
三村殿が歩きながら言った。
私と三村殿は市の見守りを仰せつかわり、市のたつその日に二人で歩いていた。
「しかし、はっきりとした背後関係はなかなかわからないでしょう」
と私は言った。
「なに、そのうちしっぽをだすであろう」
と三村殿が言った。市は先日の騒ぎがまるで嘘のような賑わいをみせていた。
「殿は商売がうまいのう。うまく商人を使ってもうけておるわ」
三村殿は常春様に家禄を増やして頂いたので、上機嫌だった。
「戦には財力がものをいいますからね」
と私は言った。
「確かに」
と三村殿が相づちをうった。
「ところで明綱殿、小夜様のこと何か言われなかったか」
「いいえ、別に」
三村殿がにやにやして言った。
「婿殿にと言われませんでしたかな」
「とんでもない」
私はあわてて否定した。
「貴殿のように剣の腕がたち、男ぶりが良いともてますな」
「御冗談を、私はそのような気楽な身分ではありません」
「生真面目なところが、また明綱殿はかわいいのう。だが、少しはいろいろと考えたほうが良いのではないか。小夜様は気は強いが、気立てのよい方ではないか。そなたには良い嫁ごになるのではないかのう」
小夜様の気持ちはよくわかったが、このままで小夜様を妻にすれば、小夜様を不幸にしてしまう気がした。
「明綱殿は、頑固だからのう」
二人が歩いていると、大勢の人だかりがあった。
「三村殿、おもしろい大道芸が始まるようだ」
「おおそうか。もっと前に行こうぞ」
私たちは人をかきわけて前に行った。男二人と女一人の大道芸で、最初女が舞いを踊った。その後、男が二人で小さな刀を何本も持って現れた。
「次なる芸は刀によるものです」
と言うと二人は横に並び、刀を両手で放り投げると、交差させて回しはじめた。おおという歓声が起こった。
「これはなかなかじゃ」
と三村殿が言った。その瞬間だった。男たちが手に持っていた小刀を、見ている群衆に向かって投げた。
「しまった」
私はすぐにその場で伏せ、刀をよけた。しかし、それは周りの人々にあたり、その場は悲鳴で騒然とした。
「三村殿」と私が叫び、隣の三村殿を見ると、刀に射抜かれ息が絶えていた。
「おのれ」
大道芸の三人は騒ぎに紛れて、用意してあった馬に乗り、すでにその場を逃げ去っていた。
「馬をひけ」
と私は言うとすぐに馬に乗り込み、三人を追った。三人の逃げた先を多くの人が見ていた。
私は必死であとを追いかけた。そろそろ追いついていい頃だというあたりに来たときだった。待ち伏せしていた大道芸の男たちが、馬に乗り、切りつけてきた。それをかわし、突き崩すと一人は落馬した。もう一人もすかさず切りつけてきたが、一瞬にして打ち倒した。
「なんということか」
変わり果てた三村殿の姿を見て、常春様が涙を流した。
「油断をしておりました。申しわけございません」
こんなことになろうとは、私も言いようがなかった。あの豪快な三村殿がこんな最後になろうとは。
「いや、そなたただけでも無事で良かった。明綱、大儀であった。女はとらえたので、この事の真相はわかるであろう」
と常春様が言った。




