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第9話―3

 ところで、任務の翌日からきょうまでずっと、朝は寮の共用談話室でハリソン先輩に待たれてて教室まで送られている。加えて放課後になれば教室に迎えに来られて、生徒会が終われば一緒に寮に帰るのが日課になっているんだけど、それっておかしいんだっけ? だめだ、感覚が麻痺してきている。そんなことを本人に言ったが最後、熱烈に喜ばれそうだな……。


「……あれ、僕勝手に思い込んでたんだけど。もしかしてふたりって本当に付き合っ……てるの……?」


「あたりまえだろ」

「ちがいます!」

 首を横に振るあたし、縦に振るハリソン先輩に、会長は見るからに困惑している。


「……どっちの言ってることが本当?」

「ハリソン先輩にはあたし、お付き合いとか興味はないかなーって言いましたよね……」


「そうだっけ。俺アンタの言ったこと全部覚えてるけどそんなこと言われた覚えはないな」

 ハリソン先輩の明け透けな物言いに、なぜだか会長がげっそりとした顔で肩を落としている。


「都合のいい頭してるね……。まあここは普通にアリスティアを信じるけど……」


 そう呟いたあと、会長は俯いてなにやらブツブツと独り言を零し始めた。ついつい、顎をさするしなやかな指をジロジロと眺める。会長いっつもペンとか杖を握ってるから、手の皮案外硬かったりするのかな。


「まあ、まだ付き合ってないなら、何度でも告白できるってことではある」

「なにその無駄なポジティブシンキング……」

「あ~、そういう考えもありますね!」

「そしてなんで納得しちゃうのアリスティア? だからつけ込まれるんだよ……!」


 でも告白されるならふわふわもちもちの女の子のほうが嬉しいかな、うん。


「……うわ、おい、勝手に出て来るな……!」

 ふと、ハリソン先輩の鞄からピンク色のうさぎがにょきっと顔を出して、ハリソン先輩が慌てて駆け寄る。


「あの子は?」

「ハリーの使い魔」

 指を差して尋ねれば会長が簡潔に答えてくれる。


「勝手に出て来ることなんてあるんですね……」

「契約の拘束力が弱ければ、または弱まっていれば勝手に出て来るのもおかしいことではないよ。あと、使い魔とリンクしている契約主のネガティブな感情が高まれば勝手に出て来るという説も……」


「ほほう。ハリソン先輩に限って契約の拘束力が弱いなんてことはなさそうなので、後者の説を採用しましょうかね?」

 ところでハリソン先輩と使い魔のリンクしてる感情ってなんだろう?


「あー、うー……、とっととキャンバスの中に戻れ、モディ……」


 あれ、ハリソン先輩もローレンや会長とおんなじ感じで、使い魔――というか魔物が嫌いなタイプ? でもサティには優しくしてたよね。あとあたしの連れてる魔物に挨拶したいって言って、あたし抜きでルシィと長時間話してたこともあるし。


 あたしは疑問を解消すべく、うさぎをキャンバスに押し込んでいる最中のハリソン先輩に近づいた。


「えぇっと、ハリソン先輩も魔物が嫌いなひとだったり……します?」

「え? なんで?」

「この子のことあんまりかわいがってなさそうだし……? それに、お姉さんのこともありますし……」


「いや、べつに。魔物全体が嫌いってわけじゃないけど。人間と同じで、悪いヤツもいればいいヤツもいるよな……、って、そういうふうに思ってる。俺がコイツを嫌いなのは、コイツに俺の感情を見透かされてる感じがして嫌なだけ……。ルシィさんとは仲良くさせてもらってる。また挨拶したい」


 なるほど、とあたしが呟くと同時に、パッとモディがキャンバスの中に消える。狙撃銃で魔物を撃つのにためらいがなかったように思えたけど、あれはハリソン先輩の中で悪い魔物と認定されたがゆえのものだったんだな、と納得した。それと同時に、広い世界の中でも珍しく、魔物を全体ではなく個として捉えているひとに巡り逢えていたことにひそかに感動した。


「えへへ、なんだかうれしいです、ハリソン先輩」

「え、なんでかわかんないけどアリスティアを喜ばせられた。笑顔かわいいな。よくやった数秒前の俺」

 ハリソン先輩がクールな無表情のままガッツポーズをするのがなんだかアンバランスで面白くて、あたしはまたにへにへと笑ってしまう。


「……あ、そう。そうか、たしかによくよく考えればアリスティアとハリーのほうが相性いいよなきっと。考え方も似てる気がするよ、うん。だって僕とアリスティアじゃなにもかも真逆すぎる……、同じ時代に生まれて同じ学校に在籍してたことがむしろ奇跡。そして僕は奇跡を使い切った。アリスティアとの出会いに僕の一生分の奇跡を捧げて僕は死ぬ。そういう運命だったんだ……。なんだか納得しちゃったや……」


 会長の体がふらりと傾いて、そのままドアに寄りかかる。


「ん? 呪詛が聞こえる。魔物か?」

「魔物のこと会長って言ったら失礼ですよ! あれ、逆?」

「ハハハ! まるっきり逆!」


「そうか、僕は罪深い間男だったんだ……。よくてふたりの恋を燃え上がらせる舞台装置、燃料ってわけね……。お役御免になったみたいだから僕は去るよ、ハハハ……。さらなる試練に気をつけるんだよ、元障害物からの助言さ、ハ、ハハ……」


 会長は出て行くつもりらしく、あたしたちに手を振りながらドアを開けた。


 すると、その瞬間。

「みんな、ヘビの魔物が校舎中を移動してるから逃げて――!」

 注意を促すそんな声が聞こえてきて、あたしはハリソン先輩と顔を見合わせた。


「……え、校内に魔物が? おかしい、そんなはずは……。学園には魔物対策の結界が張られてるはずで――」


「アリスティア、避難誘導しに行くぞ」

「はいっ」

 会長がなにやらブツブツと唱えているその横をすり抜けて、あたしとハリソン先輩は校内を駆け出した。


「ハッ……! また僕は出し抜かれた……!」

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