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竜と兎の召喚士  作者: 九十九
北部魔法学園編
27/34

未知

「夏休み緊急授業を行います」

「なんか始まった」

罰と称した本気のエルーナ先輩との戦闘、そして黒い砂塵を目にした後に、私達五人はその後の予定も関係無しに教室に向かった。

先程までの危機感に溢れた表情は一体どこに行ったのか、教師としての本領が発揮出来るぞとでも言いたげな表情でレンさんは教壇に立つ。

「授業は良いんですけどその前に、結界の授業について教えてくれませんか」

「みんながみんな使える訳じゃないけど、一応結界の事を教えておきましょうって授業だよ。私だって今は使えないし」

「今は…?」

「あの結界を捨てて作り直す勇気が凄すぎる」

そう言いながら不満げな顔をする先輩二人。

以前は使えていたが、今はそれを捨てて作り直す為に使えない、と言う事だろうか。そして二人がそれを快く思っていない理由は一体何なのだろう。

もしかすると魔法創作の技能が結界にも反映されていたり?それを活かして時折作り替えている…なんて理由なら納得が行く。

「はーいレン先生、質問!エルーナ先輩の結界ってどんなの?」

「あれはね、局所的インチキだよ」

「教師が変な説明するな。結界なんか全部インチキでしょ」

相も変わらず雑な説明をするレンさんと、それに怒るエルーナ先輩。先輩の説明も大概では…?

私は身をもって体験したから分かるけれど、スピカには見えていなかったのだろう。この人の結界の効果は恐らく…防御魔法の無効化。得意魔法である攻撃魔法を全力で活かすためには、最適な効果と言えるだろう。

その予想の答え合わせと言わんばかりに、本人の口から説明がなされる。

「私のは防御魔法を自動で無効化するようになってる。召喚魔法が星霊だから得意魔法を優先した」

「…召喚魔法と結界に関係があるんですか?」

「いい質問だねヒサメちゃん。結論から言うと花霊は結界効果に乗せやすくて、動物系は物による、星霊は基本効果に乗らないんだよ。だから星霊の人は得意魔法を活かす結界になりやすいの」

「…ちょっと待ってください。レイラのゴーストとか、カロンの渡し守とかはどうなるんですか」

「…さあ?」

「さあじゃないでしょ」

説明が分かりやすいんだか分かりにくいんだか…まあ渡し守は特殊過ぎるし、ゴーストはそもそも霊なのでそう答えるのも無理はないか、と一人納得する。

「カトレア先輩、確か花霊の結界でしたよね。あれもかなり強力な効果だった記憶があります」

クアリゲ先輩がそう呼び慕う人であれば、私達の二つ上の代、つまり例のウリエルと言う人と同じ代の人なのだろう。

二つ上…元来よりの天才が揃っているのか、それとも私達もそうなれるのか。真相はまだ、分からない。

「…クアリゲ、私のは強力じゃないよ。防御魔法にしか効果ないんだし」

「強力であろうとなかろうと、半年で習得した事がおかしいんだよ…僕なんかまだぼんやりとも浮かんでこないのに…」

「そうそう。君達の代で結界使えるのはルナちゃん一人だけなんだから。もっと誇りな天才ちゃん」

エルーナ先輩ただ一人が、結界を使える。

知識が豊富なアリス先輩は使えないのか。だとすれば、結界が使えるかどうかに賢いとか賢くないとか、魔法が上手いとか下手だとかは関係ない…のだろうか。

もしもレンさんが以前使えたのであれば、非知者も使えはするのだろうけれど…それが私にも当てはまるかは分からない。少し、不安だ。

「…だから、天才じゃないって…もう私はいいから…」

仲のいい先輩が照れて困り始めた。話題を逸らして、助け舟を出すことにしよう。

「何故種類によってそんな風に差が出るんでしょうか」

「まーたこの子は難しい質問を…クアリゲ君、どう答えるべきかな、これ」

「そうですね…エルーナの月と先生の蓮を例に出してみてはどうでしょうか」

「…それなら行けるか。ありがと、クアリゲ君」

何やら難しい会話が行われた後、レンさんは納得した様子。

一方エルーナ先輩はまだそっぽを向いており、スピカはいまいち授業に付いてこれていないのか、一生懸命何かを考えている顔をしている。かくいう私も、完全に理解できている訳では無い。

「ヒサメちゃんはさ、月と蓮、どっちをよく知ってる?」

「それは…蓮、じゃないでしょうか。月は分からない事だらけでしょう」

人類の手の届かない場所にある物と、水面に咲く花。どちらをより知っているかなんて、後者と即答する以外に選択肢は無いだろう。

「まあそうだよね。だから、花霊の方が結界の効果に影響しやすいの」

「…召喚魔法で出されるものに対する理解度が関係している、と?」

「詳しい事はもう授業の範囲外になっちゃうからこれ以上は言わないけど、まあそう思ってくれて大丈夫かな」

先程の動物系は物によるという発言とこの話の事を考えると、私自身もよく分かっていないこの角の生えた兎を、結界に関連付けることは難しそうだ。

…その場合、もし私が結界を使えるのなら、一体どんな効果になるのだろうか?


「結界の話したいんじゃなくて!あの黒いのだよ黒いの!」

「…教師陣はあれが何か知らないんですか?」

「いや、一応話題にはなってるし、調査も進めようとしてるみたいだけど…」

この言い方だと、恐らく出来ていないのだろう。

その原因も、何となく思い当たる物があった。

それは以前、エルーナ先輩から教えてもらったもので…

「山の頂上に近くて、しかも滞空してるから出来たもんじゃない、でしょ」

「その通り」

そのエルーナ先輩からも指摘されている通り、山の頂上に近いからだ。

あの山は登れば登るほど、大結界と同様に魔力の乱れが起こるらしく、それで調査が出来ないのだろうなとは私も思っていた。

「ねえ先輩、滞空してると何か問題があるの?」

「山の付近で浮遊を使うのは法律で禁止されてる。大昔、浮遊中に魔力が乱れて落下死する事案が相次いだから…らしい。先生、これ歴史で習うの、秋だっけ」

「そうだね。まあとは言え、山脈を越えようとする人がそもそも居なくなって形骸化した法律だし、スピカちゃんが知らないのも無理はないよ」

浮遊の使用中に魔法が切れることを想像してみる。

…恐らく、落ちた先の私の体は木っ端微塵だろうな。

「調査の話は一旦置いておいて…ヒサメちゃんも見えたんだよね?あれ」

見えた、という部分が強調されていたその質問。それを問う真意は間違いなく一つだろうと思い、私はあえて言葉を選んで答える。

「見えました。あれは…魔力そのもの、もしくはただの魔力では無いと思います」

「やっぱりかあ…」

「先生とヒサメさん、魔力が見えないんでしたっけ」

「そ。私達は同じ非知者で、同じ人に拾われて、同じ魔力不可視」

そんな私達にも見える未知のそれは一体何なのか。現状考えられる事はいくつかある。

一、何かの生物

二、攻撃魔法

三、召喚魔法

もしくはこれら以外と言う可能性も有りうるけれど、そうだった場合それは私達の知る物では無い。

以降も他の可能性に関する議論がされ、そしてそれ相応の時間が流れた。

攻撃魔法だった場合は誰の物なのか、何故あの色をしているのか。

召喚魔法だった場合はそもそも何なのか、どのようにしてあの量を出しているのか。

正体は分からないと言う根本は変わらないのだけれど、それでも分かる事が一つあった。

「やっぱり魔物が一枚噛んでる、って事になりそうですね…」

「それも知能高め、もしかすると人型。最悪の場合は魔力量異常持ちの同族…だね」

突然現れているのでただの生物ではなく、攻撃、召喚いずれの魔法にせよ魔力量が異常。

これに該当する魔法使いというのは、私の様な人や魔法の使える魔物のどちらかでしかない。もし後者であった場合、私が遭遇した物よりも遥かに強い可能性がある。

「もしそうなら、私が結界を開いた瞬間に黒い砂塵が出てきたのも、繋がりがありそう」

「…魔力の放出を確認して現れた、という事ですか?」

「そう。あくまで予想でしかないけど」

彼女の仮説が正しかった場合、黒い砂塵と言う何かは、魔力が大量に発現した時にのみ現れる魔法、及び生命体という事になる。

特異な才能や技術を狙う…その特徴はまるで神降ろしの集団の様で…どうにも嫌な妄想が捗ってしまう。この魔力量のせいか、学園に来る途中の私がつけ狙われていたと言う実績も奴らにはある。

この仮説、どうやら可能性はゼロでは無さそうだ。

「とりあえず話はまとまって予想も出たし、この件はしっかり上に報告しとくよ。ごめんね、長時間拘束しちゃって」

「いや、黒い砂塵も見れたしヒサメとも戦えたし私は満足。行こうか、クアリゲ」

「そうだね。では先生、また秋に」

そう言い残し、丁寧に頭を下げてから去っていく二人。

私達も頭を下げて、レンさんはにこやかに手を振って見送った。

予想よりも少し長くなってしまったけれど、日課の練習も終わったし、次は何をしようかと考えていると、ふとレンさんが呟いた。

「…あの二人、付き合ってんのかな」

「それ言ったら絶対嫌われるんで本人の前で言わない方がいいですよ」


風によって運ばれる外気温が心地よい夜、魔法で火を付けた蝋燭の灯りを頼りに本を読む。

今日見た、そして得た情報があまりにも多く、なんとなく眠れずに読み始めたためか、当然本の内容は上手く頭に入ってこない。

大人しく寝ようかと考えた所に、こちらに近付いてくる足音が一つ。

「まだ起きてたんだ、ヒサメ」

「はい。なんか…上手く寝れなくて」

「私も。もうすぐ秋学期って時に、とんでもないもの色々見せられちゃったもん」

あまり乱れていない髪と寝間着を、ゆらゆらと揺らしながらこちらに向かうスピカ。

それを見た私は、長椅子に人一人座れる空間を空ける。

「ありがと…ねえヒサメ、エルーナ先輩の話さ、どう思った?」

「多分考えてる事は同じですよ」

「やっぱり?神降ろし…だよね」

やはり、同じ事を考えていた。恐らく私程では無くても、この子もあの連中の恐ろしさは身に染みている。

…と言うよりも、私のあの生死を彷徨う怪我のせいで、今も怖がらせているのかもしれない。

「エルーナ先輩はさ、私の結界って言ってたけど…ヒサメも使おうとしてたよね、結界。使えるの?」

「スピカは普通に魔力、見えるんでしたね。無理です。あれはただの憶測と、あとは真似事です」

「なんでそれが出来ちゃうかな…と言うかどうやったの…」

「範囲防御に私の魔力を流し込む感じで…って説明でいいんでしょうか。わからないですけど」

「ふーん…いや、話したい事はそんなんじゃなくてね、私さ…もしかしたら狙われてるのがヒサメなんじゃないかなって気がして…」

気丈に振舞っていてもやはり恐怖は感じていたのか、きゅっと手を握られる。

温かいスピカの手と、ひんやりとした指輪。この指輪は文字通り、肌身離さずなんだろうな。

「ヒサメは、居なくならないよね?」

急にどうしたのかと思っていたけれど、ようやく納得がいった。この子は、自分の側からまた人が居なくなることが、たまらなく怖いのだろう。それがカトロ先輩の過去の話と、今日の出来事が積み重なって恐怖が強く出てしまった…と言った所か。

両親は健在でも見てくれなくなった今、いつも側にいて、いつも気にかける私が居なくなると、多分この子は本当に折れてしまう。

「居なくはならないですけど、私の居る生活に慣れちゃダメですよ」

「居なくならないって断言したかと思えば気遣いしてくれないし…でもそういうとこ、ヒサメっぽくて好き」

今度はぐでっと体を私に預けて、寄りかかる。気の置けない親友として認識してくれているのはとてもありがたいけれど…いくらなんでも、気を許しすぎでは無いだろうか。

スピカに触れられている部分が少しづつ温まってくるのを感じる。

冷たい夜風と暖かい人肌。そんな対極に位置する二つを感じながら、もうすぐ秋がやってくるのだなと、私は感じた。

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