第11話―1 黒衣会
なにやら廊下に人がごった返している。
生徒会室に向かう途中だったあたしは人の間をすり抜けて階段をのぼっていくことができず、見事に人波にさらわれてしまった。
すし詰め状態に目を回していたけれど、ふとみんながある一点のほうを向いているのに気がついて、あたしもそれにならうように体の向きを変える。すると、廊下の突き当たりで、椅子かなにかを土台にしている人がいるのがわかった。
そのひとはざっと廊下全体を見渡したのち、意気揚々と口を開く。
「やあ、みなさん。お集まりいただきありがとう。本当は体育館で話をしたかったんだけど、あいにく許可がとれなくて。すみません」
「……キミ、いま来たところだよね? このチラシ、あげるよ。さっきあのひとが配ってたやつ。おれ、余分に持ってるからさ」
不意に隣にいたひとに声をかけられて、なすがままにA4サイズの紙を受け取る。ただいま読み始めると前に立っているひとの話に集中できなくなるから、読むのはあとでだ。
「さっそくですが、あなたは魔物についてどんな感情を抱いていますか?」
廊下のざわめきが、いっそう強くなる。みんな隣にいる友達に意見を話していたりするんだろうか。
「きっと多くの人はこう思っていることでしょう。『怖い』『攻撃される』『凶暴だ』、魔法が使える方であれば『魔力が吸われてしまう』……など」
つらつらと言葉を羅列したのち、そのひとは「ですが」と首を横に振った。
「魔物の中には、友好的な個体や、知能の高い個体が多く存在します。そして、犬や猫、うさぎなんかの、我々人間がペットとして親しんでいる動物に姿形のよく似た個体が大半を占めている」
学園で飼っている魔物のサティは猫型だし、会長の使い魔も犬だったはずだ。あたしの友達のルシィやセシル先輩の使い魔のマミィもあたしに優しくしてくれる。あと、ハリソン先輩は知能の高い魔物を専門に退治しているらしいし――と、話を聞きながらここ最近手に入れた魔物についての情報を思い出す。
「実際、魔物を使い魔として使役している人もいらっしゃるでしょう。そういう方々は、魔物が怖いと怯える方々に対し、『そういう個体も存在するから、そう思われるのは仕方がない』などと自分に言い聞かせて、魔物を理解してもらうことを諦めてきたのでは?」
その言葉で、廊下中がしん、と静まり返る。あたしは、もうとっくに生徒会室に行く気が失せていて、気づけばチラシの端がしわくちゃになるくらい、手に力を込めていた。
「私は、そんな使い魔を使役するマスター、魔物への愛着を抱く方、そして、これから魔物を愛するかもしれないみなさまに寄り添い、そして魔物を保護することに情熱をかける組織――黒衣会の会長、ジェラルドにございます」
男の人――ジェラルドさんが恭しくお辞儀をすれば、みな一様に拍手をし始めた。あたしもチラシを脇に挟んで、両手を叩く。
拍手が鳴り止んだ頃、ジェラルドさんは顔を上げて、またにっこりと笑みを浮かべた。
「ところで、この学園の生徒会、『白亜会』の実態について、みなさまご存知ですか?」
不意に話が変わって、それも生徒会の実態だなんていう話題に切り替わるから、あたしは思わず目を丸めた。
もしかしてこれって、とめたほうがいいやつ? でもあたしとジェラルドさんの距離はものすごく遠い。廊下の端と端だし、そもそも辛うじて声が聞こえる程度だった。
「まず、彼らは全員使い魔を連れているのはご存知ですよね。使い魔を連れている人しか生徒会に入れないだとかいう噂があるくらいですから」
生徒会役員だけど、そんな噂は知らなくて素直にほえ~と感嘆の声を漏らす。
「――ですが。彼らは日々、使い魔に指示をしたり、また武器や魔法を用いたりして、魔物の退治をしていることはご存知ですか?」
ジェラルドさんが深刻な声色で問いかければ、それまで騒がしかった廊下が、しん、と静まり返った。
「ペットのように愛らしく、知的で、我々に友好的な魔物を、彼らは同族同士戦わせ、退治している。そしてそれを我々一般生徒に隠している。白亜会という生徒会の役割のひとつだとしても、魔物ハンター協会という存在が一般的に知られており、世間にも受け入れられているのに、なぜその役目を隠す必要があるんでしょうか? やましいことがあるからに違いありませんよね。そんな彼らの悪行を見過ごすことができますか?」
確かに、なんで隠さなきゃいけないんだろう、とは思っていたけど。でもそれは、ほかの生徒たちを危険から遠ざけたいからで。魔物はハンター協会の人が退治するのが一般的だから、一学生である白亜会のひとたちでも魔物を退治できると知られてしまえば、ほかの生徒も魔物を退治しようとしてしまうかもしれない。それは避けたいんだ――と、白亜会の役目を知られてしまうことを危惧している会長の言葉を思い出す。
でも、それって伝えられるのかな? 伝えてしまったら白亜会が魔物退治組織だって認めるようなものじゃない? いまだったらただの真偽不明の情報として処理されるかもしれないけど、生徒会役員であるあたしが表立って否定してしまえば、疑惑は深まってしまうかも。




