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1. 目が覚めたら 【一】


新しいお話、始めました。

誤字脱字があったらすみません。







ここは、どこだ。


始めに抱いた疑問。見慣れない天井と、薄暗い部屋に困惑しつつも、ゆるゆると頭を動かす。

己は寝かされていたらしい。物は余り無く、簡素だ。

怪我か、病か。身体は酷く重く、動かすのが億劫な程だ。けれど、痛みは不思議と無かった。

身体の確認をしながら、見える範囲をくまなく探る。朝なのか、夜なのか。

きっちりと閉められた襖。その手前、太く頑丈な、木の格子。


 「座敷牢……」


分からない事だらけだが、己は閉じ込められている。それだけは分かった。


 「わたしは、何をしたのだろう…」


一体どれほど眠っていたのか。記憶が曖昧で、頭の中が霧掛かったようで、自然と眉を寄せる。

思い出せない。何処で、何をしていたのか。

布団をめくり、身を起こす。ただ閉じ込めているのなら、着の身着のままの筈。布団だって無いだろう。

丁寧な扱いを受けている。それは分かった。

自分は誰かに助けられた、此処は警戒する場所ではないと、それだけはなんとなく理解した。


 『ようやく起きたか』


何処からか声がする。


 『ざっと五年か。よもや、この期間で我を抑え込むとは』


見回しても、人影は無い。けれど声の主は遠慮なく続ける。


 『もっと時が掛かると思っていたが……これまたどうして、ニンゲンも中々やりおる』


 「誰、だ?」


 『見渡してもおらんぞ。視えぬと言った方がよいか……だから、おらぬというのに。落ち着かんか』


 「なら、何処に居る。何故声が聞こえる?」


思わず立ち上がり、狭い座敷牢をくまなく探ったが、人が隠れられるような場所は無かった。此方の問い掛けに、声の主は静かになる。黙った、というより困惑した空気を感じ取れた。


 『……なるほど、成程。お主の記憶はまだ混濁状態。これ程の力を持っていながら、脆弱なものよ。仕方ない、説明しよう。我はお前の中にいる。以上』


 「なるほど分からん。ちゃんと順を追って説明してくれないか」


途端に、メンドクサイという空気が漂う。あの一言で全て理解できるのは、相当の賢者か考えるな感じろ精神の持ち主だろう。


 『我はお前の中に居る。……それでよくないか?』


 「よくないな。頼むから説明して欲しい。分かりやすく。そもそも、何でわたしの中に居る?」


 『お主が我を閉じ込めたからだ』


 「閉じ込めた?……お前は何者だ?」


 『それも覚えておらんのか。我は呪ぞ。呪いと言った方がいいか?』


 「呪…、わたしは誰かに呪われた?」


 『お主ではない。お主は酔狂にも、呪の対象を自分に変えたのだ』


 「変えた。……、……お前が呪う筈だった相手の名は?」


 『ほ、思い出してきたようだの。はてさて、我が葬ったニンゲンはごまんとおる。いちいち覚えやせん』


自分の中に居るという存在は、面白がるような声音になる。こっちから訊いた方が、答えてくれそうだ。


 『だがそうだの、このような酔狂をやられたのは初めてだ。故に残っておる、しっかりとな。せんだばやしたすけ』


 「誰だよ」


 『違ったか。せ、せはついていたな。せりざわかすけ』


 「お前が人間に全く興味無いのは分かった。…せんどう、じゃないか」


 『おう、それだそれ。せんどういちのしん』


仙堂一之進。

霧が晴れるように、記憶が甦ってきた。

ぐら、と体が揺れる。


 『おい、どうした。また寝るのか?』


耐えきれない。次から次へと頭の中を駆け巡り、気分が悪くなってくる。


 『……やはり脆弱だの、ニンゲンというものは』


呆れた声音を最後に、意識が途切れた。







 『にいさん、にいさん!』


走ってくる、稲穂色の髪を持つ子供。ぎゅうと飛びついて、見上げてくる目は紅い。

仙堂の、跡取りの色。自分が守らなければならない子だ。


 『にいさん、おれ、いいこにしてたよ!べんきょうもがんばったし、たんれんもがんばった!』


例え血は繋がっていなくとも、この子は大事な、弟。

元気に今日の出来事を報告する時間が、優しい時間だった。そこに妹が加わり、より賑やかになって。

唯一の家族だった母を失い、居場所を無くした。

けれど、仙堂家に拾われ、こうして慕ってくれる弟妹ができて。守るものができて。自分はなんて、幸せ者なんだろう。

そう、思い込んでいた罰だろうか。

弟を蝕む強い呪に、自分の無力さを痛感した。祓いも、解呪も、何も効かない。結界を張り、動きを鈍らせるだけでは、苦しみを長引かせるだけ。


 『にいさま、』


弟と同じ色を持つ妹。この子から、家族を、兄を奪わせてはいけない。

そうだ。

これは、自分が受け取るモノだ。この子は、仙堂家に必要な子。何より、大事な弟。

この身に変えても、

わたし以外、誰が一之進を助けられる?







 『……――いさまっ!にいさまっっ!!』


目に涙を溜めたまま、妹が此方に手を伸ばしていた。その向こうには、呪から解放された弟。


 『もどってきてっ!いっちゃダメ!いかないでっっ!』


あぁ、良かった。助けられた。これでもウ、ダイジョウブ。


 『わたしたちが、にいさまをまもるから!だから、っ』


泣かナいデ、ミコ。コレデ良かったンダから。コノ呪は、わたしガ引き受ケル。モウ、オ前達を脅カシタリシナイカラ。


 「……、……一之進、……美虎、」


弟が必死に身を起こす。妹が結界を破ろうともがく。




 「さようなら」




お前達と出会えて、幸せだったよ。




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