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竜と兎の召喚士  作者: 九十九
魔法使いの旅立ち編
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番外 あの日の彼女達

退屈で狭い村、窮屈な掟、無駄に広い家、私を見ない親。

そんな私に与えられた魔法という才覚は、まさに青天の霹靂、というか光芒だった。

雷と陽光の表現を使っておいてなんだが、私の召喚魔法は星霊。一年ほど前にこの村を訪れた北部魔法学園の先生が私を招待してくれた。明日はその為の旅立ちの日。だから今日は村をあげてのお祭り…言ってしまえばただの宴会だ。

そう言えばギリギリ聞こえは良いものの、私は完全に蚊帳の外。理由をつけて盛り上がりたい大人たちは、私の門出を言い訳にし、私を妬んでいた同じぐらいの歳の子供達もまた、それに乗っかった。

それだけならまだ良かったけれど、この村に古くからあるらしい意味の分からない掟、村のお祝い事は村の人だけでやるというその縛りは、さらに私を窮屈にする。

今日一日乗り越えれば自由な旅、ただその一日があまりにも長すぎる。

贅沢なお願いだけれど、どうかもう一度私に光が差して欲しい…そんな無意味な祈りを捧げながら外を眺める。

「…なんだろう、あれ」

遠くから村の入口に落ちた…いや、正確には降りた何か。宿泊目的の人、それも魔法使いっぽい。可哀想に、今日はこの村には泊まれないよ。大人たちの身勝手な掟のせいでね。

そんな私と同じ被害者を横目に、体をベッドに放り出す。もういっそ今から寝て、明日の朝早くから出てしまおうか。

目を瞑る。すうっと遠ざかる意識を掴むことなく、そのまま流れに任せる。夕日も沈みかけの今寝ると、起きたら朝日は出てるかどうかも怪しいかな。

…突如、聞きなれた音がした。それは無駄に大きな扉の開く、無駄に大きな音。なんだよもう、あと少しで寝れそうだったのに。

結局寝れずじまいになった私は体を起こす。するとそれと同時に私の部屋のドアがノックされた。

「お嬢様、いらっしゃいますか」

「いる。どうしたの?」

今日この日唯一落ち着いている大人であろうザリアが部屋に訪れる。このアレイ家に雇われている使用人である彼女の態度は、いつも変わらない。放任と宣いながら私に目をかけない両親とは違い、いつも丁寧で、私を気にかけてくれている。この村で数少ない、私の好きな人だ。

「魔法使いの方が村にいらしてですね」

「…そう。でも今日は外の人は入れない日でしょ」

わざわざ私に報告する必要も無いのに。見ていたことを知らないとはいえ、何故私にその話を持ってくるのだろう。

「それがその方、お嬢様と同じぐらいの背丈でして、聞いてみると北部魔法学園に入学なさるそうなんです。それに今日の寝床に困っているようでして…用心棒と言う事で、今日宿泊させ、ご同行させてはどうでしょう」

「…もちろん!と言うか私があんな掟気にしないの知ってるでしょ?早く呼んであげて!」

これは…望んでもいなかった好機だ。元々一人で旅をするのはちょっと嫌だな、なんて思っていたし、お金があっても友達は買えない。

いきなり興奮し始めた私を見たからか、ザリアは少し笑って答えた。

「それもそうですね。では、呼んできますね」

そう言えば性別、聞いてないかも。まあでも、旅の仲間が増えるのに越したことはない。

家政婦は困惑気味に返事し、すぐにまた無駄に大きな音がなった。間も無く、私の待ち望んだ言葉が玄関の方から響く。

「スピカ様、外の魔法使い様を連れて来ましたよ。」

人との出会いってこんなにも突然で、人の感情ってこんなにも急に動くんだ。私はそんな当たり前のことを噛み締める。

そして私は扉を開けて、魔法使いとの邂逅を果たすのだ。


目が覚めると、見知らぬ場所だった。

というか目が覚める以前の場所も分からない。誰かから貰った名前であろう、クラゲ以外に思い出せるものがない。

…これ、服すら無いのか。体全体を覆う布切れ一枚だけが、今の私の持ち物。武器も無いし、魔法も…使えるかどうか分からない。覚えていない?

「…君、迷子?」

迷子の子に掛けるような声とは思えない、冷たい声。でもそこに悪意は感じられない。

「名前、言える?」

直感的に分かる、この人に着いていくべきだ。そう思った。

「…クラゲ」

「優しいおじい様の居る家があるの。私も住んでるから、おいで」

雨風をしのげる場所があるなら、とりあえず入りたい。とにかくその一心で立ち上がろうとしたけれど、ずっと座っていたからか、それとも目が覚めたばかりだからか、思ったより上手く立てずに目の前の人に寄りかかってしまう。

そんな私を彼女は支える。その時に見た優しい微笑みが、私の頭から離れなかった。

着いて行くべきだと確信したその人の後ろを歩いていると、ある場所を境に目の前の、紅い髪の人が周りを見渡し始めた。それは私の知らない感覚、とても強い、でも気圧される感じは無いような…魔力のようなそんな何かが私の体を駆け巡った場所あたりから。これはもしかして…結界と言うやつなのだろうか。

住んでいる家までの道を見失ったり迷ったりする、抜けている人間には見えないけれど…と少し心配になり始めたその時、周囲の光景が急に変わった。

この人も困惑しているようで、周りを見渡すのをやめて、ただ立ち止まっている。

「非知者か?」

急に声が聞こえてきた。びっくりした、さっきまで私とこの人以外誰もいなかったのに…

咄嗟に声がした方から身を隠す。

そんな私を宥めるように肩に手を置き、紅い髪の人は答える。

「…そうですね。名前が分かること以外、とても私と似ています」

「よくやった。後はしばらく私に任せなさい」

なんだか寡黙で、でも優しくて、似たような二人。

何も分からない私だけど、ここで過ごすと何かが得られる。それだけは、分かる気がした。


愛弟子がひたすらに隠し続けていた情報…いや悪意がなかったのはわかっているけれど…私にまた後輩ちゃんが出来たらしい。名前はクラゲ。ヒサメちゃんとは違って、しっかりと自分の名前を覚えていたらしい。

私の知る非知者は今のところ、クラゲちゃんを含め四人しか居ないとは言え…名前を忘れさせたり忘れさせなかったり、この世界の上位存在はどうも気まぐれが酷すぎるとたまに思う。非知者を使ってなにか実験でもしているのではないか、と疑ってしまうほどに。

世界の根幹に触れるような謎を、さも晩ご飯の献立を考えるかのように悩む。そんなことをしているうちに、私の故郷、見慣れた森が見えてくる。

ヒサメちゃんから預かった贈り物も手元にある。はてさてクラゲちゃんは、これを受け取ってどんな反応をするのだろうか。そしてどんな子なのだろうか。それが楽しみだ。

久しぶりに先生の魔力を感じ…なんか出来てる新しい小屋も気になるけれど、そんなものはどうでもいい。

「ただいまー先生」

「来てたのか、今年は少し遅かったな、レン」

「もう、気づいてたくせに。そうだねえ…ヒサメちゃんが結構すごいことやってくれたおかげで遅くなったんだけど、それはまたあとにして…」

…そう言えばあの子に名簿を渡しっぱなしにしていた。私のエゴで結構な重荷を背負わせてしまったとは言え、数日の間でもあの情報を持たせるのは、流石のあの子でも渋い顔をするだろう。

それはそうと、だ。今は仕事より、ヒサメちゃんが悪気なく隠していた情報を早く確かめないといけない。

「ねえ先生、クラゲちゃんはどこ」

「…焦るな。あの子なら今、自室の掃除中だ」

「あれ、でもあの部屋の中誰も居ないよ?」

かつて私も過ごした部屋の中。そしていつしかその所有権はヒサメちゃんに移って、てっきりクラゲちゃんが生活しているものだと思っていた。

あとこの家にある部屋は物置と客人用の寝室と…成程、あの小屋は部屋不足故のものか。

「ただでさえ少なかった荷物は全部持っていったはずなのに、あの部屋は姉様の部屋だって言って聞かなくてな。もう一室の方がクラゲの部屋だ。」

そんなとんでもない姉妹愛の話を聞かされた直後、小さな可愛らしい足音が件の部屋の方からやって来た。

「すみませんお客様、お茶も出さずに私用を続けてしまって…」

「あーいいのいいの、私お姉ちゃんだから」

「…おじい様、こちらは?」

きょとんとした顔でクラゲちゃんはそう尋ねる。いきなり姉を名乗る不審人物が現れればそりゃそうなる。これからは控えようかこれ。

それにしても…もうおじい様で定着しちゃったのか。私がここにいた時とそこまで姿は変わらないのに。

「こいつはレン。今のあの子の師匠だ」

「なるほど。レン様、お初にお目にかかります。クト・クラゲと申します」

「お、ご丁寧にどうも。私も名乗るべきだね。北部魔法学園所属、クジョウ・レンです…って、先生、もう苗字あげたの?」

私の時は旅立ちの時にくれたし、ヒサメちゃんもそうだったと聞いている。もしかして、旅立つ気が無い子なのだろうか。

「授業はとうに終わってるが、本人がどうしたいかも分からんらしい。だが、どうしてもあの子と同じがいいと言って聞かなくてな」

「ヒサメ姉様は元気にしてますでしょうか、レン様」

「元気過ぎてかなり強い魔物倒しちゃったよ。あそうだ、そんなお姉ちゃんから君に贈り物だよ」

そこそこいいお店で奮発してきたのか、高そうな包装がされたそれをクラゲちゃんは丁寧に両手で受け取る。

ちなみに中身は私も知らない。魔道具だとは思うけれど、どこで買ったのか、どんな形か、何も知らない。

「開けてもよろしいでしょうか」

「君ほんとにいい子だね…ここだけの話、お姉ちゃん、だいぶ悩んだみたいだから楽しみにして良いよ」

私も中身知らないけど。

ここまで出来た子なら、奮発してそうな情報まで言うとおどおどしちゃいそうなので言わないでおく。

包装を丁寧に開けていくその姿に無邪気さは微塵もなく、育ちのいい子供、の印象があまりにも強い。

じっくりと時間をかけて空けられた包装から出てきたのは、金属独特の光沢を少しだけ輝かせながら、本体がしっかり白いと認識出来るような腕輪。相当特殊な金属なんじゃないだろうか。

「…綺麗です」

「これは良いな。レン、お前に贈った最初の杖くらいの上物だ」

私も杖を貰ってしばらくした後にその価値を理解したが、あの杖は確か…うわ、だとするといくらしたんだ、この腕輪。

「うわすご、姉妹愛は血だねもう…いや血は繋がってないのか」

もしかすると妹バカなのかもしれないという、我が愛弟子の変な一面に気付かされる。

「そうか、もう一年経つんだな…クラゲ、レン、今から杖も見繕いに行くか」

「…よろしいんですか?私のために時間を割いていただいて…」

相も変わらず見た目の幼さに合わない謙虚さを発揮しながら、クラゲちゃんはおどおどとしている。

正直なところ、私が言ったところで魔力は見れないから見た目の助言しか出来ないが…まあいいか。久々にショウさんの顔も見られる。

「いいのいいの!久々にショウさんの顔も見たいし。私魔力見れないけど」

ヒサメちゃんの功績と神降ろしの新情報はまた深夜に、とりあえず今は、束の間の休日と、妹との邂逅を楽しもう。

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