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竜と兎の召喚士  作者: 九十九
北部魔法学園編
31/34

尾行

リアルの多忙に書き溜めのストックが切れたことが重なって更新が遅くなりました

ペース上げていきたいです

「私、もしかしたらカロンより浮いてるかもしれない」

そんなガブリエルの独白を聞いたのはいつだっただろうか。もしかしてじゃないが、という言葉を飲み込みながら当時は会話をしていたけれど、やはり実際のところは浮いてしまっているらしい。

それを実感したのはつい最近。アロゼとサバト、ついでにレイラと話をした時だ。

「君さ、よくガブリエルと話せるよね」

「なんですかそんな腫れ物みたいに。そこまで悪い人じゃないでしょう?」

「サバト君がどう思ってるかはちょっと分からないけど…私は怖いって感じちゃうな。あの人」

怖い…怖い?ガブリエルが?そんな事…

少し考えてみた結果、案外あるなと思った。非知者が理由で1番浮いていたであろう私となんの躊躇いもなく話したり、怪我をする事を全く恐れなかったり、七不思議の一人に対して何一つ臆すること無く口論しようとしたり…言うなれば。

「恐怖が欠落している様子が怖いんじゃないですか?」

「それだな。そんな奴にズケズケと話しかけに行くお前も大概だが」

「レイラ、煽るなよ。ヒサメの言うそれが正解だ」

私だからこそ深く理解出来ているけれど、恐らくこの子達にとってガブリエルは、痛みを全く恐れることなくクアリゲ先輩に打ち勝った人…なんて風に記憶されているのだろう。私もあの光景は少し怖かったし、無理はない。

「これから何年も仲良くやらなきゃならない仲間じゃないですか。食わず嫌いは良くないですよ」

「野菜嫌いの子供諭すんじゃねぇんだから」

「…でも、ずっと怖がってるのも良くないよね」

「まあ向こうからしたら気分は悪いな」

ガブリエルなら気にしなさそうな、実は案外気にしちゃいそうな、どっちの可能性も有りうる。

「話せば分かりますよ。そうですね…人生経験が豊富なおばあちゃんとでも言いますか」

「ごめんやっぱりヒサメちゃんがいちばん怖いかも」

おっと、ご学友達から白い目を向けられている。流石に同級生を老人呼ばわりはまずかったか。

しかしガブリエルがそんな生活をしていた、もしくは今現在もしているのもまた事実。彼女の生活に触れてみると分かることもあるはずなのだ。

「そこまで言うなら、話を」

「尾行してみますか」

…アロゼの提案を遮ってしまった。

「俺はなんでお前が浮いてないのか、不思議で仕方ないが?」


とにかく私が伝えたいのは、ガブリエルはそこまで怖い人では無いということ。ちょっとだけ変な一般魔法使いだと分かってくれるならそれでいい。

場所は変わって広場。昼食の為の場所を探し求める生徒で溢れかえっている。時間も時間だからか、サバトも多くの生徒と同じ目的のためにどこかに行ってしまった。

…アロゼはともかく、どうしてレイラが着いてきているのだろうか。私もよく分からない。

「ほら。別に変な事する訳でもなく、ああして静かに暮らしてるんです」

「逆に怖いよ、ああしてずっと山眺めてるの」

多分黒い砂塵の観察だとは思う…むしろそうじゃなかったら、奇妙どころの騒ぎでは無い。

「研究熱心、という事にしておいてあげてください」

「何に対してだよ…」

「…七不思議?」

「ヒサメちゃん、ほんとにガブリエルさんと仲良いの…?」

少なくともレイラよりは、なんて出かけた言葉を飲み込む。危なかった、こんな広場で戦闘をおっ始める訳には行かない。

そんな風に自制心を働かせながら改めてガブリエルの事を考え…ようとした時、周辺に響めきが起こる。

尾行対象の少女は大きく目を見開いた。つまるところ…

「あれが噂の黒い…雲だったか?」

「砂塵ですね。二人は見るの初めてですか?」

「そうだね、夏休みに学校なんて来なかったし…」

さてこの学園、街に比べると少し高い場所にあるが建物自体はそこまで高くは無いものが多い。普段学園からはあまり出ないから気付かなかったのだけれど…この街出身の二人が一度も見た事がないという事は、もしや黒い砂塵は、そこまで高度のある場所には無いのだろうか?

相も変わらず手の届かないその驚異を無力に眺めていると、アロゼが小声で叫んだ。

「ねえ、ガブリエルさんどこか行っちゃうよ!」

「おい、追いかけるのか?」

アロゼはともかく、どうしてレイラまで尾行する気満々になっているんだ?なんて、疑問を抱いているうちにガブリエルはどこかに行ってしまう。

「行きますよ。私もガブリエルが何してるか気になりますし」


黒い砂塵を見たガブリエルはてっきり自室に向かうものだと思っていた。何故なら私は彼女がその様子を書き留めて居そうだと思っていたから。

しかし実際彼女が向かったのは…図書室。

「飯も食わずに山眺めて本読んでってすげえ生活してるな。食事忘れてたりしないだろうな?」

「まさか。そんな訳…ない、よね?」

「二人共、それも大概失礼ですよ」

結局二人も老人扱いではないか、と直接的には言わず、遠回しに咎める。いや、私がそんな事できる立場じゃないのは分かってるけれど。

レイラは本読んで、と言っていたけれど、図書室に入ってからそんな事をしている様子は一切無い。余程お目当ての何かが奥にあるのか…でもこの先は確か。

「…ヒサメちゃん、私あんまりここ来た事ないんだけど、この先って…?」

そんな質問がアロゼから飛んでくる。私も同じ疑問を抱いていたが、ピンと来ていない人が約一名。どうやら最低限は知っているらしいアロゼと、何も分かっていないレイラ。そんな二人に、本の虫である私が答え合わせをしてあげよう。

「資料倉庫ですよ…もっとも、私も入ったことは無いです」

「私も、ってそりゃそうだろ。あそこ立ち入り禁止だよな?」

「そのはずですけど…」

「…見て、やっぱりそうだよ」

ガブリエルの向く方向は本棚ではなく扉。普通侵入を試みるなら周囲を見渡して慎重に動いたり、躊躇ったりするはずだが、彼女にそんな様子は一切無い。

「これは流石に…話変わってくるぞ」

あそこまで堂々と資料倉庫…禁書庫に入っていける人間なんて…

これは私の推察力が無駄に働いているだけか?でも一番高い可能性はそれしかない。

「禁書庫の番人は…ガブリエル?」

「いや、そんなもんが居ないだろ」

「そもそもあそこに入れるのって誰だっけ…?」

アロゼのそんな問いに、私はレンさんの話を思い出す。

「確かレンさんですら入れないと言っていたはずです」

「教員ですら、か」

私たちは勿論、教員ですら入る事の出来ない空間。その決定もつい最近されたものらしく、上層部の権力拡大についてレンさんが嘆いていたのを覚えている。

…そんな場所に入っていく友人、という口実がある。私はそれを追いかけて入ってしまったとしても、特に大きな罪にはならないはずだ。

「…おい、何してるんだお前。待て行くな止まれ無言で行くな」

「ヒサメちゃん…!それ以上はまずいよ!」

小声の静止をもろともせず、私はその禁断の扉に手をかける。結局二人も私を止めることを諦めたのか、渋々私の横に並んだ。

開けたことの無いその扉は、開ける時にやけに緊張するくせに重さは全く無かった。

軋んだ音を鳴らしながらゆっくりと開いた扉のその先は、陽の光がほとんど入っていない暗い部屋だった。

「なんか気味悪い部屋だね…」

「見られたくない資料がこんなに雑に置かれてていい物なんでしょうか」

薄汚れた本や紙が本棚から落ち、地面や机に敷かれているようだ。立入禁止を制定した癖に整理していないなんて、上層部は一体何を考えているのだろうか。

とにかく、扉を開けたまま中を眺めるのはまずい。幸い真っ暗では無いし、中に入ってからでも、火気にさえ気を付ければ物色…いや、捜索は出来る。

再び扉が軋む音をあげる。立て付けが悪いのか、手でわざわざ引かないと閉まらないみたいで…

「何やってるの、ヒサメ」

「っ…!」

発見までにもう少し時間がかかるだろうと思っていた人物が、そこに居た。声にならない叫び声、と言葉ではよく言うが、実際に私が出すことになる日が来るとは思ってもみなかった。

「こんな薄暗い部屋で、扉の裏に隠れるなよ…」

「追跡されてるのが分かったら逆に奇襲仕掛けないとでしょ…ごめんアロゼ、君まで居るとは思ってなかった」

私よりも驚いたらしいアロゼは、頑張って声を抑えていたが、その反動か私の後ろから動かなくなっていた。仕方ない、私ですらかなり怖かったのだ。よく声だけでも我慢してくれた。

「それで…三人揃って尾行までして何の用?」

「そう言えば尾行してましたね私たち」

「お前やっぱり資料倉庫に入りたかっただけだろ」


尾行の理由を軽く話した後、何故か私たちはガブリエルの作業に付き合わされていた。

立入禁止のはずのこの部屋でなぜ作業をしているのか、と聞かれれば、答えはこの部屋が限りなく黒に近い白い部屋だからだと言うことになる。

「私達生徒の進入が禁止されてるのはご存知の資料倉庫。ここはいわゆる準備室、って所になるらしい」

「だから勝手に入っては黒い砂塵の正体に関する資料がないか漁ってた…って事か?」

「そうだね」

「おい、やっぱりこいつ肝の座り具合異常だぞ」

「でもそこまで怖い人じゃないって事は分かったよね」

「ヒサメの気遣いと尽力のおかげかな」

「ガブリエル、ちょっと静かにしてください」

私を隠れ蓑の様にして印象を改めようとするの、あまりにも質が悪いからやめて欲しい。

「それで、準備室って何があるんでしょうか」

規則で明言されてないだけの部屋、と言う事はよくわかったのだけれど、結局ここに何があるのかはまだ教えて貰っていない。教えて貰っていないのに、私達は探し物をしている。

もし適当に手に取った紙切れが、世界の秘密に関わるものだったとしたらなんて考えると冷や汗が出そうだ。

「資料倉庫から廃棄予定の物らしいけどね。詳しくは分からない」

「だからこんなに汚かったんだ…それにしてもガブリエルさん、その知識は一体どこから?」

「企業秘密」

「ヒサメちゃん、私怖いから帰ってもいいかな」

「これで怖がってたら仲良くなれませんよ。ガブリエル、不思議まみれなので」

ヤバい事に首を突っ込んでしまったとでも言いたげなアロゼの顔は、申し訳ないけれど少しだけ面白かった。しかし帰りたがっているのは止めたい訳では無い。そろそろ時間的に…

「…あっ、予鈴だ。もうそんな時間か」

「私達は行きますけど、ガブリエルはどうします?」

「私はもうちょっと探すよ。幸いこの後は予定がない」

おかしいな。同じ授業を取っていたはずなのだけれど。レイラも同じことを思っているのか、冷たい目で彼女を見つめている。

ともあれ、ガブリエルが怖い人と言う誤解は溶けたようで良かった。私としてはそれで十分だ。変な人に関してはもう自力でどうにかして欲しい。私では無理だ。

「もし何か分かったら教えるよ。協力してくれたお礼と言う事で」

「分かれば苦労しなさそうですけどね…」

「それもそうか。じゃあまた明日、わざわざありがとう」

軋む扉を少し開け周囲を見渡し、教員が居ないことを確認してから三人は外に出た。大丈夫だとは分かっているけれど、一応お咎めが怖い。

…そう言えば、あそこが準備室だと言うのなら本命の資料倉庫は一体どこにあるのだろうか。そんなことがふと頭によぎったが、また次機会があれば聞けばいいと、そう思った。


「…行った?」

「行きましたよ」

正直、リスクのある作戦だったと思う。

尾行に気付いた、までは良かった。そこにヒサメが居たことが一番怖かった。もしも魔力探知とか言う魔法を使われていたら、本当に危なかったな。

「いやあ、肝が冷えたねガブリエルさん」

「まあ資料倉庫でなんやかんやしてるのはバレてるらしいですけどね。禁書庫の番人、とか言って」

「…嘘じゃん」

「残念ながら本当です」

しかし禁書庫の番人と言うのは、私達を指す言葉ではなく彼を指す言葉である。

資料倉庫の立入禁止と言う学則の制定。それに対して何らかの交渉を行い…魔法使い風に言うなれば、代価を差し出し、入室が許された数少ない生徒の一人。

その特異性から、資料倉庫にある世界の謎に関する資料について触れても問題ないとされている人物。

「それにしても、愉快なお友達だったね」

「貴方と同じような人間も居ましたよ…ヨウユウ先輩」

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