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第9話―1 火花

 生徒会室のドアをくぐる。いつもどおり「こんにちはー!」と挨拶をして、手に持っている報告書を、デスクに座る会長に差し出す。


「ああ、お疲れ様、アリスティア――って、う゛ぇっ⁉」

 ふと顔を上げた会長が、声にならない声を出してぎょっと目を丸めている。目玉が飛び出ていないのがむしろ不思議。


「アンタの字って丸っこくて可愛いよね」

「どーもです!」

「はは、謙遜しないとこも好き」

 ハリソン先輩はあたしの背中にひっつきつつ、耳元で甘ったるい声を浴びせてくる。


「……ど、どどど、どういう状況……っ」

 目の前で会長が震えている。可哀想なことしちゃったかな。


「ハリソン、こんどはアリスティアサンに目ぇつけちゃったっすかー……」

「みたいね……」

 ふたつの声に振り返れば、ナターシャ先輩とセシル先輩が互いに顔を見合わせていた。


「あのーう、こんどはってどういう意味です……?」

 ふたりの口振り的に、ハリソン先輩がこうなるのは一度目のことではないようだった。


「昨年度までは、先代の副会長にそういう態度だったのよ、ハリー……」

 セシル先輩が額に手を当てながら、ため息混じりに答えてくれる。先代の副会長って、きのうハリソン先輩が言っていた「背中を押してくれた」ひとだろうか。


「でも先代の副会長、先代の書記のひとと付き合っちゃって、見事失恋してたっすねー。それ以来ハリソン、副会長のこと好きだったのすっかり忘れたんかい、みたいな雰囲気でー」

「そうそう、思い出した。ハリーが白亜会に入ったのは先代副会長に惚れたからだった……。またデレデレデロデロのハリーを見なきゃいけない日々が始まるなんて、頭が痛くなるわね……」

 セシル先輩がふらりとソファに腰かけた。


「惚れっぽいのは自由にしてもらっていいんだけど、それを理由にワタシたちに冷たくしないでほしいのよねえ……」

「ん? どういうことです?」


「ハリー、必要以上にひとと関わらないようにしてるんですって。あんまり関わってると好きになっちゃうから。本性は寂しがりの末っ子ちゃんよね~。ちょっとアンディに似てる……」

「ん? なんで僕に飛び火させるのセシル?」

 なにか会長が言っているのが聞こえてくるけど、セシル先輩は笑顔でスルーしている。


 じゃあハリソン先輩が冷たかった期間が一瞬で終わったのと同じみたいに、このハリソン先輩の態度も一過性のものかな。それならいいんだけど!


「……あ、アンタの帽子って猫耳なんだ」

 あたしに合わせてわずかに背を曲げていたハリソン先輩が姿勢を正して、あたしの帽子の布を摘まむ。


「そうですよ~、かわいいでしょ?」

「うん、可愛い。それを可愛いと思って選んだアンタのセンスが」

 おっと、斜め上からの返答だな。と思っていると、不意にハリソン先輩の顔が近づいてきて。帽子から伸びているあたしの髪に、なにかが一瞬触れた感触があった。


「あ、あががっ、は、ハリー、神聖な生徒会室でなにを……ッ!」

「あ、まだいたんだ会長」

 あたしの両肩を掴んだまま、ハリソン先輩が視線だけを会長のほうに向ける。


「ずっといるけど⁉ 君たちが来る前から、いまこの瞬間も……!」

「神聖な生徒会室っていうか、俺たちが初めて出会った運命の場所なのに、なに言ってんだろうねあのひと」

 とぼけたような表情で首を傾げながら、ハリソン先輩があたしを見た。


「あたしたちが初めて出会った神聖な生徒会室だと思います!」

「確かにそうだ、アンタが正しい」

 満面の笑みを浮かべたハリソン先輩があたしの顔を覗き込んで、しきりに頷いた。


「うえー、自分砂糖吐いてきていいっすか。もう無理」

「奇遇ねナターシャ、付き合うわよ……」

「ちょっとふたり! 僕をこのひとたちと三人きりにさせないでくれる⁉」

 会長が大きな音を立てながら椅子から立ち上がった。


「じゃあアンディもついてくる~? それだとアリスとハリー、ふたりきりになるけど~」

「う、うぐぐっ……!」

 会長が拳をつくって、歯を食い縛りながらその拳を震えさせている。葛藤してるみたいだけど、なぜ。


「ナターシャどっか行くみてぇだから、そこ座ったら?」

 あたしの隣で会長たちの会話を眺めていたハリソン先輩だったけど、聞き続けるのは飽きたらしく、ナターシャ先輩が占領していたソファを指差しながらあたしに声をかけてくる。


「あ、はーい」

「最近寒くなってきたよな。スカートだと足凍えねぇの?」

「慣れてきたら案外平気ですよ~」

 女って不思議すぎる、と呟きつつ、ハリソン先輩はなにやら鞄をがさごそと漁っている。


「あ、あった。これブランケット」

「え、ありがとうございます! あったらあったで嬉しいです~」


「フッ……」

 ふと、ハリソン先輩が会長のほうに顔を向けた。あたしには後頭部しか見えないから、どんな表情をしているかはわからない。


「え、ドヤ顔で僕のこと見ないでもらえる? ハリー……」

「勝ち誇った顔されてるわね……」


 そもそも、会長とハリソン先輩って戦ってたの?

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