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コーデリアのために歌うよ  作者: 柚屋志宇


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13話 反乱

 内乱の暗雲が立ち込めるグーラ帝国で。

 私たち皇妃は、度々皇宮の催しに顔を出しました。


 着飾り、笑顔で皇帝に寄り添い、後ろ盾を誇示する役目を果たしました。

 舞踏会では皇帝とダンスもしました。


 やがて、内乱が始まりました。

 グーラ帝国の帝位争いに敗れたグリアス皇子が東部で反乱を起こしたのです。



 ◆



「皇帝との縁談、断ろうと思えば断れましたね……」


 フィオリーナ様が物憂げにそう言うと、マデリエネ様も頷きました。


「そうですね。今更解ったところで手遅れですが……」


 私は離宮で、フィオリーナ様とマデリエネ様とよくお話をしました。

 同盟国から輿入れした皇妃という同じ身の上でしたので、話が合いました。


「グーラ帝国の要求は断れないからと言われて、仕方なく私がギディオン陛下に嫁ぎましたが。グーラ帝国に、内乱とイルシャ帝国の侵攻という問題があったなら、縁談を断っても侵攻されることはなかったでしょうね……」


「グーラ帝国には西側に侵攻する余裕はなさそうですものね。東部の反乱の鎮圧だけで手いっぱいのようですから」


「騙された気分ですわ」

「後で約束を反故にできないように、私たちを皇妃として人質にしたのでしょう」


「ですが……」


 私は言いました。


「グーラ帝国がイルシャ帝国に滅ぼされてしまっては、次は、私たちの国がイルシャ帝国に侵略されてしまいますもの。イルシャの西方への侵攻を防ぐために、どのみちグーラ帝国との軍事的協力は不可避でしたわ。私たちの父が、グーラ帝国のそのまた向こうのイルシャ帝国の脅威に対して、グーラ帝国に軍を貸す可能性は低かったですから、イルシャの脅威を退けるためには必要なことだったと思います」


「……そうですね」

「たしかに……」


「イルシャ帝国の西側への侵攻を阻む防波堤として、グーラ帝国は必要ですわ。もともとイルシャ帝国の脅威に抗うために、小国が連合したのがグーラ帝国の始まりですもの」


「そうだったのですか?!」

「やはりハルディア、ヤーデルード、エステリアの三国も同盟を結ぶべきですね。私たちの国にとってグーラ帝国の脅威は共通の憂いですもの」


 私たち、同盟国の王女は、グーラ帝国の皇妃となりましたが。

 皇帝には冷遇され、第一皇妃ピアナ様には虐待されましたので、グーラ帝国人になったという自覚はありませんでした。


 フィオリーナ様とマデリエネ様に至っては、ピアナ様の所業により生命が危うい状態となりましたので、お二人はむしろグーラ帝国は敵国とお考えです。


 グーラ帝国の貴族の娘である第二皇妃アレシア様や第三皇妃ジリオラ様には良くしていただいているので、彼女たちには恩義を感じています。

 しかし私たちはグーラ帝国の皇妃としてではなく、祖国の王女として物を考えていました。


「グリアス殿下は反乱など起こして、国を滅ぼしてでも皇帝になりたいのかしら。国が無くなれば、皇帝などただの人ですのに」


「グーラ帝国なんて滅んでしまえば良いと思っていましたが……。イルシャ帝国の侵攻を止める防波堤としては、あったほうが良いですね」


 そうです。

 グーラ帝国は、西側諸国の防波堤として必要です。

 ただし……。


「まともな皇帝であれば、ですが……」


 私は二人に言いました。


「イルシャ帝国と手を結び西側へ侵攻しようとする愚帝では、私たちの防波堤として機能しません。グーラ帝国の皇帝がイルシャ帝国に組したら、グーラ帝国はイルシャ帝国が西側へ侵攻するための出城になってしまいます」


「そうですね……」

「この反乱に限ってはギディオン陛下を支援するしかありませんね。不本意ですが」


「少なくとも宰相はまともですから、宰相の言いなりのギディオン陛下のほうが、イルシャと手を組んだグリアス殿下よりマシですわ。……少しだけ」


「でも、ギディオン陛下もねえ……」

「宰相が皇帝になればよろしいのに。アレシア様が女帝になられても良いわ」


 現在グーラ帝国の政治の柱は宰相です。

 しかし皇帝はピアナ様を愛するあまり、同盟国の王女を軽んじて、せっかく宰相がお膳立てをした同盟政策の妨害をしている始末です。


 私たちには、皇帝に軽んじられた私怨がありました。

 しかし私怨を差し引いても、客観的に見てギディオン陛下は愚帝でした。


「イルシャ帝国を引き込むグリアス殿下よりはギディオン陛下のほうが良いと思いますけれど。最低最悪に比べたら少しだけ良く見えるという程度です」


「まともな皇子はいなかったのかしら」

「グーラ帝国が世継ぎ問題で何年も揉めていた理由が解った気がしますわ」


 私が帝国の帝位争いについて、初めて知ったのは……。

 十二歳のとき、懐かしいハイゼルバーグでのこと。

 ハイゼルバーグ公爵から聞いたのでした。


 あれからずっと、そしてまだ争っているのですね……。


 そして、ふと、気付きました。

 命の危険に。


「ギディオン陛下は、私たちにとっては救いの神だったかもしれません」


「え?!」

「何故ですか?!」


「だって白い結婚をしてくださったもの。白い結婚なら私たちが皇子を授かることはありませんわ」


「それは良いことなのでしょうか?」

「皇子を授かればグーラ帝国を乗っ取れるかもしれませんわ」


「いいえ。こんな荒れた国で世継ぎの皇子を授かったら、私たちも暗殺に怯えることになります。皇子を授からないことは幸運だと思いますの」


「……」

「……」


 しばしの沈黙が流れました。


 そして、顔色を悪くしたフィオリーナ様が口を開きました。


「何とか帰国できないでしょうか。いつギディオン陛下の気が変わるか解りませんし……」

「そうですわね……」


「内乱が治まって、帝国が一枚岩となれば、帰れそうな気もするのですが……」


 私は推測を述べました。


「グーラ帝国軍は、同盟国の援軍が必要なのでしょう。だから援軍を必ず出させるために王女を人質にとったのですわ」


 ご両親との仲は良好らしいフィオリーナ様とマデリエネ様はともかく、父にとっての捨て駒である私は人質として機能しないようが気もしますが。


 しかし……。

 皇帝は私を我儘王女だと思っていて、私が『捨てられ王女』だったことを知りませんでした。

 グーラ帝国側は、私が我儘王女だと勘違いしているままかもしれません。

 国王が許可しなければ王女の我儘など通りませんから、私が父に溺愛されていると勘違いしている可能性もある気がしてきました。


「イルシャ帝国に支援されている反乱軍を鎮圧するのに、おそらく帝国軍だけでは足りないのですわ。ですが反乱が鎮圧されて、帝国が一枚岩となって、同盟国の援軍が必要なくなれば、私たちは帰れるのではないかしら。むしろ、私たちが皇子を生んで国母となることを、面白くないと思う帝国貴族は多いでしょう。帝位争いをしているくらいですもの」


「そうですね……。援助の必要がなくなれば、余所者の皇妃を邪魔に思う輩はいそうですね」

「グーラ帝国の内乱が早く終わることを祈りましょう……」


「私たちが帰国するために、私たちに出来る仕事もありましてよ?」


 私はフィオリーナ様とマデリエネ様に考えを述べました。


 私たちのそれぞれの祖国である三国の同盟の実現についてです。


 エステリア王国と国境を接するハルディア王国は、かつて軍事同盟を結んだ過去もあるのですが、不義理やら貿易問題やら、代替わりやらで、現在は友好国ではあるものの戦時の協力の約束はありません。


 ハルディア王国と国境を接するヤーデルード王国も似たような関係です。


 現在この三国にはグーラ帝国という共通の脅威があり、それぞれ王女をグーラ帝国に差し出しているという共通点があります。

 そしておそらく三国はこれから、グーラ帝国に援軍を出すことを要求されて損益を被ります。


 しかし三国が共闘して帝国に抗える力を持てば、今後は、帝国の要求を拒否できる力を得ますので、共通の利益があります。


 それから。

 同盟国がグーラ帝国に援軍を出して、そして勝利した際に、報酬として王女の返還を要求するよう本国に根回しをしておくことを提案しました。


 ギディオン陛下であれば『白い結婚』であったことをお認めになるはずです。

 同盟国の援助が必要がなくなれば宰相も離縁を認める可能性が高いです。

 なによりギディオン陛下がピアナ様以外の皇妃を疎んじていますので、皇帝の勅令も期待できます。


 問題は、国王である父に愛されているフィオリーナ様とマデリエネ様と違って、私は父に愛されていない『捨てられ王女』であるという点です。

 父は私の帰国を望まないでしょう。

 三国同盟についても、父はどう判断するか……。


 そのため私は、祖父であるユーフォルビア公爵を頼るしかありませんでした。


 結論から言えば、この計画は成功します。

 この計画に限っては……。


 私の誤算は、私の父である国王と、私の母方の祖父ユーフォルビア公爵が大喧嘩をしたことです。

 グーラ帝国に援軍を要求され、父がそれを拒否するだろうことは予想していましたが、祖父が父を説得してくれるものと思っていました。

 祖父がイルシャ帝国の脅威を、父に説明して説得してくれるものと。

 しかし……。

 予想外の大喧嘩となり、祖父と父は決別。

 そのためグーラ帝国へ派遣する援軍は、祖父が中心となって集めた義勇軍となりました。

 私の祖父ユーフォルビア公爵、そしてハイゼルバーグ公爵、そして貴族の有志たちの私兵により編成された義勇軍でした。


 そしてその軍にレミュエルが参加していました。

 それが私の最も大きな誤算です。

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