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竜と兎の召喚士  作者: 九十九
魔法使いの人狼編
34/34

名乗る利点のない役職

この世界の最北端に位置する北部魔法学園…の、少し西側にある広大な森。雰囲気がおじい様の居た森に似ていて…と思ったが、森に雰囲気も何も無いか、と我に返る。

柄にもなく少し盛りあがっているのだろうか。普段考えないような変な事を考えてしまっている気がする。

役職が書かれた紙には、属する村と、学園街での集合場所も書かれていた。その時点で少し嫌な予感はしていたのだが、今私はウサギ村の人と共に森の集合場所に向かっている。

「…おい」

「何ですかレイラ」

「なっ、いや、まあいい、浮遊で飛んで行かないのか?」

村民一人目、レイラ。常に無愛想なこいつだが、私と一緒になるとさらに不機嫌になっている気がする。

…と、普段なら思っているが、今回は訳が違う。いつも以上に不機嫌だ。

「…お前の大好きな先輩、死にかけてないか?」

村民二人目、エルーナ先輩。恐らくレイラがいつも以上に不機嫌な原因。一度ボロ負けしたことをいつまで根に持ってるんだか分からないが、これから数日、最悪二週間協力しなきゃならない。

一方当の本人は死にかけているとまでは行かないが、元気が無い。小一時間歩けばそうなってもおかしくはないか。

「あの人…ついたら絶対結界使って倒す…」

「エルーナ落ち着け、やり合っても勝てんぞ」

村民三人目、クルルド先輩。私的に今回一番懸念すべき人。一度も喋ったことがないからという理由もあるが…なんと言うかこう、胡散臭い様な気がする。これは私の完全な偏見でしかないので口には出さないが。

キア先輩は鳥、ライラン先輩は狼という事が分かっているし、ミゲクリア先輩も毒持ちという事だけだが分かっている。しかしこの人は一切召喚魔法の概要が分からず、そこも懸念点だ。もう一人のナナラと言う人もそうだが、この村の村人では無いのでひとまず除外しておく。

面子はもちろん、各々の実力や性格など、なかなかに不安要素が多い。ましてや他の村が合流して来る可能性もあるのだ。未来で起こりうる可能性まで考えていると…頭が破裂しそうである。

果たしてこの魔法使いの人狼、私は上手く立ち回れるだろうか。


道中の親睦会など起こるはずはなく、着いた頃には全員一言も発していなかった。と言うか溝が深まっている気がする。気の所為だといいけど。

「ウサギ村はやっぱり遅かったね。何はともあれ、これで十六人全員集まったかな」

「やっぱりって何ですか」

体力的な事を指しているのか作戦的な事を指しているのか、どちらかは分からないが何にせよ癪に障る。

レンさんは十六人、と言ったが、それはカロンとアリス先輩がそれぞれ欠席している為だ。二人には少し申し訳ないが、結果的にいい感じの村の数になったと思う。

周囲を見渡す。概ね見覚えのある人物だが…

「…エルーナ先輩、あの傘さしてる人誰ですか」

「あれ?あれがナナラって子。日傘貴族」

今日の天気は曇り。それに何やら水の膜のようなものが貼ってあるので陽の光はほぼ届かないのだが、そんな中で日傘をさしているナナラと言う人は、先輩の言う通り貴族か、吸血鬼…あとは体が弱い人という可能性もありうる。戦う時は一体どうするつもりなのだろうか。

「各々、自分の拠点と役職は分かってるね?分かってる体で今から諸々の説明するからよく聞いておくこと!」

今の時点では正直不安要素しかないのだが、細かいところを聞いてみないと分からない。とにかく、レンさんの説明を傾注するとしよう。

競技が成り立たないのでは?と思っていたが、結果的に言えばレンさんはこの数日でしっかりと固めてきた。

アウレリア先生の役割もしっかりと分かった。彼女はこの競技の範囲決定と補助に大きく関わっている。結界を使い、競技中の生物の出入りを制限したり、魔力切れを起こした生徒を召喚魔法のクラゲを使い保護したりと…こんなに働いてくれてる人を放っておいて、そこらじゅうをほっつき歩き私達を倒すためだけに動くあの人、本当にどうかしているのでは?

とは言えレンさんにもしっかりとした役割があるのも事実。村単位で壊滅させられた村は、人狼どうこうは関係無く減点するとの事。魔剣は本当に不慣れとの事だが、どこまでが事実なんだか…

「よし、じゃあ早速一つ目の問題点を突く事にしますか」

「いきなりだね、賛成」

拠点に移動して一段落着いた後、二年生組が話を進める。

多分彼らの考えは私も思いついていることと同じだろう。言ってしまえば、役職のバランスがあまりにも悪すぎる。

「それじゃあ、各々自分の役職を教えてくれ。僕は市民」

人狼の始まりとしては妥当な問い。本来はここで嘘つきが発生するはず。本来なら、だ。

人狼における狂人と言う役職は、様々な可能性を持っている。初日に騙ることも、後日後出ししてばをかき乱すことも可能。もしくは、狂人が人狼に噛まれると言う展開があっても面白いだろう。

さて、そんな狂人の騙りはこの競技においてどうなるのか。

「市民だけど」

「市民」

「私も市民です」

しばし沈黙、その後、全員ため息をついた。

「…そらそうなるよな」

「騙って得られる物が少なすぎるし、そもそも騙れる役職がないんだよね」

「つまるところ…平和に終わることは不可能と言う訳か」

欠陥とは罵ったものの、レンさんはこの状況を狙っていたのではないかと私は思っている。戦闘訓練も交流も兼ねるのであればこれでいい。

…亀裂を産む可能性も孕んでいることはさておいて、だが。

「提案だ。二人一組で動くのはどうだ?」

そう声をあげたのはレイラだった。

「そうすれば人狼も市民も何かしら行動を起こしやすいけど。その発言、黒く見えるよ」

「逆にこの提案をしない奴は何だ?そっちの方が黒いんじゃないか?」

「は?」

「レイラはすぐに煽らない、エルーナ先輩はもうちょっと耐性つけて下さい。言ってることは理に適ってるんですから」

この二人の相性、最悪では?

「…エルーナがここまでムキになるのも珍しいんだけど、ヒサメさん、あのレイラって子はどんな人?」

睨み合う二人からそそくさと離れ、クルルド先輩がこちらの方に寄ってくる。そう言えば、まともに話をするのは初めてでは無いだろうか。

「なんか無駄にエルーナ先輩にだけ強いんですよね、あいつ」

「ヒサメやめて、そんなことは無い。あの時は私が失敗しただけ」

失敗と言うかこだわりの強さ故の敗北と言うか…

…待てよ、この二人を組ませれば逆に殺し合いが出来ないのでは無いだろうか。レイラとエルーナ先輩、お互いがお互いの攻撃方法に苦労するが故に戦いたがらない…はずだ。口喧嘩ばかりしているのもその証拠だと思いたい。

「二人が組んで私がクルルド先輩と組むと言うのはどうでしょう。二人なら攻撃魔法も上手ですし、周囲の探索を任せられます」

「誰がこいつなんかと」

「まっぴらごめんだ」

…本当に仲が悪いな。こうすればこの二人を組ませられるか?

「怪しいと思った瞬間、相手を倒せますよ」

「よし」

「悪くないな」

あっさりと成功してしまった。ちょろすぎる。

エルーナ先輩はさておき、レイラまで自信を持っているのは些か謎だけれど、そんな事はどうでもいい。これでやかましい邪魔者二人が一緒に行動してくれる。

「仲良いんだか悪いんだか…」

「どう見てもめちゃくちゃ悪いですよ」

そんなこんなで、組み合わせは決まった。この四人、結構疲れるかもしれない…



ここはトリ村。他の村と比べると比較的穏やかな人が多い場所だと思う。少なくとも、ヒサメの居る村に比べれば絶対にマシだ。

「分かっちゃいたけどなんかすごい組み合わせだな」

「意図的に仲のいい人と離されてる感じがしますよね…」

男子二人、キア先輩とシオンがそんなことを話している。

シオンとは仲が悪い訳では無いが、ヒサメやアロゼちゃんに比べるとやはり交流は少ない。その事を考えると、確かに人選が意図的な気がする。

私がそんな事を考える一方、もう一人の女子の村人は…

「私誰とも仲良いとか無いんだけどどうなってるのかな」

「知るか、お前はもっと授業に来い」

「えー…」

白い肌、そしてそれとは真逆の真っ黒な長い髪を携えたこの人は…ナナラ先輩と言っただろうか。その姿やキア先輩の口調から察するに、出不精なのだろうか。

「さて…これからどうしようか。他の村の偵察でも行く?」

「まず人狼を探すべきではないでしょうか…」

「普通ならそれでいいんだけどね。今回は名乗り出る役職が人狼しかないし、その人狼は名乗り出る利点がゼロだ」

授業に行っていないとは思えないほど饒舌に、知的に話す彼女。話し方は気怠げそうだが、言葉の節々に賢さが垣間見えると言うか…とにかく、信頼出来そうな人だ。

「だから俺達ができることは村巡りって訳だな」

「あとはほっつき歩いてる魔法使いを襲撃するか」

「あー、そう言えば居たね…あの人」

魔剣を持って適当に歩いている人が居ることを思い出す。村に襲い掛かることは無いと言っていたけれど…逆に言えば外をほっつき歩いていると遭遇の可能性があると言う事だ。

私は防御魔法が上手くないし、一人で居る時にうっかり遭遇してしまうと私の魔法使い人狼は終了だ。となると、どうすべきか。

「あの、先輩と後輩で二人一組になりませんか?」

「…俺らは別にいいが、理由聞いてもいいか?」

「そんなに大それた物じゃないですよ。私も、あと多分シオンも防御魔法が上手い訳では無いので…誰かと動けたらいいなーって…」

そう、誰かと居ればいいのだ。こうすれば少なくとも何も出来ずにやられることはなくなる。

「ならばスピカちゃんは私と組もうか」

「お前後輩女子に甘すぎだろ。スピカ、それでも別に構わないが、四人でも良くないか?」

「…確かにそうですね」

言われてみれば四人でも…いや、四人の方が良い気がしてきた。人狼の抑制にもなるかもだし、レンさんの討伐も出来る…かも。

二つともあくまで可能性の話でしかないが、そっちにした方が…

「いやキア、二人一組で行こう。そうすればレンにも勝てる可能性がある」

「何でだよ、二人なら厳しいだろ」

「結界。四人でかかったら速攻使うぞ、あいつ。二人で動けば少なくとも初動結界の可能性は無いし、村全滅で全員減点は免れる」

「なるほどな。じゃあ…」

…と、先輩二人が会議を始めたので、言い出しっぺの私は蚊帳の外に出されてしまった。

ナナラ先輩は怠惰、キア先輩は少し荒れた様な雰囲気を醸し出しているが…こうして建設的に話しているところを見ると、やはり私達よりも一つ上で、経験豊富な人達なのだと思わされる。

かと言ってシオンがそうでないかと言われればそんな事はない。幼馴染とはいえアロゼの魔法にすぐに合わせる様な判断力の速さを持っているし、カロンのいない今、人と連携が得意という点では一番の脅威ではある。

…さて。そんな賢いこの三人を、私はどうやって倒していこうか。


村と呼ばれるこの空間は、思った以上に広かった。始まる前は数日間どう過ごすのだろうと思っていたけれど、これならば何とかなりそうだ。

…ただ、気になる事がある。一つの村に寝泊まりできる小屋が二つで、それが村四つ分で計八つ。それにアウレリア先生が生活する場所も用意されているはず。この量の建物、一体いつ作られたのだろうか…それとも私が知らなかっただけで元からあったりしたのかな。

そんな事をぼんやりと考えていると、先輩達二人がこちらに話しかける。

「行動方針が決まったよ、二人共」

「アロゼちゃんもサバト君も、とりあえずは私達と、四人で動いてみましょうか」

恐らく一つ上の代の中で一番優しそうな男女、クアリゲ先輩とカトロ先輩がそう言った。

その指針に特に不満は無いので、私は首を縦に振る。サバトも同様らしく、了解と一言だけ呟いた。

「あら…特に気になることは無いの?私とクアリゲが黒陣営ならもうこの村はお終いよ?」

しれっと怖い事を言い始めるカトロ先輩の発言を機に、私は少し考える。確かにもしそうならお終いだが…あくまで一例のはず。ただこの人の場合、本当にそういうことがあるから怖いことに変わりは無い。

そうだな…何を聞くべきか。

「質問なんですが、もし先生と遭遇した場合はどうするんですか?」

「あっ、私からも一つ。そもそもどうして四人で動く方がいいと思ったんでしょう。特に文句があると言う訳では無いんですけど…その、二人でも良かったんじゃないかなって」

「おお、一気に来るね」

少し狼狽えつつも、全く嫌そうな顔をしない二人。同時に一気に質問してしまったので少し返答に時間がかかると思っていたが、そんな事は既に決まっていると言わんばかりにすぐに答えが与えられた。

「まずサバト君の疑問だね。これは…正直なんとも言えない。なるべく僕が足止め頑張るから、その間に三人には逃げてもらうつもり。で次は…」

「アロゼちゃんね。二人だと先生に太刀打ち出来ない可能性が大きいってことと、人狼が強く動けてしまうのが懸念点になってしまうと思うの。だから四人で行動するのよ」

「人狼が強く…ですか?」

言っていることは分かるけれど、もし私が人狼だった場合は強く動けない。だって私が得意なのは防御魔法だし、いざ戦うとなると嵐流や花霊等で大仰な戦闘になってバレてしまう。

他の三人であればまだしも、私はそんなことは無いはずなのだ。

「そうよ。私やアロゼちゃんはやっぱり防御魔法で耐久出来るし、サバト君は魔力を吸える、クアリゲは搦手を使って…と言った感じに、それぞれ強みが厄介なのよね」

「そっか、耐久して魔力切れを狙うのも戦術になるんでしたね」

私はヒサメちゃんほど魔力量は多くないし長時間の耐久は不可能だけれど…その説明を聞いて納得は出来た。もしカトロ先輩が人狼だった場合…耐久もしつつ肉弾戦も仕掛けてくるのか。少し怖いな。

明確な理由付けと共に行動指針が決まった私達は、ひとまず四人で共同生活をする事になった。人狼を探すのか、はたまた人狼が動き始めるのか…それはまだ分からない。


イヌ村。そんなふうに呼ばれているが、一人納得していないらしい様子の人がいる。

「みんなさ、狼って犬だと思う?」

「まあ、デカくて怖い犬じゃないでしょうか」

「何この後輩、可愛くないわね」

初対面の先輩から一発目で嫌われてしまった。私は事実を言ったまでなのに。

そんな感じで言葉がキツいライラン先輩だが、体力の無い私をここまで気遣ってくれた良い人だ。今の言葉では…確かツンデレとでも言えば良かっただろうか。興味無いが。

さて、そんなツンデレ村において私は唯一の一年生。背丈は他の先輩方と変わらないので、見てくれは全員二年生だろう。実力もそこまで劣っているとは思わないが。

「リオン、リア、あんたらこれからどうしたい?」

「とりあえず自由行動じゃないでしょうか。そちらの方が戦闘も起こりやすそうですし…」

「リオン、戦闘を良しとするって事は…人狼?」

「ちっ、違います!そもそもそういう目的だったじゃないですか!」

そういう目的、ね。言われてみれば交流と戦闘技術向上目的だったか。

「しかし先輩方、全員戦闘が得意…と言うより、好んでするような人には見えないのだが」

「まあ…そうね。私は平和にやりたいし、リオンに関しては召喚魔法も使わないし、リアは毒で全部解決するし」

一人だけかなり物騒な人間が居た気がしたけれど、気にしたら負けな気がする。なんだ毒って…

それにしても、全員なんとも平和ボケをしているな。悪い事では無い。戦闘のことを考えずとも生活出来る世の中は良い。しかし魔法使いとしての意識はどうだろうか。そんな老人臭い事を考える。

「じゃあ各々自由行動って事で。その代わり、バケモンと遭遇しても自己責任ね!」

「バケモン…ああ、先生の事ね」

相も変わらず、尊敬はされているのだろうが扱いがぞんざいだなあ。

しかし真面目な話、今の魔法使いであれに勝てる人は存在するのだろうか。魔法を否定するような結界、ただでさえ高い技術力に加えて異様に高い応用力と発想力…基本的な先頭から意表をついたやり方までやりたい放題と言う訳だ。

…考えると余計に心配になってきたな。

「自己責任論も分かるけれど、さすがに合図は決めませんか?壊滅させられたら終わりですよ」

「…確かに、ですね。人狼以外に村丸ごと破壊されたら元も子も無いです」

賛同が得られたなら私の考えは間違いでは無さそうだ。こうして心のどこかで警戒視されている所が、あの人に向けられる尊敬の裏返しということだろう。

「良いね、それじゃあこういうのはどう?」

連携がイマイチ足りなさそうだな、と一時期は思ったけれど、腐っても一年以上共に学んでいる仲間らしい。これならば、多少は安心出来るな。

そうして、遭遇した際の合図と取り決めが決められていくのであった。

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