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第22話

 会長に手を繋がれて、連行されるみたいに生徒会室の前にやってくる。時間帯的には、もうみんな揃っているころだろうか。


 きょう、久しぶりに教室へ行った。親友のサナも、ライラちゃんも、イヴリンちゃんも、クラスメイトのみんながあたしのことを心配していたのだと言ってくれて、他でもないあたし自身がこれまで世界のすべてを拒否していたのだと思い知った。


 これまで、なんとなくあたしは世界の外側にいるんだと思っていた。離れたいときに離れられる、だれとでもそんな関係にしかなれないと、きっと心の中では思っていたんだ。



「……覚悟は決まった?」

 会長がひっそりと視線を落としてあたしを見てくる。


「な、なんのですか」

「責められたり怒られたりする覚悟」

「や、やですそんなの……!」


 会長が怖いことを言うから思わず首を横に振れば、会長はふはっと力の抜けた笑みをこぼして、体を傾けて「冗談だよ」と呟く。


「ほら、君が開けて」

「……はい」

 会長があたしの手をドアハンドルにまで導く。あたしはごくりと唾を飲んで、ドアを引いた。


「アンディ、遅かったわね――って、アリス……⁉」

 まず始めに、目を丸めたセシル先輩が視界に入った。そして、ハリソン先輩がガタッと大きな音を立ててソファから立ち上がっている姿も。ナターシャ先輩はいつもどおりソファに寝転がっているけど、いつも眠たげな目はあたしに向けられ大きく開かれていた。


「あ、あの……。お久しぶりで……」

「アリス! 戻ってきてくれたのね……!」


 セシル先輩があたしの元に駆け寄ってきたかと思えば、セシル先輩はそのままあたしのことを嬉々として抱え上げる。


「わっ、せ、セシル先輩……!」

「アリスティア、会いたかった。アンタがいない数週間、息が詰まるかと思った」


 ハリソン先輩があたしとセシル先輩のそばにやってきて、あたしを見つめてくる。セシル先輩に持ち上げられて、ハリソン先輩とほぼ目線が同じ位置になっていたみたいだ。


「……セシル、ハリー。今後一切アリスティアとの過度な接触を禁ずるから」

「うん?」

 セシル先輩があたしをゆっくり床に下ろしながら不思議そうに首を傾げた。


「アンタになんの権限があってそんな制限を?」

「あら、ハリーがまともなことを……」


 鬱陶しそうに呟くハリソン先輩に、セシル先輩は驚いた表情を向ける。


「僕がこの学園の王だからだけど?」

「アンディはアンディでたまにある自信過剰期に突入してるし……」


 当然だとでも言うように会長が口を開いた。会長たまにこんなふうになるのか、覚えておこう……。


「……ま、そんなのは冗談だけど。権限はあるに決まってるよね、僕はアリスティアの彼氏! なんだから!」


「「はっ、はあ~~~~~~⁉」」


 すご、ハリソン先輩とセシル先輩まったくおんなじリアクションだ。会長は会長で清々しいドヤ顔を浮かべてサッと前髪を払っている。


「あ、あらあら~、いつの間にそんな仲に~……? アンディにとっては不幸中の幸い? それとも転んでもただでは起きぬってこと? おめでとう、って言いたいところだけど、まあ普通にハリーが心配ね……」


 セシル先輩が目を細めながら、じわじわと視線をハリソン先輩に移した。


「好きな相手が他の生徒会役員と付き合い出す……、うっ頭が……!」

「あ、忘れてた最新の失恋の記憶が蘇ってきてるっぽいー」


 ナターシャ先輩が頭を抱えているハリソン先輩にのんびりとした声を上げる。


「あ、アリスティア……、俺会長よりアンタにアピールしてたはずだけど、それでも会長を選んだわけ……?」

「え、あ、はい……、そういうことになりますかね……?」


 ハリソン先輩があたしの両肩をがっちりと掴んできた。背後から会長の視線を感じる。


「なんで?」

「……なんででしょう?」


 ハリソン先輩が首を傾げるから、あたしもそれにつられるように首を傾げた。


「ちょっとハリー、揺さぶりをかけないでもらえるかな! アリスティアも冷静にならないでいいから、ね!」


 会長が笑顔でハリソン先輩の腕をはたき落としつつ、そのままあたしの肩に手を回してくる。


「お疲れ様でーす、……って、アリス⁉ お前、いなくなったって聞いてたんだけど!」


 ドアが開いたとともに聞き慣れた声がして、あたしはドアのほうを見やる。


「ローレン! 久しぶり~!」

「おう、久しぶり……って、お前なんで会長にくっつかれてんの?」


「やあローレン。君にも言っておく必要があるよね。僕と彼女は付き合い始めたんだ!」


 会長が両目を伏せたまま、バシンと胸を叩いた。


「え、マジ? ……アリス、お前男の趣味悪いな……。ヤベーことになる前に考え直したほうがいいんじゃね……」

「ローレン、機嫌がいいから聞き流してあげるけど少しでも気分が下がったら真っ先に君に魔物をけしかけるからね」


「ほら、やべえんだってこういうところが……!」

 ローレンが震え声で囁いてくる。


「あはは。でも会長って、落ち込んでもなんだかんだすぐにとは言わないけどいつかは復活してるし、ほかのひとよりも立ち直る方法を多く知ってるし、そういうところがいいなあって、思う、よ?」

「疑問形じゃねえかよ」


 ローレンは呆れているけど、あたしは納得しているし、彼氏彼女って具体的になにをするのかとか全然知らないけど……、友達や先輩後輩以外の名前がつくのが、嬉しくもある。


「……まあ、そうだな。悔しいけど、会長といるときのアンタのほうが可愛く見える。……誤差の範囲だけど」


 いつの間にか地面に臥せっていたハリソン先輩が、立ち上がってあたしを見下ろしてきた。


「ハリー、一言余計」

「安心しろ、これでも失恋には慣れてる。……そう、慣れてるんだ……」


 ハリソン先輩は当たり前のように会長の文句を無視しつつ、ゆらりと体を傾けた。


「……ローレン、ハリー。君たちとはなんだかんだ冷戦を繰り広げてきたわけだけど……。勝利を手にしたからには、大事にするって誓うよ。だから、まあ、安心して?」


 会長が不器用に微笑みながら、ローレンとハリソン先輩を交互に見回す。ふたりは堅く口を結んでいたけれど、ローレンは盛大にため息をついたのち、「……泣かせたりしたら容赦しないですからね」と呟いた。


「……泣かせない、っていう保証はできないけど。泣かせてしまった数以上に笑顔にするよ」


 会長の声はひたすらに真摯だった。それに、自信に満ち溢れた笑顔を浮かべている。


 うん、そう、会長の言うとおりだ。あたしだって会長のことを傷つけてしまうかもしれないけど、それでわかりあうことを諦めたりしないで、何度でもぶつかって、そのたびにどうすればずっと一緒にいられるかを模索していけばいい。ほかでもない会長が、会長から離れたあたしを追いかけてきてくれたから、会長とならそんな日々を叶えられるってわかってる。


 みんなにもそういう会長のいいところ、あたしが好きな会長の部分を知ってもらいたいけど、やっぱりいまはまだひとりじめしていようっと。

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