第21話―2
「大切、ですか……」
アリスティアがゆったりと首を傾げる。
「そうだよ、大切だから無感情じゃいられなかった。無関心でいられなかった。だからって、開き直るわけじゃないけど……。……君がエルヴィス兄さんと仲良くなるのが嫌、だった。それで、焦って酷いことを言った。君がエルヴィス兄さんと僕の仲を取り持とうとしてくれていた理由も知らないで……」
アリスティアは黙ったままだった。アリスティアは黙ったままアンドレアを見下ろしていて、そのうえ無表情だったけど、アンドレアは懺悔することをゆるされているような気になった。
「……それに。この間僕の言ったことは、全部間違いだった。君がいるから僕が存在できるんだよ。君みたいな光がいるから、僕は居心地のいい影の中に住んでいられるんだ。全部間違ってたのは僕だ、僕のほうだったんだよ……」
「かいちょうは、間違ってないですよ……。でも、この前の言葉よりも、今出した言葉のほうが、かいちょうにとって心地のいいものなら……。会長にとってはより正しい答えが出せたってことですよね」
「……うん、そうだね。ああもう、アリスティア、君には全然敵わないな」
アンドレアは前髪をくしゃりと掴む。
「……ゆるされたいとは思わない。でも、どうかキャンバスの中から出て来てくれないかな。君と話せないのは、どうにも寂しくてさ……」
本心を打ち明けるのが苦でなくなった。きょう一日でアンドレアは気づきと成長を重ねているが、望むのはただひとつだった。
「……そう思ってくれるのは、嬉しいんですけど……。あたしちょっと、キョーボーになっちゃって……」
「んん?」
「会長の発してる魔力とか、涙とか、美味しそ~に見えます……」
アリスティアが気まずそうにしながらぽつぽつとそんなことを零す。
「……えっと?」
「あ、えっと、つまり……。おねがい、会長! あたしのこと、キャンバスごと壊してください!」
アリスティアが両手を組んでまぶたを伏せて、そんなことを懇願してきた。アンドレアは、その意味を真に理解して――目を丸める。
「――はぁあああ~っ⁉ そんなことするわけないだろ……!」
「でも、あたしこのままじゃルシィといっしょにご飯を探す旅に出ちゃうから!」
「そんなことさせないし、君とルシィのことも討伐しないからな!」
「そんなこと言わずに頼みますよ~っ! 人間を傷つけたくない理性とお腹が減っちゃう本能が何度もファイトを繰り返してて疲れちゃったんです~! 会長がどうにかしてくれたら、それでもうゆるしますから、全部!」
ねっ? と首を傾げて潤む瞳でこちらを見上げてくるアリスティアに、アンドレアはぐっと喉を鳴らす、が。
「……君、家族が何人いてもいいってエルヴィスに言ったそうだね」
「へ? あ、はい……」
「ねえ、契約しようか。それで、僕の三組目の家族になって?」
アンドレアはアリスティアの左手をとって、己の指と絡める。
「……はい? えっと、それはあたしを使い魔として、ってことで……?」
「まあそのあたりは君の好きに捉えたらいいけど。君は魔物と婚姻届を出すひと、見たことある? ないよね?」
「こッ、こんいんとどけ……ッ⁉」
アリスティアの顔がみるみるうちに赤くなる。アンドレアはそのアリスティアのさまが面白くて、意地の悪い笑みを深めていく。
「それに、完全に魔物になったわけじゃないだろう? まあ、君がどんな姿でもどうだっていいけどね。一生君がそこに引き籠もってたって僕は普通にキャンバスにキスするよ」
「キッ、キ……⁉」
「……いい加減伝わった? 僕はそういう目で君のことを見てる」
アンドレアはアリスティアの額と自分の額を合わせて、真ん丸の青い瞳を至近距離から覗き込む。あわあわと見るからに焦った顔をしているから、アンドレアはくすっと微笑む。
「つっ、伝わりましたけど……! い、色々すっ飛ばしすぎですよ……!」
「そう? むしろこれまでが亀みたいに遅かったと思うんだけど?」
「で、でも、それにしたって……。……わ、わかりやすい言葉がほしい、です……」
アリスティアの絞り出すような声に、アンドレアは「あぁー」と納得したように声を上げた。そして、拒否されていないこと、それどころか受け入れられていることを理解して――鷹揚と微笑む。
「好きだよ、アリスティア。僕と付き合って?」
アンドレアがアリスティアの頬を撫でれば、アリスティアはいっそう頬を赤く染めた。
「は、はひ……」
「うん、よろしい」
アリスティアの返事に、アンドレアは満足げに微笑みを浮かべる。それからアンドレアはアリスティアの照れた表情を見下ろしながら、絡ませている指にどんな指輪をはめるかを考えていた。




