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第2話―2

「すみませーん、遅れました――」


 生徒会室のドアを開けつつそう挨拶をして顔を上げると、室内にはすでにホワイトボードを囲むようにして会議をしている面々がいた。


「もう始まっちゃってたんですね」

 ホワイトボードの前に立って、指示棒でボードをバシバシ叩いていた会長がふとあたしに視線を向けた。


「ああ、ごめんつい。全員揃ったかと思ってた」

 先ほどまでしていたであろう話を中断させたからか、会長は腕をわずかに下ろしつつ、とぼけたような顔をしている。


「ええ、そんなあ! あたし忘れられてたんですか~っ⁉」

「ごめんってば。君には任務の話は早いかなとも思っていたし、かけらも頭になかったわけでは……」


「いいわけゴムヨウ! と言いたいところですけどっ、次からはやめてくださいねー!」

「ああうん……。肝に銘じておく……」


 会長のその言葉を聞き届けて、あたしは鞄を肩からおろしつつ、空いているローレンの隣の席に腰かける。ローレンは頭の後ろで手を組んでいて、ちらりと横目であたしを見たあと、またすぐホワイトボードに視線を移した。


「アンディ、最初から説明してあげたら?」

 セシル先輩やっさしい! 困っているあたしを見かねて助け船を出してくれたみたいだ。


「……学園近くにある屋敷に住む大富豪が魔物を大量に保護・飼育しているという噂が、魔物ハンター界ではまことしやかに囁かれていてね。その上繁殖させたり、他国の愛好家に売り捌いているらしい。まあ、密輸ってやつだね。魔物の売買やひとの手による繁殖は法律で禁止されているからやめさせないとね。ちょうど彼が、もうすぐ舞踏会を開くというから、魔物解放と殲滅のために舞踏会に潜入したいという話をしていた」


「舞踏会……!」

 なんてタイムリーな話。あたしはきょう舞踏会に誘われたところだった。さすがにこの任務には関係がないだろうけど。


「本来は僕らが介入できるような案件ではないんだけど、屋敷が学園近くということもあって、僕たちも影響を受けかねない」

「なるほど~……」


「舞踏会中はパーティーホールに主催者である富豪の男がいて、それ以外の箇所は手薄になるはず。そこが狙い目というわけだよ」


 会長の指示棒の先が、強調されている「狙い目!」という文字に向けられた。


「潜入に際しては、あらかじめ魔物が保護されているであろう場所のめどをつけられたらいいんだけど……」

「あ、それならワタシの使い魔ちゃんの出番かしらね!」


 セシル先輩が意気揚々と杖を振るえば、宙から小さなキャンバスが現れて、それが段々と大きくなってくる。そしてそのキャンバスの上で縁を描けば、キャンバスの上に黄色のたぬきが現れた。


「ああ、マミィなら確かに人間の姿に化けられるね……。一週間ほど使用人として潜入してもらおうか」

 黄色のたぬきはマミィという名前らしい。


「だって、マミィ。このひと魔物づかい荒いわよね~」

「使い魔の出番だって言ったのはセシルだろ……!」


 迷惑そうに眉根を寄せる会長に対して、セシル先輩はそんな会長を見ておかしそうに笑っている。


「……まあいい。事前調査はセシルの使い魔に。当日は、できれば避けたいけど、僕の使い魔に魔物の匂いを辿ってもらう形で……」


 トントン拍子に話が進んでいく姿を眺めて、会議し慣れているんだなあという気持ちが湧いてくる。三年生だし、二年くらいは生徒会にいたのかな、先輩たち。


「それじゃあナターシャ、招待状の入手と当日の経路案内をお願いしたい」

「はいはーい……」



「ねえねえ、ローレン」

 暇になったあたしは、会長たちの声が先ほどまでよりぼやけているのを感じ取りつつ、隣の席に座るローレンに小声で話しかけた。


「……ンだよ」

 あたしに脇腹を小突かれたからか、ローレンは腕を下ろす。


「あたしね、さっきクラスの子に舞踏会の招待状もらってー。男女ペア? だったら参加できるみたいだから、ローレンに一緒に来てほしいんだけど、どお?」

 鞄にあるクリアファイルの中から、今朝もらった招待状を取り出し、ローレンの前にちらつかせる。


「どうってお前、オレがダンスできるように見えんのかよ」

「んー……。できそう!」

「あーそう、そう言うと思ったわ。そんでできねーし……」


 ローレンが呆れたように、ふて腐れたようにため息をついた。見透かされていたみたいだけど、あたしってそんなにわかりやすいかなあ?


「えー、あたしだって今のところできないよ? 当日までに覚えられなかったらふたりでお喋りしてようよ~。再会したっていうのにゆっくりお話する機会なかったしさ~」

「……う、それは確かに、そうだな……。おい招待状ひらひらさせんな、読めないだろうが」

「見る気になってるー!」

「うっせ!」


 照れ隠しか、ローレンがあたしの手から勢いよく招待状を奪い取った。あたしはにやにやが抑えきれなくて、その表情のまま招待状を読んでいるローレンの顔を覗き込む。


「は? これ……。主催者バーネットじゃねえか!」

「ん? どちらさま?」


「なんだって?」

 あたしがバーネットさんについて尋ねると同時に、先ほどまでセシル先輩やナターシャ先輩と話していた会長が、不意にあたしたちの会話に入り込んできた。

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