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第9話―2

 ハリソン先輩と任務に行った日から数日が経った。ハリソン先輩は任務の翌日にはいままで出していなかった報告書をすべて協会に提出して、おとがめなしということになったらしい。


 協会側はクレームを入れてはいたものの本当に素直に出すとは思っていなかったようで、ハリソン先輩に提出理由を尋ねたところあたしが原因だと話したらしく。通信魔道具越しに、白亜会とのやりとりを担当しているという協会のひとにお礼を言われたのはなかなかに面白い体験だった。


 それからもうひとつ進展があって。ハリソン先輩はお姉さんが魔物に被害を受けたことを協会に話したそうだ。これからは協会とハリソン先輩、ひいては白亜会も協力をしてお姉さんの捜索をしていくことになる。なにはともあれ、ハリソン先輩がひとりぼっちから脱出できてよかった!


「なあアンタ、甘いの好き?」

「食べ物ですか? 好きですよー」

「よかった。きのう依頼人に礼だって言われてクッキー大量にもらったんだ、一緒に食べよう」


 ソファに座るとハリソン先輩がとんでもなく距離を詰めて座ってくるのはもう初日には慣れた。ハリソン先輩の体って冷たくて、走ったあととかにくっつかれるといい感じに体が冷えていくんだよね。


「口開けて」

「自分で食べれます」

「ホントか? そんなちっちゃい口で?」

「ハリソン先輩に比べたらちっちゃいかもしれませんが!」


 ところでハリソン先輩がこんな態度になってもう一週間くらい経つけど、全然元どおりにならなさそうです。一週間前のアリスティアが言っていた一過性だってことは嘘ってことですよね? 一週間前のアリスティアさん?


 脳内で記者会見が開かれているけど、どうやって答えたものだろうか。


「ところで、いくつか式場を見繕ってきたんだけど」

「なんの式です?」

「決まってるだろ、俺たちのけっこ――いてっ」


「はいそこ、必要以上にひっつかない、生徒会業務に関係のない話をしない、長ったらしくお茶をしない……!」


 あたしの横で不意にハリソン先輩が頭頂部を押さえた。


 視線を声のしたほうに向ければ、そこにはなぜか怒髪天を衝くような勢いのある表情を浮かべた会長がいた。会長は丸めた書類の束で肩をトントンしているが、ハリソン先輩の頭を叩いたのはその書類の束らしかった。


「副会長とかよくお茶してるし、無駄話よくふっかけてきますけど」

 ハリソン先輩はソファから立ち上がりつつ、反論を開始させる。けど、会長は腕を組んだきり返事をしない。


「ナターシャに至ってはよく寝てるし、一年坊もほとんど来てないし」

「……ぐぐぐ」

「アンタのほうこそ私情入れてんじゃないの?」


「……君ね、先輩への口の利き方がなってないんだよ。一回、格の違いってやつをわからせてやろうか……?」

「あーあー、会長サマが話逸らしたー。図星なんだぁ、ぷぷー」


 最近このふたりよく喧嘩するんだけど、そういうときは大概セシル先輩がとめてくれていたのに、いまは不在だ。ナターシャ先輩も。どうしたらいい? あたしに飛び火する前に逃げちゃおうかな……。どうやらいままでのも全部、あたしが原因の喧嘩みたいだし、あたしがいなくなれば万事解決、世界平和! あたしはどちらかというとあたしがいてこそ平和になる空間にいたいのだ!


 というわけでお皿に盛られたクッキーを数枚いただきつつ、そろそろと忍び足で生徒会室のドアに向かう。


「……っアリスティア、君も大概だ! こんな図体も態度もデカい男に絡まれているのになんで拒否しない⁉」

「ぎゃっ見つかった!」


 ぎぎぎ、と首だけを動かして、会長とハリソン先輩がいる魔の空間に目を向ける。


「なんで驚くの? ……あ、もしかして逃げようとしてた? 無駄だからねアリスティア。この学園内に君の逃げ場なんてないよ、なぜならこの学園を牛耳っているのは生徒会長である! 僕だから! 僕が声をかければみんな君を探すのに協力してくれるんだよ! 教師さえもね!」

「いままさに体と声のおっきいひとに絡まれてるんですけど……」


 びびび、とあたしのことを何度も指差しつつ、てくてくと早歩きしたくてもできないみたいな足取りをした会長があたしの前にやってきて、あたしは思わずげっそりとした声を上げてしまった。どちらかというとあたしに絡んでくる回数が合計で多いのって会長だと思うんですけど……。


「えっと、拒否しない理由ですっけ……? べつにまだ嫌なことされてないからですかね……、単純に」

 そんなことを呟いた途端、ハリソン先輩が即座に駆け寄ってきた。


「聞いたかよ会長! 嫌じゃないって! 俺、毎朝毎晩アンタにホットミルクつくるから、ホットミルク以上にあったかい家庭築こうな。うん決定」

 ハリソン先輩はあたしの両手をとって、熱烈にそんなことを言ってきた。暗い色をしていると思っていたハリソン先輩の瞳がこれ以上ないくらい輝いて見えるけど、これはあたしの主観ではないと思う。


「……ふ、ふふふ、嫌じゃない、とは言ったね確かに。でも好きだとは一言も言ってないだろ、君は思い上がり過ぎだハリソン……!」

「え? その『思い上がり』~? ってのはいつか事実になるんで、ハイ」


 ハリソン先輩があたしの肩を引き寄せつつ寄りかかってくる。うん、これもよくされる。


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