第1話―3
「ところで、生徒会ってなにしてるんです? 支配?」
「その誤った知識はいったいどこから……? 君と会話するとツッコミに疲れるんだけど……。まあいい、セシル、説明して」
はいはーい、とセシル先輩が明るく楽しげに声を上げて立ち上がる。壁に沿うように、生徒会室をずらりと囲んでいる本棚のすぐそばに置かれていたホワイトボードを引っ張り出してきて、セシル先輩は意気揚々と口を開いた。
「グレイグランド学園生徒会、別名白亜会は、日々生徒のサポートやイベントの運営など、学校にまつわる様々な業務を請け負っている、――だけでなく!」
「だけでなく……⁉」
気迫のあるセシル先輩の言葉に、あたしは思わずごくりと唾を飲み込んだ。
「この学園を取り囲む鬱蒼とした森、俗称ネガティブ・フォレストや学園に湧きまくる魔物から生徒を守るために、討伐! 退治! する魔物ハンティング組織……! それが白亜会なの!」
ホワイトボードに魔物討伐! と、黒いマーカーでセシル先輩がでかでかと表記する。
「と、トーバツ……」
物騒な響きに、あたしは思わず唇を震わせてしまう。
「だから白亜会は、この学園の数少ない魔法コースに属する生徒、その中でもさらに一部の優秀な魔法使いしか入れないってワケなのよ。ところでキミ、入学直後にあった魔法テストの成績は? 百点満点どころか加点されて百二十点くらいあったりしたの? アンディがスカウトしたってことはぁ~」
「――え」
体を左右に揺らしてセシル先輩がそう、尋ねてきて。あたしは思わず固まってしまった。
「え?」
背中に冷や汗をかく。さっきまで円滑にコミュニケーションをとれていた相手がまさか突然固まるなんて思ってもみなかったんだろう。
「――え、やぁ、テストはぁ~、その~……。あたしが得意な範囲じゃなかったっていうか……」
「……零点」
「はっ?」
またしても宙に浮いているパネルを操作していたナターシャ先輩が、不意に顔を上げて小声で呟く。その単語に、セシル先輩は一瞬ナターシャ先輩を見て、またあたしに視線を戻す。その目は、信じられないものを見るように丸められていた。
「だっ、だからぁ! あたし魔法の座学よりも実技よりも、ううんもっと言うと勉強とかよりも……、運動とかのほうが得意なんです……! そんな目で見ないでくださいっ」
ナターシャ先輩に色々筒抜けなんだなぁ~と思いつつ、弁明するみたいに叫ぶ。
「……ま、まあ、ひとには得意不得意あるものよね……。でも、だからって、零点は……。義務教育受けた?」
「受けてます! 卒アル見ますかっ⁉ 当時の卒業生、在校生、先生全員にサインもらった宝物なんですけど……!」
「こ、コミュ力がえぐいのはわかったから……」
たじろぐセシル先輩とあたしの間に割り込むみたいに、アンドレア先輩があたしの視界の真ん中に現れる。
「君がそこまで成績が悪いとは思わなかった、やっぱり僕の早計かつ誤算だったみたいだ……。そしてそんな子に僕が負けるなんて……。僕は落ち零れ、いいやそれ以下の愚図の芋虫。うん、そうに違いない。……帰ってくれる?」
「えっ⁉ あたしショムやめさせられるんですか⁉」
「そういうことだね。ほら、出口はあっち」
両肩を掴まれ、無理矢理にドアのほうに向かせられる。背後にいる会長に顔を向けて「やだやだやだ~っ!」と足をばたつかせてごねるが、しら~っとした表情のままで、会長には撤回する気がないようだった。
「ちーっす遅れましたぁ~。――って、おま、アリス……⁉」
ふとドアが開く音がして、再びそちらに目を向けた。そこから姿を現したのは――小さい頃よく遊んだ男の子に似た姿があった。
「ローレン? ローレンだ~……! なんかゴツゴツになってるー!」
会長の手を振り払って、ドアのそばに立つローレンに駆け寄る。昔はあたしのほうが背が高くて、ローレンは悔し泣きしてばかりだったのに、今では三十センチ以上差がありそうで、会っていなかった月日の長さを感じさせられた。
「おー、まあ、鍛えてっから……。お前そんなチビだったか?」
「チビじゃなくて身軽って言ってくださいっ」
「へーへー、そうですね~。ってか、なんでお前が生徒会室に? なんかやらかした? そもそもグレ学の生徒だったのかよ……。よく試験通ったな……」
十年ぶりくらいの再会だから、お互い色々聞きたいことも話したいこともたくさんあるけど、ローレンはとりあえずみたいな感じで、簡潔にそんな風に尋ねてくる。
「えっへん、あたし自己PRが上手だったから! あ、それでね! あたしハクア会のメンバーになって~! ショムだって、ショム! ローレンのほうこそなんでここにー?」
「オレも白亜会のメンバーだからだっつーの。……え、いや、そんなことより……。アリスが魔物討伐できるとは思えねーんだけど……?」
ふと、ローレンがあたしの背後にいるであろう会長に視線を移す。
「……君たち幼なじみなんだ?」
「まあ、しばらく会ってなかったけど、そーですね。えぇっと、ところでアリスが白亜会メンバーになるっていうのは、なにかの冗談だったり……?」
「……魔物と仲良くなれる能力を買って、入れたんだけど。次の瞬間に魔法テストの結果を聞いて、クビにした。でも彼女が出て行かない」
わー、簡潔な説明。