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「キミは、辛いって思ったことあるのかな? 悲しいとか寂しいとか、言ってらんないんだよ。悩んでる暇すらないんだよ。苦しいって思ってる時間なんかない、でも苦しいんだ。……わからないよね」

 淡々と、今までの笑顔が嘘のように虚ろな目で語った少女を、少年は同じような顔で見返して、スッと立ち上がり踵を返す。少女はすぐにはっとして笑みを浮かべ、立ち去ろうとする少年を引き留めるよう、行く先に立ちはだかる。

「ああ、ごめんね。情けないこと言ったよ」

 少年はうんざりしたと語る瞳を少女に向ける。今までもそうだった、少年は、辛さなどというものを知らない。興味がない。そのために嘆く人を理解できないし、理解できない自分がとても嫌いなのだ。興味を持とうと耳を傾けても虚無感しか沸かない。そんな少年へ「辛さはわからないだろう」などと言った少女は悪くこそないが、少年からすれば離れたい存在であった。

 少年はなにも言わずにただ佇み、少女へ濁った目を向け続いている。

「成羅くん!」

 少年の様子に、その笑みへ僅かに焦りを滲ませた少女は、はっきりと少年へ呼び掛ける。

「成羅くん、ちょっと付き合ってほしいよ」




 そのまま授業をほったらかして学校を出、二人は濃く重たい曇天の下を歩いていく。

「ねえ成羅くん。キミはどうして死んだのかな」

「……」

「私は知りたいよ。同胞が何を思ってここに来たのか。なんでここが地獄なのか。何も言われないと困っちゃうよ、だって、私が予想つくわけないじゃんか? ただ辛いだけじゃ、普通は死なないよね。どうしてなのかな」

 笑顔は決して絶やすことなく、少女は進む先へ視線を向けながらに淡々とした様子で問いを綴る。その後ろを、普段通りの淀んだ表情をした少年が黙ってついていく。そして、細い路地に差し掛かったところでふいに少年は立ち止まり、少女を振り返させる。

 僅かにその目に光を灯して、少年は小さく短く言葉を紡いだ。

「お前は?」

 その少年の様子に、少女は微かに目を見張る。知りたいという感情、即ち興味が少年から感じられて、それが少年においては初めてのことだったからだ。それから少女はその笑みを深く彩り、くるりと立ち回って声を立てる。

「あはは、そっかそっか、キミも知りたいか……。そうだよね、聞くなら私が先に言うべきだったね」

「……」

 相変わらずすぐには答えない少女に、鬱陶しげな視線を少年は投げ掛ける。少女はそれを見てまたクスリと声を漏らして笑い、器用に口元を緩めたまま眉を下げてみせる。

「ごめんね。じゃあ話そうか……でもちょっと待ってよ。もうすぐだから」

 再び歩き出した少女の足取りは軽く、それでいてどこか楽しげで、少年はついていくために少し足を早めた。路地を抜け、二人は川沿いの土手道に出る。アスファルトで挟まれ柵のついたなんど色の川の様子は仰々しく、少女は満足げな笑みを浮かべると軽やかに橋の半ばへステップを踏んだ。

「ここだよここ。ここで私、死んだんだよ。ここにいると落ち着くんだぁ……」

 少女は柔らかに笑みを和らげ川水のなんど色を見下ろす。空の鈍色を映すことはないであろう少し濁った水に少女は手を伸ばし、水の揺らぎを掴み取るように拳をつくる。少女の手の影が水面に霞み、流れと共にぐにゃりと歪む。

「さて、話そうかな」



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