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竜と兎の召喚士  作者: 九十九
魔法使いの旅立ち編
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休息と贈り物

ようやく病室から出られる頃には、一週間が経っていた。

結局私の療養中に、学園は長期休みに入った。私が持ち込んでしまった情報のせいでレンさんはそこそこの激務に追われているらしく、もしかするとおじい様の元に帰れないかもと漏らしていた。本当に申し訳ない。

そして私の誤算はそれに留まらず、もう一つ。

「ヒサメ、買い物行こ?」

「ごめんなさい、レンさんと話があるので」

「もう逃がさないからね!今日は夜からでしょ?」

寮の同室がスピカだったことだ。

レンさんと二人がかりで何をそんなに荷物を持ち込むのか、と違和感は感じていたけれど、まさか私のものも一緒に運んでいたとは思わなかった。

小さな村育ちのスピカにとって、学園周辺の街はとてもキラキラしているらしく、隙あらば外出に誘われる。外が嫌いとか外出が嫌いなんてことは無いのだけれど、今は訳あって、学園の人間の素性調査を優先したい。

「…もう買うものもないでしょう?家具も本も服もある程度揃えたじゃないですか。私はこれ以上出せるお金ありませんよ」

「先生から聞いたよ?ヒサメ、もう誕生日過ぎちゃったでしょ?私、贈り物の散財は惜しまないよ。お母さん」

「お母さんじゃないです」

そういえば誕生日…と言うかこの世界に来た日からもう三年も経ったのか。

…という事はそのうち、クラゲの誕生日もやってくる事になる。もしレンさんがおじい様の元に帰ることが出来た場合の事も考えて、あの子への贈り物も買っておかないと。

「…行っても良いですけど、本当に夜までには帰ってきますからね」

「やった!じゃあ早いとこ行こ!」


通称学園街と呼ばれるこの街は、この世界でも五本指に入る広さで…とずっとスピカに力説された記憶がある。その記憶通りに、そしてスピカに買いすぎ注意と説教できる程に、この街は買い物の手段がとても豊富だ。中にはショウさんの魔道具店の様に、少し入り組んだ路地に入って…なんて場所もあるとかないとか。そちらは少し怖いので、今回はやめておく。

「いいお店見つけたんだよ、魔法学園の都市ならではの店ーって感じで、色んな効果があるやつとか、可愛いやつとか、いっぱい売ってるの」

「それって腕輪以外もありますか?」

「ん、なんで?」

かなり大きめのローブを着ていたとは言えやっぱり見えてなかったのか、と思いつつ、腕輪を着けている所を露出する。

「おじい様から貰ったものがあるので、腕輪はまだ…その、買いたくないな、と」

余る袖が意外に重く、姿勢も相まってそこそこ辛いのだが…そんな中、スピカは腕輪を凝視する。何か魔力に関する物が見えているのだろうか。

「これ…すごく良いやつだよ。よくよく考えたら杖もかなり歴史ある型のやつだった。お金持ちなんだね、そのおじい様」

「お知り合いから譲っていただいたのもあると思いますけど…そうなんでしょうか」

そんな会話を繰り広げ、私はふとあることを思い出す。

「スピカ、私、妹…みたいな非知者の子に贈り物をしてあげようと思ってるんですけど、どのくらいお金かかるんでしょうか」

この世界の金銭感覚が、宿代と馬車台、あとは少しの食物以外知らないことだ。

とにかく物欲が無く、贈り物ばかり貰っていたためか、本当にそれ以外が分からない。本も、こういった小物も。

それに魔道具に関する知識も持ち合わせていない。杖が歴史のある型と言うのも、初めて聞いた話だ。

「んー…私、あんまり魔道具に造詣は無いんだけど…その腕輪とかなら…いい宿三回分、ってところじゃない?ほら、ここ来た日の朝に出た宿みたいな」

「あー…そっか。なら買えそうです。ありがとう、スピカ」

道中の馬車護衛の報酬なんかで、割と路銀は余り気味なので買えそうではあるので一安心。となると目下の問題は…

「腕輪じゃないってなると何買うかだよね…足につけるやつだと目立たないし…そうだ。ねえ、お揃いの指輪買わない?」

「…私、スピカのお母さんにもお嫁さんにもなる気は無いんだけど」

「うるさいな、薬指に着けなきゃいいの!ほら行くよ!」

そう言ってスピカは私の手を取って走り出す。

…お揃いの物、つまり二つ分の値段をスピカに支払わせるのは少し違う気がするけど、本人がなんだか納得してそうだし、いいか。

そんな風に一人で考えていると、どうやらそのいいお店に着いた様子。

硝子から中を見てみると、本当に数多くの小物が並んであった。

「じゃあスピカは私の選んでおいてください。私はクラゲへの贈り物を見てきます」

「クラゲ…その妹ちゃんかな?分かった、時間かけてもいいからね!私もそうするから」

人に贈り物をする事は…この世界に来てから初めてなのだろうか、それとも私の人生史上初めてなのだろうか。

どちらにせよ、半年以上お世話して、とても懐いてくれたクラゲには、しっかりと彼女に似合う魔道具を選んであげたい。おじい様が私にそうしてくれたように。

紅い髪をした私に、おじい様は深紅の色をした装飾があしらわれた腕輪を贈ってくれた。とすると白い髪のあの子には…白い腕輪を送るべきだろう。しかし、光沢を持つ白色の鉱石や金属は私の知識には無い。とすると…似た色であれば白金だろうか。ただこの世界にそれが存在するのかは分からない。そんな風に悩みながら丁寧に並べられた装飾品、もとい魔道具を眺める。

私の望むものに近しい色はいくつかあるので、もし見つからなかった場合それを選べばいいけれど…おじい様はこの腕輪を選んだ時、どうしたのだろうか。もう少し聞いておけば良かったと今になって反省する。店員らしき人も一人しか居らず、聞きにくい。

ただ正直、お金に関しては余った路銀以外にも今後収入があるそうなので、迷いは無い。

そんな事を考えていた最中、運命の出会いが不意に訪れた。

「…あった」

完全に真っ白とまでは言い難いが、金属光沢とも思いにくい輝きを放つそれは、私の心を鷲掴みにした。

森を離れてから三ヶ月と少し。あれからクラゲは成長しただろうか。しかし成長していようがしていまいが…勿論これから成長しようが、この腕輪は絶対に彼女に似合う、似合い続ける。そんな確信を持つ事が出来た。

「あ、ヒサメ。いいの見つけた?」

「スピカはそんなに時間かからなかったんですね」

「もう即決だよ。ほらこれ」

スピカの差し出したふたつの指輪は、少し薄い金色の物。宝石などはあしらわれておらず、本当にただの魔道具といった印象が強い。

「私の髪の色に合わせるとヒサメに似合わなくなるし、ちょっと薄めにしたの。これならほら、肌が白くて綺麗なヒサメにも似合うでしょ?」

髪色とローブも相まって全身暗め、あまり装いも気にした事の無い私とは真逆のスピカが選ぶ理由は、正しく本当の女の子の感覚。少し愛が重い気がするけれど。

「見た目もいいですね。効果は?」

「えっと…使用魔力の軽減、かな?」

「このままだと私本当に魔力量の化け物になりそう」

また減る魔力が少なくなるのか、と本来悩むべきでは無いなんとも言えない事を悩みながらも、贈り物選びはこうして無事に終わった。


私とレンさんの二人の間には、ある取り決めが交わされていた。

それは、私の技術を隠すこと。魔力量過多の兎の突進や魔力吸収を隠しながら、隠している技術の存在を明言しておくことで、学園上層部への切り札として使えそうだというレンさんの意見からそうすることにした。

底抜けに明るいように見えて実は頭の回転がかなり早いこの人の言うことを、私は全面的に信用している。

「あいつらは知識と技術に飢えてるからね。正直、私達が非知者どうこうなんて考えてないと思う。だから攻撃魔法と防御魔法を作った私は、ある程度の地位を手に入れてるって訳」

「そうは言っても、ただ防御魔法を改造したアレでこの名簿が手に入るのって…大丈夫なんですかね、情報管理的に」

自分の周りに防御魔法を纏わせる技術は、既に切り札として切った。その代価として手に入れたのが北部魔法学園全体の名簿。

これを手に入れた理由はただ一つ、裏切り者の精査の為だ。

「何でもいいんだと思うよ、奴らは。それに、私も魔法を横流しした輩は気になる訳だし、貰えるものは貰っておこう」

魔法を横流しした輩。それは一体なんのことか。

思い出されるのはあの日の魔物との戦闘。人型だったから何の違和感もなかったけれど、良く考えると魔物達が攻撃魔法と防御魔法を使えるはずが、知っているはずがなかったのだ。ならどこからバレたのか?

…この学園内に内通者がいると言うことだろう。

ところで気になる事がひとつ。

「この名簿って、私とスピカの同期の子についても書いてあるんですか?」

「書いてるんじゃない?見せてごらん…あー、この子とかまだ私知らないよ、レイラとか、アロゼとか」

「さっきの上層部の人達くらい単純だといいですけどね」

「そうだねえ…まあスピカちゃんが守ってくれるよ。その代わり、君もしっかりスピカちゃんを守ってあげること」

魔物にやたらと知恵無しと呼ばれた事が結構強く印象に残ってしまったので…これから接する知者の私への当たり具合を気にして、少しだけ弱気になってしまう。別にそれが嫌だとか怖いとかそう言った訳では無いが、スピカやレンさんにまで迷惑をかけたくない。

「それにしても、本当に君は良く生きて入学してくれたよ。北部魔法学園の即戦力、流石私の一番弟子!」

「…弟子で思い出しました。レンさん、その…今度おじい様の所に帰れそうですか?」

問題の会話を切り出す。そもそも帰れないかもしれないのは私のせいなので…少しだけ遠慮しつつ。

「そうだねえ…何とか帰れるように日程調整中ってとこ。何か預かるものある?」

思ったよりも何とも思っていない風に返事をされたので一安心だ。まだ快調じゃないのに、しかも私のせいでそうなっているのにも関わらず、こちらにまで気遣いしてくれるこの人の事が結構好きだ。

そんな優しさに甘えて私は、彼女に小さな箱を渡す。

「ではこれ、お願いします。クラゲに渡してあげてください」

そう言って手渡したのは丁寧な包装をしてもらった白強めの白金の腕輪。スピカ程直感で選ぶ能力は強くないとはいえ、それなりに彼女に似合うものを選べたと思う。

「…クラゲって…どちら様?」

「…話してませんでしたっけ」

その後私はレンさんの部屋で詰められ、冷めた紅茶を渡されながら、話したつもりになっていたクラゲについての話を小一時間させられたのだった。

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