10話:強敵
一夜明けて3日目。
昨日の夕食と代わり映えの無い鶏肉の炒め物を食して、今日の行動を考える。
この家にいるとしてもやる事は無い。でも森の中に入るのも危険しかない。歩き回った結果として、食料になりそうな木の実や果物は見つかっていない。更にあのモンスターだ。
柵の内側はあの高圧電流のようなもので守られているはずだ。そこから外に出られないのは…とりあえず今日は問題ないか。食料も鶏肉がまだまだ大量にある。1週間は保つはずだ。
となると、特にやる事が無いわけだ。
それはそれで困る。向こうの世界とは異なりインターネットもテレビもラジオも本も無い。娯楽が何もないのだ。暇を過ごすのは得意だと思っていたが、実際はそういう娯楽用品が無いと何もできないのだな。
…あのモンスターが恐怖なわけだ。であれば、体を鍛えて襲われても生き残るようにしよう。
数分考えて出た結論は”トレーニングをする”であった。社会人時代は激務だったので体力を維持するためにも、筋トレは毎週末行っていた。腕立て、腹筋、スクワット。節約のためスポーツジムには通わずに家でやっていたため、ムキムキになる事は無かったが、引き締まった体と思える程度には鍛えていた。
そうと決まれば早速トレーニング開始だ。腕立て、腹筋、スクワット。それに加えて、柵の中をグルグル走ってみる。森からこの家に戻ってくるために、ゴブリンから逃げたように走る機会はあるかもしれない。リスクは排除する。そのために走り込みは重要である。
トレーニングを開始して数時間。さすがにトレーニングだけをひたすら行っていると飽きてくるな。まだ正午にもなってなさそうだし。1日でどれだけやっても限界はあるしな。
そんな事を考えていると目に入るのは、柵の側に放置されているゴブリンの死体。あれ、放置しようとは思ったけど、あのままで問題ないのだろうか。変な疫病とか発生しない?そう思い、時間もある事なので解体をする事にした。
骨とか何かに使えたりしないだろうか。肉は…食べないとしても、何かに使えるかな。そういえば、あの鳥のモンスターが襲ってきたのはゴブリンを解体して食べていた時だった。もしかして、ゴブリンの血の匂いに反応して襲ってきたとか?モンスターにとってはゴブリンの肉も普通に食料となっているのか?
そう思いつつ、解体を進める。革や肉は使い道無さそうだけど、それぞれまとめておく。内蔵は穴を掘ってそこに埋めておく。こうすべきだって、何かのラノベで読んだ気がする。腱は弓とかに使えるとか聞くけど、ゴブリンの腱でも使えるんだろうか、とりあえず確保。骨は大腿骨が大きくて固くて何かに使えそうだ。
グゥゥォォォォ
ガサッガサッ
不意に聞こえてきた咆哮と草の擦れる音。嫌な予感がして音の方向へと目を向ける。
そこにいたのは2mを優に超えている巨大な二足歩行のモンスター。頭部には2本の角があり、牛のように見える。手には巨大な斧。
ミノタウロス。あのゲームとかで有名なモンスター。
それと目が合ってしまった。
ヤバい!
ゴブリンや巨大な鳥の時の比ではないプレッシャー、危機感。目が合っただけなのに殺されたかと思うほど。ゲームではよく見ていたはずなのに、リアルに出会うとこうも違うのか!
そんな俺とは無関係にゆっくり近づいてくるミノタウロス。もうすぐ森を抜けて柵に到達してしまう。いや、あの柵には高圧電流のようなものが流れているはず、それであのミノタウロスも気絶するはずだ、そうすればナイフかあの斧で首を切れば倒せるはず。そう心を落ち着かせつつも、足は動く気配がない。
その間も一歩ずつ近づいてくるミノタウロス。時間がゆっくり過ぎていくように感じる。頭はしっかり働いているのに体は相変わらず動かない。
そして遂に柵に到達した。頼む、気絶してくれ。そう願う中、ミノタウロスが柵に手を掛ける。
バチィッ
ミノタウロスが柵に触れた瞬間、光と共に音がする。まさに高圧電流に触れたようだ。その高圧電流に触れたミノタウロスは…
先ほどとは異なり、目が赤くなっていた。
怒り。その目を見ただけで理解できてしまうほど、その赤い目には怒りが溢れていた。気絶する事もなく、また歩みを進めようとしている。
このままでは確実に死ぬ。その考えが頭を駆け巡る。どうするどうするどうする。。。
バシッ
手にしていたゴブリンの大腿骨で自分の太ももを叩く。痛みで恐怖に打ち勝てるかは分からないがやるしかない。がむしゃらに何度も叩きつける。
ミノタウロスがもう1歩足を踏み出した時には足が動くようになっていた。とにかく家の中に避難するしかない。一心不乱にミノタウロスに背を向けながらドアへと走り出す。家に入った所で安全なわけじゃないとは思っているが、この局面を乗り越える方法がそれ以外に思いつかない。
数秒後、ドアへ辿り着き家の中へと逃げ込む。怒ってはいるが、ミノタウロスの歩みは相変わらずゆっくりである。もし走っていたら…そう思うとゾッとする。
ゴブリンの時と同じように家の中からドアを押さえる。あの斧で攻撃されたらこのドアなんて一撃で破壊されるのではないか。体当たりでも壁が壊れてしまうのではないか。そんな不安が頭から離れない。
そして数十秒後。
バチィッ
家に触れたのだろうか。あの高圧電流のような音が再び聞こえてきた。やったか!?そう思った直後、
ドンッドンッ
ドアから聞こえる何かを叩きつけたかのような重低音。あのミノタウロス、電流でも気絶せずにドアを破ろうとしているのか?
ガンッ
次は鉄がぶつかったかのような金属音。斧を叩きつけているのだろうか。
もう時間の問題なのかもしれない。何もする事ができない。俺は体を震わせながらミノタウロスが起こしていると思われる音を聞くことしかできなかった。
あれからどれだけの時間が経っただろうか。
ドンッバチィッ。ガンバチィッ。
この2つの音だけが響き渡る。恐怖と緊張で精神的に疲れ切っていた。
…いつの間にか音が止んでいる。とはいえ、安心できない。部屋にある窓から、そーっと外を見る。
そこにはゆっくりと家から離れていくミノタウロスの姿があった。どうやら諦めたようだ。助かったのか。その安心感からその場で崩れ落ちてしまった。
もう今日は外には出ずに家の中に籠ろう。あのミノタウロスが再び襲ってきたら次はどうなるか分からない。安全第一である。
そう思っているとミノタウロスは解体したゴブリンの肉の前で立ち止まった。何をするのかと思いきや、ゴブリンの肉に喰らいついた。手で肉を持ったりせずに、まとめておいた肉の山に顔から突っ込んでいた。
動物園のライオンが餌の生肉を食べているのは見た事あるけど、あれは全然野性味無かったんだな。周りの目を気にしていたんだな。そう思わざるを得ないほどの食いっぷりである。あれが俺に向けられていたら…と考えると再び恐怖で足が竦んでしまった。
粗方ゴブリンの肉を喰らったミノタウロスは再び歩き出した。柵を超える際に、再びバチィッという音はあったようだが、何もなかったかのように歩き続けていた。
森の中へと消えていくミノタウロスの背中。見えなくなり、ホッと一安心した所で、またあの声が聞こえた。
『ホームのランクアップ条件を達成しました。』
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ランク:1
レベル:4
取得スキル:迎撃機能5、3点式ユニットバス、小型キッチン、電気温水器、冷蔵庫




