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仙堂家の家庭事情   作者: 原田 和
第一幕

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18/23

18. 先代、対峙する




三井(みつい)馬淵(まぶち)鹿沼(かぬま)の三人組は、仙堂家に入って割と長い。真門に次ぐ、古参である。

この三人、退魔師としての腕はいい。当主の護衛を任される程だ。

しかし生来のものか、三人揃って騒がしく、どうにも締まらない。行動が直情的やら発想が突飛過ぎやらと、色々な原因が囁かれているが、要は考えるな感じろ精神で生きているからだろう。

それでも、死線を潜り抜けてきているのだから、中々侮れない。周囲の者らは、少ーしの畏怖と少ーしの尊敬を持って、彼等をこう呼ぶ。


 「何しやがる三馬鹿(さんばか)


 「三井です!」


 「馬淵です!」


 「鹿沼です!」


 「邪魔っつてんだよ三馬鹿」


スンマセン!!と、どんな時も足並み揃うのは流石だ。


 「どいてくださらない?三馬鹿。私達が今、手が離せないのは分かるでしょう?」


因みに、兄妹のはただの罵倒である。

寅一は腕一本で、三人を押し返す。その表情は動かない。三人の背後には、今回やらかした者らが震えている。意識が無いのが四人、転がっていた。これ以上はヤバイと、なんとか割って入ったが、その先を考えていなかった。


 「みっ三井っっ、あれ、あれを寅一様にぃぃぃ」


 「真門様から預かってきましたぁぁぁ読んでくださぁぁい!!」


 「邪魔だどけ。一緒に斬られてぇのか」


 「駄目だ聞いてないぃ!!ふんばれ馬淵ぃぃぃ!!」


 「真門様駄目なの?!じゃあ先代様からのぉぉぉ、」


押し返す力が、超、増した。三人の膝が嫌な音を立てる。


 「それは悪手だ三井ぃぃぃぃ!!!膝!膝がごきぃ鳴ってる!!」


 「あ、皿割れそう」


 「鹿沼ぁぁぁ!生きろぉぉぉ!!」


 「マっっいずみさんからです??!」


縋るのはもう彼しかいないと、三井はなんとか名を思い出した。

途端に、圧が消える。三井の手からも紙が消えていた。えっ、と顔を上げると、とうに刀を納めた寅一と美虎が、食い入るように読んでいる。


 「……そうだよな、立て続けだったからゆっくりできなかったし。ごめん兄さん」


 「まぁ…。私としたことが、兄様を寂しがらせてしまうなんて…」


 「三井、離れの修理はどうなってる。終わったか」


 「え、お、大方終わりました。あとは家財を入れ替えるだけです」


先程までの怒気は何処へやら、兄妹は元に戻っている。

今の今まで、真門と共にどんなに頑張っても、止める事はできなかったのに。兄妹揃っての暴走なら、尚更だ。余りの変わりように、母屋の面々はポカンとするしかない。

とりあえず、三馬鹿は膝を押さえて転がりまくった。



 ――代筆失礼致します。

 上に立つ者として感情の赴くままに動かれぬよう、寛大な判断を願う事。

 この数日慌ただしく落ち着けぬので、二人と話す機会が欲しいとの事。

 少々寂しそうにされていた、いずみ様からの伝言です。



そこから、兄妹の動きは速かったという。







 「さて、」


ぱん、と手を叩き、幸祐は真門を見遣った。


 「ユエの聞きたい事はそれだけかい?」


 「え、はい…。一応は」


 「なら、次は私の質問に答えてくれないか、いずみ」


いずみは応えず、下を向いたままだ。しかし幸祐は構わず、覗き込む。


 「お前は誰だ?」


いずみは答えない。石のように固まったままだ。

その問い掛けに困惑した真門だが、座敷牢の空気が一瞬で変わり、素早く距離を取って構える。

圧し掛かるような空気。全身が粟立つ程の殺気。それは、いずみから放たれていた。


 『お主こそ、何ぞ。先程から我を探っておる』


声が違う。纏う空気も違う。黒く塗り潰された目は、幸祐を睨みつける。

何より、この強烈な気配は。


 「マガツモノ……!先代様!離れてください!!」


 「構わんよ、私はコイツに話があるんだ。離れるのはお前。結界内とはいえ、影響は出ているぞ」


体が重い。見上げると、格子の符が焼き消え始めている。閉じ込める為の、強力なものであるというのに。


 「いずみに隠れてコソコソしていたのは、マガツモノだったか」


 『意識が無い。お主、こやつに何をした』


 「少し眠ってもらった。あの子は隠そうとするからね。お前は何故いずみの内に居る?」


 『我を消すのなら、こやつも死ぬぞ』


 「……成程、お前といずみは互いを生かしている。一之進が止めを刺せない筈だ。お前を消す事は、いずみの死と同義だからね。あぁ、私もいずみを失いたくない。お前をどうこうする気はないと、伝えておこう。それで?」


この状況下でも、幸祐は笑う。


 「お前は何に気付いた?」


 『……何の話ぞ』


 「いずみは曖昧な記憶しかなかっただろう、目覚めた当初は。時が経つにつれ、思い出してきた筈だ。そしてそれはお前も共有している。私との会話でも、いずみは記憶を取り戻していただろうな。その断片を、お前も見た。それで何が分かった?お前が分かって私が知らないのは、とても、結構、大いに気に入らないんだよ。吐け」


座敷牢を覆っていた圧が治まる。重さに耐えていた真門は解放され、思い切り息を吐いた。背をさする感覚に振り向けば、童子と河童がいつの間にか側に。幼い妖魔に心配気に覗き込まれ、慌てて立ち上がる。

幸祐はと見れば、平然と対峙中。マガツモノは思い切り顔を歪ませていた。


 『この親あって、あの兄妹ありか。メンドクサイ』


 「力ずくで聞いたっていいんだよ。いずみを傷付けるのは本意ではないけど、柔な鍛え方はしていないからね。多少なら平気だろう」


 『我消えたらこやつ死ぬぞ。こやつ耐えれても我耐えられんなら死ぬぞ。ココ大事ぞ。お主、我には殺意しか抱いておらんではないか』


 「当たり前だろう。いずみは私の弟子だよ。私のものを奪われて、どうして怒らずにいられる?」


 『……』


ちら、とマガツモノに視線を向けられたが、真門には何もできない。仙堂家の面々は個で、我が強いのだ。止められる者は、いずみを除いたら居ない。例外として童子が居るが、気紛れな妖魔はそこまで協力的ではないのだ。なので、真門は素早く視線を逸らした。

それでよくよく分かったらしい。なっっっがい溜息の後、マガツモノは幸祐を見返した。


 『神代(かみしろ)ぞ』


 「……依代より上の能力か。いずみがそれだと?」


 『元々呪を受けない体質であるニンゲンは、その器の持ち主ぞ。そうは言っても、神代に成る者は滅多におらん。こやつは当たりだ。我が中々取り込めなかったのも、こうした妙な共存状態になったのも、神代なら納得ぞ』


これは幸祐も意外だったか、黙って考え込んでいる。

依代体質の者ならば、仙堂家にも幾人か居る。妖魔に憑かれやすいので、守る術を身に付けさせるのだ。しかし力の強弱はあれど、神降ろしができる者は少ない。更にその上、神代となると皆無に等しい。


 『こやつは己が体質を……あいつ誰だ。あぁ、仙堂一之進か。そいつに渡し、引き換えに我を受け入れた。それで分かった。仙堂一之進が我を跳ね返せたのは、こやつの能力を受け継いだからだ』


 「…そこまでする必要はあったのか?」


 『我に聞くな。こやつの考えなんぞ我は知らん。ましてや過去の事など』


一蹴したマガツモノだが。その理由も、見てしまった。

あの時は、いずみにとってはそれが最善だったのだ。

自分の力では、呪の進行は止められない。まだ幼い一之進では、長くは耐えられず。……代わるのならば、この能力は邪魔だ。


 ――これは、一之進に必要なもの。


一切の躊躇いなく、手離した。

弟が生きている事を喜び、己の死を受け入れて。


 『我には分からん』


マガツモノには、理解できない行動だった。

呪の身代わりになるなど、正気の沙汰ではない。多くの人間の命を、命じられるままに奪ってきたが、そんな人間は居なかった。

悲しみ、泣き叫び、助けを乞い。

怒り、足掻き、絶望する。

様々な感情を見てきた。最期は諦め、涙しながら謝罪する。そして、こう口を揃えるのだ。


 ――代われるものなら、代わってやりたい。


 『口だけぞ。本音は悍ましく、恐ろしくて仕方ない。これほど上っ面だけの言葉もあるまいよ。我には、自分じゃなくて良かった、としか聞こえん』


中には本気で口にしている者も居るだろう。力を持たぬ、善良な者達だ。

呪というものは人間の欲で生み出され、利用される。心にも無い言葉が飛び交う場面に、何度も呼ばれた経験がある幸祐は、否定も肯定もしない。代わりに口にしたのは、


 「いずみはそういう子なんだよ。昔も、今も。自分より他者を思いやる。相手が小さな童なら、尚更だ」


幸祐が視線を向けたは、ザシキワラシ。あの童を一度祓ったは、他でもない幸祐だ。ザシキワラシが怒り、家人を祟ったのは、大好きだった人間とその居場所を奪われたから。

そんな目に遭わされたら、誰だって怒りますよ。陰でザシキワラシを助けていた弟子は、そう言って譲らなかった。


 『何の打算もなくやってのけるニンゲン程、厄介よの』


 「だから今、厄介極まりない存在になっているんだけどね。私としては、いずみだけで充分で、お前はいらないんだ」


 『我とて、お前ら親子などいらんわ。厄介はそっちであろう』


 「その体が無ければ、ただの矮小な呪物に過ぎない小物が何を言う」


 『ほおほおほお。お主どうしても戦り合いたいようだのぉ?』


いい笑顔でいい感じにマガツモノを挑発する幸祐と、青筋立てるマガツモノの間で火花が散る。再び空気が重くなり、真門は止める間もなくまた、耐える羽目になった。童子と河童は平気らしく、どちらかは定かではないが、応援している。結界が破られそうだ。このままでは。


 「せ、先代様っ……!いずみ様を、起こしてくださっっ……!!」


 「てめぇ兄さんに何しやがった!!!」


 「ソイツを表に出すなんて何てことしますの!!!」


真門の悲鳴に近い訴えよりも、兄妹の怒号がよく届いたらしい。

マガツモノはあっさりと素早く、意識の奥へ引っ込んだ。恐らく、三人相手は超メンドクサイ。が、理由だろう。

倒れるいずみを支え、幸祐は怒り心頭の我が子らに手を振る。疲労困憊でうずくまる真門を、童子と河童が覗き込んでいた。






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