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第7話―4

 数十分後、キャスケットを目深に被った男のひとが、あたしたちの前に現れた。ハリソン先輩はゆったりと立ち上がると、男のひとに向かって手を差し出した。男のひとは握手に応じる。


「あなたがケビン?」

「あ、はい、ハリソンさんに依頼させていただいた者です……」

「時間が惜しい。本題に入ってください」


 キビキビと指示を出すハリソン先輩に、大人との会話が慣れているひとだと実感する。男のひと――ケビンさんはためらいがちに背後にいるあたしをちらりと見たが、すぐさまハリソン先輩に視線を戻した。


「……ああ、彼女は学園の後輩です。お気になさらず。で、ご依頼いただいた理由は?」

 ハリソン先輩もケビンさんの視線には気がついていたようだ。ごく簡単に説明をしてから、話を戻す。


「……娘が、昨日から行方不明になっておりまして……。魔物にさらわれたんではないかと疑っているんです……」

「うちは探偵事務所ではないんですけど」

「わ、わかっています! でも、娘を拉致した魔物が、僕はゆるせなくて……」

「拉致したのが魔物だと断定できる根拠は? そもそも警察には連絡したんですか?」

 ハリソン先輩厳しいな、とふたりの様子を見上げながら思う。


「仕事から帰ったら、家の中が魔物に荒らされた痕跡があったんです……! ……ええと、警察には、連絡していません……。魔物に関する事柄なら、あなたのようなハンターに頼ったほうがいいだろうと思い……」

「……まあいい、そのあたりは目を瞑りましょう。で、娘さんを最後に見たのはいつ、どこで?」


「昨日、自宅で……。この街からさほど離れていない住宅街に住んでいるのですが……」

 あたしは地理に詳しくないんだけど、ハリソン先輩はそれだけの情報で大体の位置を把握したのか、納得したようにこくこくと頷いている。


「で、娘さんの身体的特徴は? 具体的にどうぞ」

「ええと……、長いブロンドの髪で、身長は高め。服は……、なにを着ていたかな……」

 ケビンさんの情報を受けて、あたしはなんとなく鞄から取り出したノートに絵を描き始めてみた。


 ふと、ケビンさんと話をしていたハリソン先輩が突然振り向いて、ちらりとあたしとあたしの手元にあるノートを見た。ペンが動く音に気づいたのかもしれない。ハリソン先輩は描きかけの絵をじっと見ると、またケビンさんに視線を戻る。


「髪質は?」

「え? えっと、ウェーブって言うんでしょうか……」

「目は?」

「オリーブ色で、垂れ目……」

「有名人だと誰に似てます?」

「えっ、んー……。女優のアマンダ……?」

 舞台で活躍しているひとだ、あたしでも知っている。脳内にアマンダの画像を思い浮かべつつ、サッと絵を描き上げる。


「ケビンさん、こんな感じですか!」

 ノートを頭の上に掲げて問えば、ケビンさんはパッと目を輝かせてコクコクと頷いた。


「あっ……、そうですそうです……! すごいですね、ハリソンさんは有能な助手をお持ちのようで……」

「……どうも」

 ハリソン先輩は助手という響きに顔をしかめながらも、一応と言った感じで礼を述べる。


 それにしても、あたしが助手だって。かっこいい響きでついニコニコニヤニヤしてしまう。


「わかりました、もう十分です。数日中にお嬢さんを見つけ出すとお約束しましょう」

 話を早々に切り上げてしまうハリソン先輩に、あたしは驚いて思わず顔を上げる。だって、いくらなんでも情報が少なすぎると思うんだけど……。


「本当ですか! 娘のエミリーのこと、どうか頼みます……!」

 ケビンさんは意気揚々と顔を上げ、再度ハリソン先輩に熱い握手を求める。が、ハリソン先輩はそのてのひらを一瞥したのち、鞄を肩に背負ってあたしに目配せしてきた。


「帰るぞ」

「え? あ、は、はいっ。失礼しますケビンさん!」

 握手に応じなかったハリソン先輩に代わってケビンさんと握手しつつ、公園の出入り口に向かってスタスタと歩いて行くハリソン先輩を追いかける。


「ハリソン先輩っ、ケビンさんの握手無視しましたよね?」

「だったらなに」

「そう言われてしまえばおしまいなんですけど……」

 こういうの、とりつく島もないとかって言うんだろうか。


 ハリソン先輩はもう行き先を決めているようで、その足は迷いを一切見せずに前へ前へと進んでいる。


「数日中と言ったが、きょうには仕留める」

「早いですね……!」


 珍しくハリソン先輩から話しかけられて、あたしはウキウキとした気分でハリソン先輩の横に並ぶ。


「被害者の状況が把握できていない以上、早いに越したことはないだろ」

「確かに……! ハリソン先輩って意外とそういうの気にするんですねえ」

「生意気」


 ちらりとあたしを見下ろして文句を言うハリソン先輩だけど、怒っている感じはしない。さっき、少し役立てたからかも? だなんて考えると、余計嬉しくなってしまった。

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