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第13話―1 勧誘

 背後から、規則的に鳴る革靴の音が聞こえてきた。生徒会室に向かっていたあたしは、その靴音はいつか聞こえなくなるだろうと思っていたんだけど、一向に鳴り止む気配はない。ここから先はお客さんの控え室とか、学園長室とか、生徒会室しかないんだけど。


「そこのあなた」

 芯があって、廊下中に響く低い声が、だれかを呼んでいる。


 視線をさまよわせていると、ふとだれかに肩を掴まれて、あたしは飛び上がった。


「おっと、そんな驚かれずとも」

 振り返ればそこには、戸惑ったように笑っている男の人――黒衣会の会長さんがいた。


「あなたはアリスティアさんですね? グレッグとセシル先輩から聞きました」

 ジェラルドさんは人当たりのいい笑みを浮かべている。会長とはまた別種の柔和さがただよっている気がする。


 ――セシル先輩と繋がりがあったってこと、隠す気ないんだ……。


 グレッグ先輩に聞いた、ってことは、グレッグ先輩がけさあったことを全部このひとに話したのかも。


「私は黒衣会の会長、二年のジェラルドと申します」

「あ……、はい、知ってます……」

「おや、それなら話が早いですね」


 あたしの返事に、ジェラルドさんはパッと表情を明るくした。グレッグ先輩、あたしがあの演説を聴いてたってことは言っていないのか。


「それなら、黒衣会がどんな目的で存在しているのかも、もうご存知ということですよね?」

「魔物保護、ですよね……」

 早く生徒会室に行かないとハリソン先輩に必要以上に心配されて大変なんだよな、と思いつつ、一応とばかりに答えてみる。


 あたしの返事に、ジェラルドさんは満足げに頷いた。そして、あたしの顔を覗き込んでくる。


「アリスティアさん、あなたはたくさんの魔物を連れてらっしゃるようだ。それも契約をしていない魔物を」

「えっ……、あ、はい、わかりますか」


「ええ、私くらいになればわかります。あなたは魔物愛に溢れた方だと、セシル先輩からも聞き及んでいますしね」

 セシル先輩色々話してるんだな……、と思いつつ、にじり寄ってくるジェラルドさんから後ずさる。


「あのぉ……、あたし生徒会があるんでぇ……」

 だから解放してほしい、と遠回しに告げるけど。


「まあ、いいではありませんか。ここでお会いしたのもなにかの縁ですよ」

「この階生徒会室くらいしかないですけど……⁉」

「見かけによらず細かいひとだ」

 ジェラルドさんは目を伏せてため息混じりに言ってくるけど、ぜったいあたしが細かいんじゃないと思う。


「では、単刀直入に言いましょう。あなたはせっかちなようですし。……アリスティアさん、黒衣会に入ってくださいませんか?」

 ジェラルドさんが、あたしの手をとった。腰を低くして、あたしを見上げている。


「……え、や、あの……、いやですけど」

「なぜ? 魔物愛好家であるあなたが、白亜会に所属する理由がわからないのですが。私たちとともに魔物の保護活動を行うほうが、あなたのためにもなりますよ」


 パチンとウィンクをするジェラルドさんに、あたしは眉をひそめながら首を傾げた。


「うーん、なぜって言われてもなあ……。セシル先輩を、というか人を買収するようなひとたちですし……?」

「それを言うと、買収されるようなひとがいる組織ですけどね……」

 ジェラルドさんが苦笑いを浮かべる。

「あ、それもそっか……」


「……ああ、わかりました。アリスティアさん、あなた白亜会のひとたちに愛着や義理があるから、離れがたく思っているんでしょう?」

 ひらめいた、と言わんばかりにジェラルドさんが晴れやかな表情になった。


「あいちゃくやぎり……」

 いまいちピンとこない言葉の羅列だけど、どう反応したものか。


「え、えっとぉ……、とりあえず、いたいところにいるってそんなにだめなことですか? そりゃ、目的とか、あたしと白亜会とじゃ違うかもしれませんけど、居心地がいいことには変わりありませんし」

「しかしですねえ、そう思っているのはアリスティアさんだけでは?」


「……ほほう」

 聞かせてみよ、という気持ちでジェラルドさんの言葉にいっそう耳を傾ける。


「あなたの前で魔物を退治するのは……、と、だれもかれもがあなたに気を遣って、業務に支障を来しているのでは?」

「え、うーん……、そう見えてますか?」


「ええ、少なくとも私には」


 たしかに、いままでそんなふうに考えたことなかったかも。いままで見落としていたことの重大さに気がついたけれど、よくよく考えてみれば、あたしとの方針の違いであたしや白亜会から離れたのはローレンだけではあるし……、だれもかれもが、というわけでは……、と首をひねる。みんな、最初にあたしがお願いしたように、あたしに遠慮せず魔物討伐に勤しんでいる。だから、うん、大丈夫なはずで……。


「――たしかにそれは心配かもです。でも白亜会のみんなはそう思ってても嫌~な感じで面と向かっては言ってこないし、離れたいほどあたしのことを無理って思ってても、わざと傷つくような言葉選びとかしないですから、ジェラルドさんが心配するようなことはないです!」


「え、や、心配しているわけでは……」

 そう否定するジェラルドさんだけど、あたしは「またまた~」という気持ちだ。だって心配してないとわざわざ本人に言ったりしないでしょ?


「それにあたし、まだショムの仕事内容会長に教わってないし! あたしをショムに任命したからには、なにをやるのか教えるのが会長のセキニンってもんじゃありません? どう思います、ジェラルドさん!」

「え? あ、はい、そのとおりだと」


「ですよね! っていうわけでもうそろそろホントーに生徒会室に行かなきゃヤバいんです! それでは!」


 あたしはサッと手を挙げ、身を翻して走り去る。背後からジェラルドさんの声が聞こえてくるけど、本当に相手してる暇ないんだから……!



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