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面影  作者: 槇野文香(まきのあやか)
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第十一話

「すぐに探しにいかねばならぬな」

 すでに夕闇が迫っていた。御家来衆がいくつかに分かれて探しに出た。私は三村殿と佐久間殿という御家来と三人で探しに出た。

「佐々木殿、どこか心当たりはありませんか」

 と佐久間殿が言った。

「以前、小夜様のお供で出かけた場所は、確かに小夜様がお好きな場所でした」

 小夜様と休んだ川べりは美しい場所だった。

「ひとまずそこへ行ってみるか」

 と三村殿が言った。

「佐々木殿は、小夜様のことよくご存じの様子ですね」

 佐久間殿が含みのある笑いを浮かべた。

「いや、たまたま遠乗りのお供をしたまでです」

 私はむきになって言った。

「とにかく急がねば、参ろう」

 三村殿が言った。

 私たち三人は馬をとばし、いつぞやの川べりに着いた。馬を降り、辺りを見回してみると、新しい馬の足跡があった。

「これは誰のものであろうか」

 このあたりで見たものはいないだろうか。と私は思った。

「この先には人家があります。そこで聞いてみましょう」

 と私は言った。私たちがそこへ向かおうとしたとき、ちょうど百姓らしい老人にあった。

「そなた、ここらで武家の姫君らしき人を見なかったか」

 と三村殿が聞いた。

 老人はおどおどしながら、陽に焼けた皺だらけの顔を向けて言った。

「わしは百姓だで、よくわかりませんじゃ」

「よくわからないとはなんだ」

 佐久間殿がいらいらして、刀の鞘に手をかけた。老人はのぞけると、「何もしらん」とおびえて言った。三村殿がそれを静止して、懐から金子を取り出し、老人に渡した。

「これで知っていることがあれば申せ。我らは佐藤家の家臣で怪しいものではない」

 老人はにやにやしてそれを受け取ると言った。

「そういえば、身分の高そうな姫子が馬で来ましたじゃ」

「その方は、何処へ行った」

 老人は相変わらずにやにやしているので、さらに三村殿は金子を渡した。

「山賊みていな連中に連れ去られましたじゃ」

「なに、それは誠か」

 私は即座に刀を抜き、老人の前に差し出した。老人は悲鳴をあげ跪いた。

「そなた、その連中がどこに行ったかすぐに申せ」

 私は激しく詰め寄った。

「そ、そいつらは、最近ここらに来て、この上の山の中腹のお堂にいますじゃ。たぶん、そこじゃねいですかい」

「嘘ではあるまいな。嘘であったらただではおかぬぞ」

 私はさらに老人を脅した。

「ほんとですじゃ」


 すでにあたりは暗くなっていた。私たち三人は途中で馬をつないでおき、気配を気づかれないようにお堂の手前まで行った。すると、確かに小夜様の馬が木につながれていた。お堂からは灯りが見えていた。森閑とした山の中で不気味に浮き立っていた。

「さっきの百姓の話は本当だ」

 と三村殿が言った。

「さてそうなると、どうやって助けにいきましょうか」

 と佐久間殿が言った。小夜様が捕えられているとなると、とにかく無事に助けださなくてならなかった。

「私がお堂に飛び込み、敵を外に誘い出します。敵が出てきたら、両脇から攻めて下さい」

 と私は言った。

「なるほど、明綱殿ならできるだろう」

 と三村殿が言った。

 小夜様の無事を願いながら、私はお堂に近づいた。刀を静かに抜くと、私はすぐさま飛び込んだ。そこには五人の山賊らしき男が座り込んでいた。ひとりを切り倒すと、瞬時に外へ飛び出した。「こやつはなんだ」後の四人が突然の襲撃に慌てて、必死の形相で刀を持って出て来た。そこへ、三村殿、佐久間殿が両脇から襲い、激しい切り合いとなった。山賊は死に物狂いで突いてきたが、あえなく打ち取られてしまった。

「大丈夫でしたか」

 終わったあと、私が声をかけると

「私は大丈夫だが、佐久間殿が怪我をした」

 と三村殿が言った。佐久間殿は、足に怪我を負った様子だった。

「大丈夫だ。それより小夜様を」

 私はあわててお堂に入ると、小夜様が縄で縛られぐったりとしていた。私はそれを解き、小夜様を両腕で支えて言った。

「小夜様、もう大丈夫です。私です。明綱です」

「そなた、本当に明綱か」

 小夜様は茫然自失の様子でしたが、次第に意識がはっきりしてきた。

「よくぞ、来てくれた」

 と言うと小夜様は私の胸に泣き崩れた。幸いにも、救出が早かったため、小夜様は無事だった。


 

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