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『―白石くんシリーズスピンオフ― 矢納正の思考実験 チャネリング前日譚』  作者: Dicek


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第4章 〈知りたがるもの〉が集まる夜

皇學館大学の一画に、外部者は入れない宗教文化研究センターがある。

そこで行われていたのは、科学でも宗教でも説明できない“意識の観測実験”。

若き研究者・矢納正は、ひとりの少女に未来の可能性を託すことになる。

(1) 2022年9月20日(火)15時 京都市地下鉄烏丸線「今出川駅」


「またここに呼び出されたのう、矢納君。……何もこんな暑い日に」


 宮内庁京都事務所の最寄り駅を出たところで、二宮教授は立ち止まって振り向いた。

 今日から秋の彼岸入りという日、京都はまだ残暑が厳しかった。

 タオル地のハンカチで額を拭いながら、矢納は隣りに立つ石川を見た。


「私は京都が初めてなので、見るもの全部が珍しくて暑さも苦になりませんよ、二宮教授」


 石川が丁寧な言葉づかいで二宮教授に話しかける。矢納に対する時とは随分と口調が違う。


「君も矢納君もまだ若いからのう、まだ暑い季節も楽しいお年頃なんじゃろう、ははは」


 二宮は力なく笑って烏丸通の広い歩道を歩き始めた。宮内庁京都事務所までは歩いて五分程度だが、60歳を越えた二宮には暑さがこたえるのだろう。矢納が追いついて先導して歩いていく。二宮にすぐに渡せるように、手にはペットボトルの水を直に持っていた。やや遅れて石川が二人の後をついて行った。



「遠いところをご足労いただきありがとうございます。[児童才能開発プロジェクト]の運営をお願いしている方々にお集まりいただきました。上半期の総括会議を行わせていただきますが、私、宮内庁計画実行部、通称PEOの知念が進行させていただきます。実際にお目にかかるのは初めてですのでお名刺をお渡しいたします」


 そう言って知念は席を立ち二宮教授、矢納、石川の前まで行き、それぞれに名刺を配って歩いた。


「石川様に置かれましては、宮内庁との会議は初めてになりますが、以後よろしくお願いいたします。計画の枠組みに変更がありまして、文科省に代わり宮内庁が引き継ぐことになりましたのでご了承ください。関係書類、再契約書等は東京大学の方へ送ってございます」


 プロジェクトと宮内庁の関係を秘匿していたことを、知念はそんなふうに取り繕っていた。石川は興味津々で知念の言葉を聞いている。

 石川のいる東京大学認知行動科学研究室は、文科省の依頼を受けてこのプロジェクトに参加していたが、その背後に隠れてこのプロジェクトを動かしているのが宮内庁であると推測していた。3回の思考実験の成果報告を見て、宮内庁は石川もプロジェクトの本丸に取り入れようと判断したようで、この総括会議にも石川を出席させたのだ。

 そのことを矢納に連絡してきたときの石川は得意満面といった様子で、「俺もその面白そうなことに混ぜてくれよ」と言わんばかりであった。


「それでは、さっそく本題へ移らせていただきます。今後[児童才能開発プロジェクト]の被験者を、日向・D・結さんのひとりだけに絞ろうという意思決定がなされました。このことについて不都合があるかどうか、思考実験実行者であるあなたがたから学術的なご意見を伺いたい」


 爛々とした石川の視線を受け流して、知念が淡々と議事を進めていく。

 まず、二宮教授が口を開いた。


「それは〈探るもの〉として抽出すべき該当者は、その子ひとりであるという判断からですか?」


「はい、三回分の報告情報と評価を見てPEOが判断しました。日向・D・結さん以外の被験者はわれわれの求める該当者ではなく、今後は日向さんひとりを考察、評価していくということです」


「その子の能力が図抜けていたということでしょうか」


「それはまだわかりません。日向さん以外の子は該当しないということがわかり、今後実験に参加するには及ばないということです」


「文科省がピックアップした20人の内、遠距離ということもあり実験に参加できなかった子も12人います。その子たちのことはどう判断したのですか」


「全国児童知能検査での獲得点数から考えて、該当者である可能性は低いのではないかと判断しました。来年度に関東地方でも同様の思考実験を行なう方針で、その際には参加してもらうつもりですが、その前に日向さんの能力が十分であるとわかればその必要もなくなると考えています」


「なるほど。被験者を網羅できないとなるとエビデンス的には不足を指摘されそうですが、日向という子の能力が明らかに高いということであれば、思考実験を次の段階に進めることに問題はないかもしれませんね」


「学術論文を投稿するわけじゃないのだから、査読審査を気にするような心配はしなくてもいいのかもしれませんね」


 石川が口を挟んできた。石川は子どもたちの[知覚推理]を広く調査するよりも、日向結の能力だけに興味があるのだ。宮内庁の方針に賛成なのだろうと矢納は感じた。


「現場で試験官を勤めてくださった矢納さんはどうお考えですか」


 知念が矢納に発言を求めてきた。

 矢納は顔を上げてから数秒考えた後口を開いた。


「PEOの求める人材を考えると、実験の結果や評価以外にも判断する要素はあると思います。立ちふるまいや口調や言葉選び、所作、対人の共感力などです。その観点から見ても、日向結とその他の子どもたちでは明確な差があると感じました。言語化することが困難で、数値化もできない実験でしたが、結果を見るとこれほどの差異のある集団を同じレギュレーションで実験を続けていても、有意な結果は得られないかもしれませんね。参加できなかった遠方の子どもたちについても、知能テストの獲得点数などから判断して、日向結以外の子どもたちと同様の能力である可能性が高いと考えます。日向結はフルスコアでしたから」


「みなさんのご意見ありがとうございます。では、今後日向さんに限って実験を継続していくことを、次の段階へ進むととらえて行っていくことにします」


 クライアントの意向であり、どのみち従わざるを得ないのであるが、思考実験が次の段階へ進むことで同意を得た形で議事は進んでいった。


「被験者を日向結に絞って実験の第二段階に進むとして、どんなことをあの子に対してすればいいんだね」


 二宮教授が知念に聞いた。もっともな意見だと矢納は思った。これは依頼者がいる事業なのだ、クライアントの意向を聞かないと話は進まないからだ。


「日向さんのチャネリング能力を調べていただく」


 二宮教授と矢納は驚いたが、石川はもっと驚いた。〈探るもの〉を探し出すという宮内庁の目的を石川は知らされていないのだ。

 一気に話がオカルトじみてきた流れに石川は戸惑ったが、口角が僅かに上がっている。戸惑いの奥に、好奇心の光があった。

 心理学の博士号を取っている石川は、その学問の性質上“超能力”や“心霊現象”などを否定していない。むしろオタク気質が勝っていた石川は、子どものころから人並み以上に知識を持っていたのだ。


「石川さんの以前の契約では知らされていない話でしょうがお聞きください」


 知念は手元の資料をめくりながら「東京にお帰りになったら、先程お話した再契約書をお読みになってください」と小さい声で告げながら、資料を読み上げ始めた。


「えー、PEOの決定はこうです“〈天の啓示〉を受け取る能力と、それを正しく解釈する才能。その両方を高レベルで兼ね備えた人材を判別する方法を考案して実行する”」


 それを聞いた3人はしばし沈黙した。そして石川が口を開いた。


「“正しく解釈する才能”というのは[知覚推理]能力でしょう。それに関しては日向結は高レベルだと言えます。だが、〈天の啓示〉を受け取る能力というのがチャネリングということですか? チャネリングに関しては私は知識不足です。そちら側からチャネリングの方法等について情報をいただけるのでしょうか」


「ゴールとしては、皇統にまつわる〈天の啓示〉を受け取る儀式を行なう場所があります。チャネリング能力のあるものならば、そこへ行けばまず〈天の啓示〉を受け取ることができるとされています。ですが現段階で能力が未確定の被験者を、そこへ連れて行って試すわけにはいかない場所なのです。したがってまずは日向結のチャネリング能力を知る実験を行ってください、方法はおまかせします」


 3人は再び黙り込んだ。これは途方もない依頼である。返答すべき言葉を探しているが誰にも見つけられなかった。

 しかし、知念の方はこれで指示の通達が終わりというふうに机の上の書類などをまとめ始めている。


(めちゃくちゃだ。大変なことに巻き込まれちまったぞ、これはもう引き返せないんじゃないのか)


 矢納は背中に汗が一筋垂れていくのを感じて身震いをした。




(2)


 矢納ら3人が宮内庁京都事務所を出たのは17時過ぎだった。日没まではまだ時間があり、京都特有の蒸し暑さが3人を包みこんでいて、二宮はしきりにハンカチで汗を拭っていた。


「教授、水を一口どうぞ」


 矢納が手に持ったペットボトルのキャップを取って二宮に手渡した。二宮は無言でふた口ほど飲んでから矢納に返した。


「麦茶の一杯も出んかったんのう、PEOらしいわい」


 たしかに、前回の宮内庁書陵部との会合では部屋を案内したり飲み物を給仕してくれる職員がいたのだが、今回は知念のほかには誰も姿を現さなかった。


「二宮教授、PEOというのは何の部署なんですか? 私は初めて聞きました」


 石川の質問に二宮は(まぁまぁ)という目線だけで答えて受け流し、反対に石川に聞いた。


「石川くん、君は今日東京へ帰らないと行けないのかね?」


「いえ、特には用事はないですが」


「急に外泊しても、心配したり、怒ったりする家族はいるかねっちゅうことだよ」


「えっ、い、いや結婚もしていませんし、ひとり暮らしですから」


「ほう、そうかい。じゃぁこの3人で京都に一泊していかんかね、どうじゃ」


「はい、問題ないです」


「じゃぁ矢納君、ほら、この間も泊まったあの旅館へ行こうじゃないか。連絡しておくれ」


「は、はい。わかりました」


 矢納はスマホの通話履歴から[旅館十軒町橋]を選び出して通話しはじめた。京都は秋の旅行シーズンとあって、道行く観光客の数も多いが[旅館十軒町橋]は今回もあっさり予約が取れた。


「教授、3名予約取れました。すぐにチェックインできます」


「うんうん。じゃタクシーを拾っておくれ、石川君」


 いつでも宿泊可能なのは知っていたとでもいう風に矢納には頷き、今度は石川に指示を出した。どうやら石川との距離を詰めようとコミュ力を発揮しているようだ。

 夕方ということもあり、やや混んでいる烏丸通りでタクシーを拾うのは難渋したが、やがてつかまえたタクシーに3人は乗り込み、南の高瀬川方面に消えていった。



 石川は、部屋に案内されて座椅子に落ち着いていると、いきなり二宮がなにかの機械を取り出して壁や天井にかざし始めたことに驚いていた。


「な、なにをしているのですか、教授」


「盗聴器を探しているんじゃ、まだ喋るな」


 ごく小さい声で二宮が答えた。


「盗聴器……?」


 石川が声を出すと、二宮は立てた指を口に当てて目で制した。

 石川は思わず両手で口を塞ぎ、二宮の行動を凝視した。目顔で矢納に説明を求める視線を送ると、矢納は両手を開いて(抑えて抑えて)といった仕草で応えた。


「よし、いいじゃろう」


 ややあって二宮が機器のスイッチを切って石川に向き合った。


「盗聴器をスキャンしている時に、“盗聴器”という単語を言っちゃいかんな、石川君。甘い甘い」


「どういうことですか、二宮さん。なんで盗聴器なんて……」


 質問する石川の声が低く小さくなっている。


「まぁ、まずは風呂じゃ。石川君、いっしょにひとっ風呂浴びてこよう。矢納くん、その間にここを出たところのコンビニでなにか食料を調達してきてくれ、ここは素泊まりじゃからのう」


 皇學館大学名義のクレジットカードを矢納に渡しながら、二宮はもう用意された浴衣に着替え始めている。

 矢納が部屋を出ていきながら振り返ると、状況を把握できないながら、石川も浴衣に着替え始めるのが見えた。


「酒も忘れるなよ」


 二宮の言葉を背中に聞きながら「わかってますよ」と答えながら矢納は出て行った。



 石川はいくぶんバツが悪そうな顔で、二宮と湯船に浸かっていた。他に客はいないようだ。

 二宮教授とはこの出張で初めて会ったのに、いきなり裸の付き合いをすることになった流れに困惑しているのだ。


「風呂場に盗聴器は仕掛けないというのが暗黙のルールなんだ。ここならまず安心して話ができる」


「説明をお願いします。なぜこんなに警戒をしているのですか」


 石川の疑問は当然のことだった。


「宮内庁、いやPEOというのはそういうところだからだよ。君もここに来る前にわしに聞いただろう、PEOというのは何の部署なのかと」


「はぁ」


「内閣調査室とも公安とも違う調査組織。公式ではないから非合法活動はできないが、情報収集にかけては引けを取っておらん」


「そ、そんな……」


「矢納にはあまり詳しくは言っておらん。あいつはオカルトや陰謀論を人一倍知っているくせに、なぜかこういう話を嫌うんでな。だが宮内庁と付き合うときにはこのくらい用心しなければならない。君も覚えておいたほうがいい。いつか研究成果も論文も盗まれているなんてことにならないとも限らんでな」


「……。われわれが会議の後どんな行動をするか監視されているということですか?」


「わしはそう思って行動しておる。信じないのなら放っておいてくれ、わしが自分のためにやっていることだ」


「いや、解るような気がします」


 石川は、自分のいる東大においても情報の流出、論文制作の妨害があることを話し始めた。


「組織立った諜報活動が行われているかは不明ですが、同じ研究論文が先に海外で発表されたりすることもあります」


「そうだろうな、東大ともなれば尚の事じゃ。わしらは前方後円墳の研究じゃからの、他にライバルはほぼいない。だが、今われわれが探られているかもしれないと思うのはな、石川君、君のせいじゃよ」


「はっ? 私のせい」


「君が一回前の実験の設問で“古事記”を取り上げたじゃろ、ありゃ地雷だ、宮内庁のな」


「古事記……」


「古事記の修復と保全、そして古事記の真意の秘匿は宮内庁の最優先事業だからな」


「……」


「だから君が今回呼ばれたんじゃよ。このプロジェクトの真の目的に君が気付いたのではと、勘ぐられているんじゃ。わしらも守秘義務を破って君に情報を流したのかと疑われている。だから、盗聴器を警戒したりする羽目になっておる」


 石川は声もなく二宮の言葉を聞いていた。


「君は頭の回転が良すぎる。君自体の[知覚推理]能力が高すぎるんだろうな。お上に一番警戒されるタイプだ、潰されかねないぞ。もっとバカのふりをしていることじゃ、ははは」


 石川は二宮に聞きたいこと、問いただしたいことを頭の中で整理していたが、それを口にしようとした時、大浴場の扉を開けて矢納が入ってきた。


「教授、買い出し行ってきました。……、あれ、今回も他に客はいないみたいですね。観光シーズンだってのに、やっていけるのかなこの旅館」


 話しかけながら歩いてくる矢納の裸の姿を見て、毒気を抜かれた石川は前のめりになっていた体を浴槽に沈めた。



「矢納君は、盆にも暮れにも実家に帰らんがなんでだい」


 もうすでに酔った口調で二宮は聞いた。


「いや、特に……。研究が忙しいもので」


「そんなに先を急ぐようなもんじゃないだろ。わしらの研究は」


「はぁ……」


 3人は敷延べられた布団の横にテーブルを移し、ささやかな宴会をしている。

 石川は缶ビールを呑みながらふたりの会話を聞いていた。


「父親はまだご存命なのだろう、会いたくはないのかい」


「父も事業が忙しいようですし、改めて会っても話すことはありません」


「わしの研究室に来て一年目には、母親の法事に帰郷していたじゃないか」


「あれが十三回忌で最後の法事でした。あれ以来千葉には帰っていません」


「へぇ、矢納君は千葉出身なのかい」


 石川が口を挟んできた。


「はい、そうです。富津市の生まれです」


 矢納も飲んでいた缶ビールを飲み干し、新たな缶を手に取りながら答えた。

 3人とも旅館が用意した浴衣を着ているので、宴会はざっくばらんな空気である。矢納も普段は目上に気を遣いがちな振る舞いが、今夜は抑えられているようだ。


「石川君や。千葉県はな、関西圏よりも多くの前方後円墳があるんじゃ。この矢納君はな、子どもの頃から前方後円墳の怪しげな魅力に頭をやられちまってるんだ。挙句の果てに田舎の大学で論文書いている羽目になっておる」


「へぇ、そうなんですか。以外ですね、千葉県にそんなに前方後円墳があるっていうのは」


「奈良一帯のほうが本家じゃがな。千葉のは大和朝廷が東に進出する際に、地方の豪族を手懐けるために許可したものだ。王家と同じ様式の墳墓を作ることを認めるっちゅうてな」


「なるほど、それで矢納少年は本家の前方後円墳を研究したくて皇学館大学へ」


「そんな大層な動機じゃないですよ。とにかく家を出たくて、できるだけ遠くの大学を選んだだけです」


「遠くの大学っていうなら、九州や沖縄にだって国立大はあるだろう」


「確かに九州も邪馬台国があった場所の候補のひとつだから、関心はあったんですけどね。僕は邪馬台国は奈良にあったと思っていたんで…」


「ふーん、随分とアカデミックな青春時代だったんだな」


 今度は二宮が石川と矢納の会話を聞いている。飲んでいた日本酒の酔いが回ってトロンとした目をしている。


「矢納君はな育った環境にオカルトが溢れていたもんでな、こんな道を歩んでいるがな、わしみたいにならんよう願っている」


「オカルト?」


「……、まぁ。わざわざ言うようなことじゃないですが、母は除霊師として千葉では知られた人でした。家にはいつも相談者が来ていて、僕はいつも外に出されていたんです。だから郷土歴史館や古墳巡りをしてばっかりでした。父もオカルトや都市伝説系の本の版元をしている小さな出版社を経営していました。まぁ、今でもしてますけど…」


「お母様はもうお亡くなりに?」


「えぇ、僕が16歳の時に……」


「ご病気で?」


 石川は遠慮なく質問を続ける。


「衰弱死でした。全身の機能不全で何を食べても身につかず、やせ細った末に……」


「そうか……、お気の毒に。悪いことを聞いたな、許してくれ」


「いえ、もう二十年以上も前のことですから。母は相談を受けた沢山の人々の業を背負って死んでいったのだと思います。除霊と言うよりは、代わりに引き受けているようなところがありましたから……」


 部屋がしんと静まり返った。二宮はもう横の布団に寝転んで眠っているようだ。

 矢納が立ち上がって、二宮のはだけた浴衣を直し、タオルケットをお腹のあたりにかけてやっていた。


「石川さんも、今日の会議は疲れたでしょう。われわれもそろそろ眠りましょうか」

 

 そう言って矢納は自分の布団の上で寝転んだ。

 石川は返事はせず、矢納の身の上に思いを馳せるように座り込んだままだった。


「僕は先に寝ますよ。石川さんが寝る時に部屋の明かりを消してくださいね」


 矢納もタオルケットを頭から被るようにして眠りについた。

 石川はまだテーブルの前に座ったままだったが、思いを断ち切るように頭を振ると、残った缶ビールを飲み干した。



(つづく)

*最後まで読んでいただきありがとうございます。完結まで、毎日朝7時に投稿しますのでお楽しみに。

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