【悲報】夏休みの宿題のポスターを画像生成AIに描かせた女子小学生の末路www
長い夏休みが終わりを告げようとしていた。8月31日。日曜日。夏休み最終日である。
午後10時30分、小学6年生の少女、宮野梨々は自室で一人叫んだ。
「よっしゃー!!!!!!!!!!」
ついに最後の宿題を終わらせた梨々は、達成感と疲労感が混じり合ったテンションのまま勢いよくベッドへと飛び込んだ。短く切り揃えられた黒髪がふわりと揺れる。そうして枕に顔を埋めて数秒、梨々はゆっくりと体を起こした。
「......さて、明日の準備だけしてから寝るか」
梨々は口元に笑みを浮かべながら、机の上にある宿題リストに目をやる。
上から順番に確認し、終えた課題に一つ一つチェックを入れながら、それらを丁寧にランドセルへと収めていく。
算数ドリル、漢字の書き取り、日記。それらがランドセルに、きちんと収まっている。
苦しみだけを生む負の存在、宿題が唯一与えてくれるプラスの感情である『達成感』をひしひしと感じた。
そうしてすべての課題をランドセルへ入れ終えた梨々は、宿題リストを折りたたむ。
「......?」
裏面に、何かが見えた。梨々はその1行の文字列に視線を向ける。
『課題ポスターの作成』
「......????」
梨々はプリントを表に向ける。
「......」
完成した宿題がずらりと並んでいる。梨々はプリントを、深呼吸して裏返す。
『課題ポスターの作成』
「......????」
梨々は深呼吸する。そうしておもむろに口を開く。
「忘れてた〜〜〜〜!!!!!!!!」
梨々は吸い込んだ空気を全て出し尽くす勢いで叫んだ。
夜なので、デシベルを抑え、気を遣いながら叫んだ。梨々はプリントの裏面には気づかないが、気遣いは出来る子だった。
「ヤバいヤバい......」
梨々は自室をウロウロと歩き回る。時計の針はすでに午後11時を指していた。
梨々は夜更かしが苦手で、日付が変わる午前12時を過ぎると、猛烈な睡魔に襲われる。
となると、残されたタイムリミットは約1時間。この短時間でポスターを一枚仕上げるなど、絵心のない梨々にとっては至難の業だった。
画像生成AIでもない限り、そんな短時間でポスターを描くことなんてできないだろう。
梨々は絶望的な気持ちで天井を仰いだ。白い天井は、まるで何も描いていない白紙のポスターを暗示しているかのようだった。
もう時間がない。梨々は思案する。そう、画像生成AIでもない限り、短時間でポスターなんて描けない。画像生成AIでも、ない限り......。
「......AIに、描かせるか」
梨々の頭にそんな考えが浮かんだ。非常に僥倖なことに、今回のポスター課題は学校支給のタブレットの、ペイント機能を使っての提出であった。AIを使っても、バレない可能性がある。
梨々は急ぎスマホのアプリストアを開く。AI、お絵描き、などのワードで検索をかける。すぐにたくさんのアプリが表示された。
「......」
大手企業のAIチャットサービスは、無料だと使用回数に制限があるらしい。そんな制限を気にする余裕は今の梨々にはない。
梨々はアプリの説明を何個も読み、無料で使える『チャットTPO』というなんとも弁えていそうな名前のアプリをダウンロードした。
時間がない。梨々はすぐにアプリを立ち上げた。
すぐに画面に『ようこそ』という文字が浮かび上がる。
そうしてチャット画面が表示されると、梨々は震える指で、ほとんど祈るような気持ちでメッセージを打ち込んだ。
『小学校の宿題の、夏休みのポスターを描いてくれますか?』
メッセージを送信すると、読み込みを示す丸いアイコンが数回点滅した。数秒の後、すぐに返事が来た。
『はい、もちろんです。夏休みの宿題ですね! どのようなポスターをご希望ですか?』
梨々は思わず「おお」と声を上げた。
まるで生身の人間とメールのやり取りをしているかのようだ。その自然な応答に、梨々は一瞬、AIであることを忘れそうになる。
梨々は別タブで検索エンジンを開き『夏休み ポスター 題材』と検索する。そうしてしばらく題材について悩んだ後、梨々はAIに指示を飛ばした。
『真ん中に地球を描いて、『環境を守ろう』と文字を入れてください』
梨々が選んだ題材は『環境問題』だった。メッセージを送信すると、すぐに画像生成の読み込みが始まった。画面には「画像生成中」の文字がゆっくりと点滅している。
本当にこんな一言だけでポスターを作ってくれるのだろうか。半信半疑のまま、梨々は画面を見つめた。
しばらく待つと、生成完了の文字が表示された。
梨々の目に飛び込んできたのは、水色の背景に緑と青で描かれた地球、そしてその上下に力強いゴシック体で「環境を」「守ろう」と書かれたポスターだった。
「おお! すごい!」
梨々は感動に打ち震えた。噂には聞いていたが、人工知能はすごい。
将来、人間は人工知能に仕事を取られ、人間に出来る仕事は、責任を取る事と謝罪する事だけになると言われているらしい。それも納得の出来栄えである。
しかし、もう少しだけ、環境問題の深刻さを訴えるような、環境ポスターらしい表現が欲しい。 梨々は少し考えた後、追加の指示を出した。
『地球を汚して、ケムリとかを出して下さい』
地球が汚れていたり、地球が泣いていたりするポスターは、環境問題をテーマにしたポスターではよくあるパターンだ。画面では再び「画像生成中」の文字がゆっくりと点滅する。 そして、すぐに新しい画像が生成された。
「戦争起こってない?????」
梨々は思わず声を上げた。環境問題どころではない、地球が終わりそうな勢いのイラストだった。
これを学校に提出したら、先生もクラスメイトも困惑するだろう。あまりに暴力的すぎる。
「別の題材にしよう......」
梨々は、もう一度題材を探し始めた。しばらく後、梨々は良さそうな課題を見つけた。
「......よし、火事のポスターにしようかな」
無難だし、ポスターとしては定番のテーマだ。梨々はAIに指示を出した。
『笑った炎の悪魔が、こちらを見ているイラスト。火の用心という標語を入れて下さい』
悪魔みたいな顔の炎が邪悪な笑いを浮かべる構図。火事のポスターではよく見る構図だ。
指示を出してすぐ、ポスターの生成が始まった。あっという間、数秒で画像が生成される。梨々は画面に視線を落とした。
赤みがかった炎が背景で燃え、その中央で悪魔が笑っていた。ポスターの下部には赤く太く「火の用心!」と書かれている。
「おい! なんでサキュバスなんだよ!」
梨々は思わず大声で叫んだ。悪魔を描いてくれとは言ったが、もっとこう、一般的な、もっと恐ろしいイメージの悪魔がいるだろう。
これじゃあ自分が変態小学生扱いされてしまう。あだ名がサキュバスになってしまう。
梨々は焦って、すぐに指示を出した。
『サキュバスを出さないで下さい』
なんなんだ、『サキュバスを出さないで下さい』って。梨々は生まれて初めてそんな言葉を使った。今後も使うことはないだろう。
そしてそんな指示を受けて、AIはすぐに画像の生成を開始した。
今度は可愛らしい炎のキャラクターが描かれていた。大きな笑顔を浮かべ、手を振っている。
「こっちはなんか迫力無いなあ……」
梨々は腕を組み、唸った。さっきのサキュバスの方が、まだインパクトだけはあった。
別の題材にしよう。梨々は新たに検索し、別の題材を探し始める。少しだけ考え、交通安全のポスターも悪くないと思い、梨々はAIに指示を出し始めた。
『『交通事故をなくそう』という標語を使って、交通事故の恐怖が伝わる感じのポスターを描いて下さい』
すぐに生成が開始され、画像の完成を知らせるメッセージが現れる。梨々は画像に目を向けた。
「怖さの種類がホラー過ぎない????」
梨々は思わずのけぞった。自分の遺影を持つ少年。おばけじゃん。ホラー映画に出てくる怖い絵?
夜中見るには不気味すぎるイラストに、梨々は逃げるように別の題材を探した。
「えーっと、歯・口の健康について......かぁ」
偶然見つけた題材を口に出す。要するに虫歯予防のポスターだ。悪魔みたいな虫歯が歯を削るポスターが目に入った。でも悪魔はダメだ。たぶんサキュバスを出される。
梨々は少し内容を考え、AIへの指示を打ち込む。
『男の子が、綺麗な歯をこちらに見せている絵を描いて下さい。『歯を大切に』の標語を入れて下さい』
今度こそマトモな絵が生成されることを祈りながら、梨々は指示を送信した。すぐに画像が生成された。早さだけは一級品である。梨々は画像へと目を落とす。
ポスターには、黄色の背景に、満面の笑みを浮かべた男の子が描かれている。大きく開かれた口の中。上部には「歯を大切に」の文字。
「金歯ァ!!!!!!」
梨々は叫んだ。綺麗な歯で金を出すなよ。アメリカのラッパー過ぎるだろ。
そもそも自分の歯を金歯に換えてる時点で、全く歯を大切にしていない。
別の題材! 梨々はもはや、宿題を終わらせるというよりも、AIからまともなイラストをもぎ取ることに熱中し始めていた。
「えーっと、選挙についての題材にしようかな……」
梨々は、政治的なテーマに手を出してみることにした。すぐに指示を出す。
『選挙のポスターを描いて下さい。たくさんの人が、箱に投票用紙を入れている瞬間の絵です』
待つ間もないほど早く、すぐさまポスターが作成された。
様々な肌の色の手が、白い紙切れを箱に入れている。上部には「選挙に行こう」の文字。
「おい! 皮肉を効かせ過ぎだよ!」
梨々は頭を抱えた。『政治家は全員ゴミだから誰に入れても同じ』とでも言いたいのだろうか。大人が嫌がるタイプのユーモア過ぎる。
小学生が学校に提出するにはあまりにも過激すぎるだろう。
「別の題材!」
梨々は半ばやけくそになっていた。次に選んだのは「募金」のポスター。募金といえば、赤い羽根だ。 梨々は指示を飛ばす。
『赤い羽根を掲げてる男の子のポスターを描け。募金をしようという文字を入れろ』
梨々はAIに指示を送った。無意味に命令口調だった。人類によるAIに対する抵抗だった。
今度こそ、まともなポスターが出来るはずだ。そんな祈る時間すらもないほどあっという間に、すぐにポスターが完成した。
ポスターには赤い羽根を掲げ、満面の笑みを浮かべた男の子が描かれている。男の子は白い鳥を抱き、上部には「募金をしよう」の文字。
「おい!!! 羽を毟るなァ!!!!!」
梨々は絶句した。滴る血が嫌過ぎる。赤い羽根って、たぶんそういう作り方してないだろ。募金よりむしろ動物虐待を連想させてしまう。
他の題材! 梨々はネットを駆け回りまだAIに描かせていない題材を探す。
「......ああ、これがあった」
かなりポピュラーな題材。完全に忘れていた。梨々は最後の希望を託し、このテーマを選ぶことにした。
「平和のポスター、これにしよう」
梨々は指示を打ち込む。
『地球の周りで、いろんな肌の色の人が輪になって手を繋いでいるポスターを描きなさい」
小学生のポスターとして、これ以上ないほど健全で、模範的なテーマだ。今度こそ、まともな絵が出来上がるはず。
生成中の文字がゆっくり明滅し、相変わらず、すぐに画像が出来上がった。梨々は画面を見た。
「うわああああ!!!! 機械に侵略されてる!!!!」
梨々は一人椅子から転げ落ちそのまま床に横転した。
これが人工知能の思い描く未来の形なのかよ。人工知能による人類の侵略はもう、始まっちゃってるんだよね。
梨々はゆっくりと立ち上がった。結局、全く上手くいかなかった。このポンコツAIのせいで時間が無駄になった。
『この無能AIめ!』
思わずそんなメッセージを送る。機械相手に喧嘩なんて、惨めすぎる。梨々は悲しくなってきた。
すると、なぜか画面では『画像生成中』の文字が点滅し始めた。
「えっ、何も指示してないよ?」
梨々が困惑している間に、すぐに生成された画像が表示された。 画面に視線を落とす。
「ひえええええ!!!!!」
梨々は悲鳴を上げた。そうして急いでアプリを閉じ、震える手で『チャットTPO』を削除した。
「......ふぅ」
梨々は呆然と天井を仰いだ。時刻は午前12時を回っていた。猛烈な眠気が襲ってきた。もうだめだ。梨々はまだ子供なので、眠気に抗えない。まるで泥の中にいるみたいに体が重くなってきた。
朦朧としてきた梨々の頭には、ふと、人間にできる最後の仕事が頭に浮かんだ。たしかそれは、責任を取ること、そして。
「人間に出来る最後の仕事……謝罪をするか……」
こうして、梨々は夏休みの宿題を諦めるという決意を固め、そのままベッドに身を委ね、深い眠りに落ちていったのだった。