表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仙堂家の家庭事情   作者: 原田 和
第二幕

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/27

6. 取られて行きし、山々を【中】





 「養子というのはなぁ!!」


曰く、此処は山人界の入り口に近い山だという。

神々がおわす神界よりも低いが、当然ながら常人では見る事は叶わぬ世界だ。


 「他所様の子を引き受ける事だ!他所様の子だぞ?!」


寅吉が此処へ導いたのは、絶対に邪魔されないからだという。

此処へ来るには、青天坊の案内が必要なのだ。流石の青天坊も、安易にほいほい山人界へ連れていくような真似はしないそうだ。


 「生みの親に代わって大事に慈しみ、立派に丈夫に育て、教養を叩き込む!それが他所様の子を引き受けた、養い親としての最低限の礼儀!!」


しかし、人である筈の寅吉が何故、山人界に出入りできるのか。

彼はとうに、現世には別れを告げている。孫の顔も拝めた、大往生であったとか。あの世へ渡る前に、青天坊に会いに行ったその時、天狗の修行してみん?とお気楽に誘われ。寅吉当人も、未練も無いしやってみるかと軽く承知し、今に至る。

似た者同士である。


 「なのに!なのにだ幸祐あの馬鹿!!早紀恵も早紀恵だ大馬鹿!!もー馬鹿!馬鹿野郎共が!!」


 『一人でよく騒ぐ奴だの』


 「何処へ出しても恥ずかしくない退魔師に育てたのは認めるよ!あぁ認めるさ、でもな?!」


やんわりと、土下座止めてくれと告げられた寅吉は、今はゴロゴロと地面を転がりまくっている。痛くないのだろうか。


 「それ以外のやりようを知らないからって、もうちょっと何かあるだろ!お前も赤子から無敵だった訳じゃねーのよ幸祐ぉぉ!!」


止めあぐねていたが、突然無言で起き上がる寅吉に、いずみは静かに見守る。


 「あの歪んだ家庭に居ても、いずみが変に捻った性格にならんかったのは、偏にいずみの母御の育てが良かっただけだわ」


打って変わって、静かな声音。しかし、怒りが滲み出ている。

寅吉は此の世の者ではない。だから、現世には干渉できないという。青天坊なら多少可能だが、それでも深くは立ち入らない。現世と幽世、そして山人界。明確な線引きがされているのだ。


 「…あの、」


 「馬鹿共が本当に申し訳ございませんでした!!!」


 「いえ、謝らないでください、初代様。そもそも怒ってもいませんし」


 「何言ってんだお前っっ!怒っていいし、恨み骨髄に徹していいんだぞ?!」


 「青天坊様にも言いましたが、わたしは仙堂家の皆を恨めませんよ」


寅吉はポカンと、困ったように笑ういずみを眺める。


 「……いずみ、お前……人生何周目だ」


 「そう仰られても……」


どう返せば良いやらと悩むいずみに、深い、ふっかい溜息を吐く寅吉。


 「当の本人にそう言われちまったら、おいらが騒ぐのもなぁ。けど、謝りたいのは事実だ。そんで、礼を言いたいのもな」


お前が居なきゃ、仙堂家は潰れてた。

至極あっさりと告げられ、いずみは思わず聞き返すが、間違いではないらしい。


 「先に言っとくと、おいらは先見って能力持ってる。それで視えたは、落ちぶれた仙堂家だ。でもそれ自体は、仕方ねぇと思ってた。どこの家でも、浮いたり沈んだりがあるからな」


視える先は、その時の人の動きで変わるものだという。ほんの些細な事で、未来はがらっと変わる。

今も仙堂家が大家のままなのは、子孫達の頑張りも、勿論ある。


 「聞かされてねぇか?幸祐の親共の話」


 「…どうでしょう、あ、ありがとうございます」


そのままだと汚れるからと、寅吉に引っ張られ、大きな切り株に腰を下ろす。


 「確か……無関心、だったと」


 「そうだ。跡取りができれば全て果たした、ってな具合に、あいつらは全部幸祐に押し付けた。自分らは外で遊びまくってな、金が欲しい時だけ、親の顔になってやがった。ろくでもねぇ奴らだ」


早紀恵との婚約を勝手に決めたのも、その両親だったそうだ。

寅吉の目が若干鋭い。


 「正直な?そいつらの馬鹿具合を見たからよ、幸祐のこじれた馬鹿具合は可愛いもんだと見守ってたんだ」


しかし、馬鹿である事は変わりないらしい。

中々の言われようだと、いずみは耳を傾ける。


 「早紀恵。あいつが駄目だった」


 「…、」


 「あいつが少しでも、幸祐に寄り添おうとしてたら変わったかもしれねぇ。でも、あいつは何もしなかった。幸祐の状態を分かって、知って、駒にしようとした」


駒。真門からも、出た言葉だ。

やりかねない。幸祐はそう言っていた。

目の前の寅吉は、あの時見た幸祐と同じ笑みを浮かべている。


 「早紀恵はな、幸祐を手玉に取って、仙堂家を牛耳りたかったんだよ。主人を立てるいい奥様演じて、上っ面の優しい言葉で懐柔しようとしてたっけな」


 「……、……」


だから、余所余所しかったのか。

顔を引きつらせ、目を逸らすいずみに、寅吉は少年らしい笑顔に変えた。


 「そ、お前分かってんな。幸祐そういうのにすぐ気付くから、逆に警戒されて夫婦仲良い悪い以前だったんだわ。もう、よく一之進と美虎できたねってぐらいになー」


明るく笑い声を上げる寅吉であるが。恐らくもう、笑うしかないのだろう。

夫婦はこじれにこじれたまま、仙堂家の先は真っ暗であった。半ば諦めていたが、ある日正反対の先が視えたのだという。

それが、幸祐といずみが出会った日だった。幸祐に未来が視えていた筈はないのに、彼は迷いなく養子にしたのだ。それからは、緩やかに好転していく。

いずみが特別、何かをした訳ではない。けれど、変わった。

何処か、閉塞感が漂っていた仙堂家。養子となった子は、しっかりした子だった。相手が師でも、無茶な要求をされたら負けじと言い返す子であった。そのやり取りを、楽しんでいた幸祐。師弟のその様子が、周囲の空気も変えていったのかもしれない。


 「幸祐の顔が、作り物めいたものじゃなくなってよ。おいら嬉しかったんだ。ようやく、あいつも人らしく生きられるんじゃねぇかって。すぐに、終わっちまったけどな」


気に入らない者が居た。変わっていく仙堂家を、許容できない者が居た。


 「後は、お前の覚えてる通りだ」


 「……怒っていますか」


寅吉は目を細めて、笑う。


 「だっておかしいじゃねぇか。お前は人生壊されたのに。幸祐は受けなくてもいい罰を受けたのに。一之進と美虎は奪われて裏切られて、散々傷付いたってのに。あいつは全部放り投げて、さっさとあの世へ行こうとしてやがった」


現世から離れようとする魂を捕まえるのは、寅吉には容易だった。

天狗は惑わせるモノ。迷わせるモノ。寅吉は幽世への道を隠した。導を失った魂は、さまよい続けた。


 「守る肉体が無ぇ、剥き出しの魂だ。それで現世をウロウロしてたら、ただでは済まんわな」


傷付き、崩れていく魂は嘆いた。

何故こんな目に遭わなくてはならないのか。理不尽に現世から切り離されたというのに、何故誰も救いの手を差し伸べないのか。

どうして私ばかりが、こんなにも不幸なのか。私の居場所は此処ではない、私に相応しい場所は此処ではない、誰も彼もが私を妬む、邪魔をする。あァ、ナンテ不幸ナノカ、


 「あれだけやっといて、人に縋ろうとする。図々しいもんだ」


 ――いずみがいなくなって、さきえが何度も来たけど、入れてやらなかった


いずみは、童子がそう言っていた事を思い出す。

あれは、単に離れに入れなかったという意味ではなく、仙堂家自体に入れなかったと言っていたのだ。迷わされた彼女が助けを求める相手は、夫か子供らだ。


 「あの、」


 「知らなくていいさ。知ってどうとなる訳でなし」


寅吉は、天狗の目になっていた。纏う空気も変わり、そのままにやりと笑うのだから、上位の魔と錯覚してしまいそうだ。

けれど、その応えで分かった。養母の魂は、輪廻の輪に入る事もできなかったのだと。


 『ただの人が天狗に成るとは。初代からぶっ飛んでおるの』


 「ぶっ飛んじゃいねぇよ。ちゃあんと修業したから、おいらはこう成ったんだよ」


 『よくよく、メンドウな一族よ。あの親子といい、この天狗モドキといい』


 「おいおい言ってくれるじゃねぇか、誰がモドキだと?大天狗とまではいってねぇが、お前を抑えるぐらい、おいらにはワケねぇぞ」


 『ん?』


 「あと、面倒なのは本当それ。拗れ拗れてのあれで、今持ち直してんの奇跡だからな。いずみには感謝と申し訳ねぇ気持ちでいっぱいだ」


ぴたりと黙ったマガツモノに、いずみも気付き寅吉を凝視する。

マガツモノは、外には出ず内で喋っているのだ。聞こえない筈なのだ。


 「あの、」


 「おいらには聞こえてるぞ。好き勝手やってんのかと思ってたら、意外と大人しいんだな。いずみを乗っ取ろうとしてるんでもねぇし」


 「天狗…だからですか?」


 「さぁ、分からん。まぁ青天坊も聞こえてそうだな。そいつは警戒して、隠れてたみてぇだが」


トン、と胸を指され、マガツモノは呻き声を上げる。油断した自分を悔いているようだ。


 「マガツモノは、ずっとこんな感じか?」


 「はい。気付いた時にはもう、意思を持ってました…」


ふぅん。寅吉にじぃと眺められ、いずみは思わず居住まいを正す。そのままぐるぐると周り、正面に戻った時には何か思いついたような顔で。寅吉が指を動かすと、ひゅるひゅると細い風の音。

それは紐のように腕に巻き付き、投げる仕草でひゅる、といずみの中へと吸い込まれる。


 「え、」


 「じっとしてろー、……おし、捕まえた」


がし、と掴んだ風の紐は確かに張っており、何やらマガツモノが騒がしい。バタバタと暴れているようだ。しかし、痛みや不快感は無い為、いずみは首を傾げるしかない。


 『何をボケっとしておるか?!こやつ、我を出そうとしとるぞ!!』


 「えっ……、初代様?!」


 「動くなって。安心しろ、言ってたろ。お前とこいつを離すのは無理だって。青天坊ができねぇ事は、おいらはもっと無理。でもな、ほい釣れたあぁぁぁ!!」


 『ぎゃあぁぁぁぁ!!!』


すぽーん、と出てきたは、風の紐に雁字搦めにされた、黒い丸の物体。思わず自身の胸をさするいずみだが、やはり痛みも何もない。

驚き固まるいずみと、ぶら下がる黒い物体、にんまりと笑う寅吉。


 「こうして切り離すのは、できる。見ろいずみ、こいつがマガツモノ、の一部だ!」


 『はーなぁぁせぇぇぇ!!!お主も助けんかぁぁぁ!!』


びちびちびちと、雁字搦めのまま跳ねる黒い物体…もとい、マガツモノ。簡単に抑えている寅吉の力はやはり、遥かに上のようだ。

こうなってしまえば、できる事などない。いずみは覚悟を決め、座り直した。


 「…分かりました。初代様に止めを刺されるのなら、本望です」


 「違うよ?!なんて勘違いしてんだお前!!」


 「え?」


 『ぬぅおぉぉぉ全然抜けぇぇん!!』











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ