第10話―1 蟒蛇
緊急ミッション:一般生徒に生徒会の真の役目を知られないようにしつつ、ヘビ型魔物・エンヴィを討伐せよ。
頭の中でそんな風にかっこいい文字列が浮かび上がって、不謹慎ながらちょっとだけテンションが上がった。でも今回突然降って湧いて出たこの緊急事態を対処するための方法が簡潔にまとまっていていいと思うのだ!
ヘビ型の魔物はエンヴィと言うらしい。詳細な居場所はわからないけれど、校舎内をうろついているということはわかっているから、校舎から出られないように先輩たちが結界を張っているところだ。とはいえ学園全体に張られている結界も破ってきたと考えられるし、校舎から出て来てしまうのも時間の問題かもしれない。ちなみに、生徒たちは体育館に避難してもらっている。
そういうわけで、あたしたちは校舎内に三人、校舎の外に三人という体制でエンヴィの様子を確かめつつ、捕獲の機会をうかがっているところだ。
とはいえハリソン先輩はナターシャ先輩のホウキに乗せてもらっていて狙撃の準備をしているし、実質あたしは一人行動なんだけど……。
『……アリスティア、聞こえる?』
「はい、なんでしょう!」
『結界が破られて校舎外に出た気がする』
「え、エンヴィがですか⁉」
耳に入れた通信用魔道具の奥で、会長の唸り声が聞こえる。冷静ではなさそうだけど焦ってもいなさそうで、どうしてそんな調子でいるのか気になった。まあ、危害を加えてくる様子がないからかもしれないけど……。
『とりあえず、校舎の裏のほうに行ってくれない? そっちから気配がする』
「りょうかいでーす!」
今回に限ってあたしの鼻が利かないんだけど、会長はエンヴィの気配を感じ取れているみたいだ。
会長に言われたとおり、あたしはグラウンド側から移動して。校舎の裏側の、日の当たらない影の中、あたしは魔法で周囲を照らしながら慎重に歩く。
エンヴィの足跡――というか、移動したあとは見つからない。
「かいちょー、こっちにはいないみたいですよ~」
あたりを見回しながら、あたしは通信機器の奥にいる会長に話しかけた。
『僕の勘が信じられないって言うの、アリスティア?』
耳に填めた魔法デバイス越しに非難するような声が聞こえてきて、あたしは首を横に振る。
「えーっ、そんなんじゃないです!」
すかさずそう否定するけど、見つからないのは事実なんだし仕方ないよね?
『まあいいや、僕もそっちに行くから……。って、うわ!』
不意に会長の驚いたような声が聞こえてきて、あたしは目を丸めてぴたりと足をとめる。
「かいちょー? かいちょ、……会長――!」
あたしが叫んでも、会長からの返事はなかった――
その直後、あたしの目の前に無数のガラス片が落ちてくるのが見えて。
「……え?」
「アリスティア、大丈夫か……!」
切羽詰まった顔のハリソン先輩と、嫌そうな表情をしているナターシャ先輩が頭上に現れた。ハリソン先輩がホウキを飛ばすように急かしたのかも、なんて思いつつ。髪の毛に積もっているであろうガラスの破片を、頭を左右に振って払う。
「あたしは平気です! 会長と会話してたら急になにも言わなくなっちゃって、そっちに気をとられてたから、なにがあったのかわからないんですけど……」
ゆっくりと下降するナターシャ先輩とハリソン先輩を視線で追いかけつつ、なにがあったのか知っているかもと思い遠回しに問いかける。
「時系列で話すと、魔物は今俺たちがいるところに現れて、巨大化して、最上階にいる会長を窓越しに見つけて窓割って無理矢理会長のほうに移動した――ってところ。ヘビを見つけてはいたが、コイツがノロノロ運転するからなかなか射程範囲に入らなくて……」
「人のせいにしないでくださーい、アリスティアサンに気をとられてただけのくせにィ~」
「一人行動になったアリスティアを心配してただけだけど?」
「それを気をとられてるって言うんすよー」
あたしがここに来たときはエンヴィの姿を見つけられなかったけど、直前まで近くにいたということか。なんなら、目と鼻の先にいたのかも。それほどまで近くにいて見つけられなかった自分に驚くけど、あたしはエンヴィの大きさを把握していなかったし、通常のヘビと同じくらいのサイズだろうと思って、なんとなく地面ばかり見ていたから、視野が狭くなっていたのかも。
「……えっと、つまりエンヴィは会長を狙ってる……ってこと? 大変じゃないですか、助けないと……!」
「むしろ会長狙いでよかった。会長ならひとりで対処できるだろ」
「こればっかりはハリソンの言うことに賛同するっすー。解散しましょー、解散。寝てるとこ起こされて最悪な気分なんすよねー」
狙撃銃を片づけつつホウキから降りてしまうハリソン先輩に、あくびを零してホウキに横たわるナターシャ先輩。どうやら本当に解散する気らしい……。
「え、ちょ、先輩たち……!」
慌てて呼びとめるけど、ハリソン先輩はあたしに向かって「帰ろう」なんて言いつつあたしに手を伸ばしてきた。
『……僕は本ッ当に薄情な後輩を持ったみたいだね。アリスティアの言うとおり助けに来ないとゆるさないからな……!』
ふと、ジジジと通信用魔道具が音を立てて、会長の声を伝えてくる。無事ではないかもしれないけど、なによりも声が聞こえたことにほっとして、あたしは胸を撫で下ろした。
「げっ、会長に聞かれてた」
「アリスティアサンも後輩ですけどー」
『アリスティアは別に決まってるだろ!』
「うわ、贔屓はんた~い」
『御託はいいからさっさと来い……!』
やっぱり会長、助けを求めてるってことで合ってるみたい。




