第8話―1 告白・後編
都会的な街から脇道に逸れれば、山を切り開いたかのような木々と坂道が見えてくる。そこは長年人の手が加えられていないのか、学園の周りにある森以上に木が生えっぱなしで、どこか雰囲気も薄暗い。坂道にも障害が多く、歩くのも一苦労だ。
「先輩、この先なにがあるんです……?」
説明もなしに坂道を十分、そもそもここに辿り着くまでに二十分、合計三十分近く歩かされている状況だ。さすがのあたしも少し息が切れてきたし、そろそろここがどこかを把握したいんだけど。
「廃校」
ハリソン先輩が短く答える。
「はいこ~……?」
「この廃校はペインの濃度が高くて、知能の高い魔物が食糧を求めて頻繁に出入りしている、あるいはもうすでに住処にしている可能性があるというのを耳に挟んだことがある。この先には廃校しかないし、人が通ることもない。魔物が隠れるにはうってつけの場所だ」
個人で仕事をしているだけに、ハリソン先輩は情報通のようだ。色々な情報を総合して、数ある候補地の中からこの先にある廃校を選んだのにも理由があるんだろうな。
「ペインの濃度が高いっていうのは、原因とかはわかってるんですかね……?」
「自殺者が出た、というのは聞いてる。廃校に追い込まれたのも、それが原因で受験者がめっきり減ったから……とか」
「な、なるほど……」
そういう事情があるなら、ペインの濃度が高くなってもおかしくないかも。
その後しばらく会話はなく、ひたすらに坂道を歩いていき。高台に辿り着いて、目の前に構える門をくぐれば、外壁にツタが這い苔むしている校舎が見えた。
「ひでー状態」
ハリソン先輩はぽつりと零しつつ、目の前にある正面玄関のドアをまじまじと見る。先ほどの門と言い、このドアもなぜか開けられていて不思議だ。ハリソン先輩もたぶん、同じことを考えていると思う。
「……知能の高い魔物ならこのくらいやりかねないな」
ふと、ハリソン先輩がドアの枠部分に近づき、しゃがみ込む。あたしもそれにならってハリソン先輩の横に座れば、鍵穴に近い部分のガラスが破られていたのがわかった。
「ここから腕を通して鍵を開けたみたいですね……」
ハリソン先輩は返事はくれないけど、立ちながらこくりと頷いてくれる。
「この校舎、魔物の匂いがプンプンします……!」
「ふーん……」
恐らく長年棲み着いてきたんだろう。あたしの言葉にハリソン先輩が興味深そうにしている。
「じゃ、ひとまずここを調べる。俺は狙撃位置を探るから、お前は魔物に気づかれないようにしつつ、魔物を探して。お前の位置はこのレーダーで把握する。ポケットにでも入れとけ」
簡潔で素早い説明だ。ハリソン先輩に小型の魔道具らしきものを投げて渡され、あたしは慌ててキャッチする。
「で、こっちが通信用の魔道具。狙撃するときとか、まあ色々あったら声かける。お前は魔物発見したときにでも」
「はぁい」
ハリソン先輩がその魔道具を耳の中に入れているのを見て、あたしも真似をした。
「で、魔物の気配がするのはどっち。俺はその反対側の校舎に向かう」
「えっと……。右ですかね」
「了解。……くれぐれも魔物に気配を悟られるなよ。相手はかなり頭がいい」
「はい! 大丈夫です!」
気配ってどうやって消すのかわかんないけど、まあどうにかなるでしょ! と思いつつ、ハリソン先輩と二手にわかれて校舎を探り出す。右か左、どちらかと聞かれれば右のほうが気配が濃いけれど、気配の発生地は一階にはなさそうだった。この校舎が何階建てなのかはわからないけど、とりあえず上のほうに行ってみよう。
校舎内は暗くてなにも見えない。かろうじて外から太陽の光が入ってくるけど、それも木に邪魔されて一部が照らされているだけだ。でもあたしは光属性だし、一応近場を明るくするくらいの魔法なら使える。そう思って魔法を使えば――なにやら足元に足跡があるのが見えた。こんな跡、さっきまでは見えていなかったはずだ。あたしが足元を見ていなかっただけかもしれないけど……。
「は……っ! あたしの魔法って、魔物の歩いた跡が見えるようにできるのかも……⁉」
これは十五年生きてきて初めての発見だ。あたしは驚きで震えつつも、抜き足差し足で進んでいく。
この新たな発見、あしたにでも会長に報告したいな。またこの前みたいに「すごいじゃないか!」とか言って、褒めてくれるかも。あと、セシル先輩にも、ナターシャ先輩にもおしらせして、なにかに使えるかもって思ってもらえたら、また任務を割り振ってもらえるかも! ハリソン先輩もこれを機にあたしが騒がしいだけの人間じゃないって思ってもらって、普段からあたしと話してくれるようになったらいいな、なんて空想が膨らんでいく。
足跡はたぶん、一匹だけのものではなくて。複数の足跡が、色んな教室に向かって伸びていっているのがわかる。ハリソン先輩が言っていた、「魔物が食糧を求めて頻繁に出入りしている」という情報は、あながち間違っていなさそうだ。だけど、この足跡はたぶん、いままさにこの校舎にいるであろう魔物がつけたものではなくて。なにか証拠があるわけではないけど、感覚的にそう思う。もっと上の階、もっと奥の部屋に、きっと魔物がいる。




