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竜と兎の召喚士  作者: 九十九
北部魔法学園編
23/34

クアリゲと七不思議

盛夏の候と言っても、北部ということもありローブが邪魔になった程度。休暇に入ってそれも着る必要がなくなったので、とても過ごしやすい。

そんな過ごしやすい日々を私は、スピカとの魔法練習、読書、日課なんかをして過ごす。まれにガブリエルやレンさんが遊びに来たりもして、休暇とは思えない程充実した日を謳歌している。

今日は探索の日だな、と思いその準備をしていたとある日の午後、スピカが自室にやって来る。

「ヒサメ居る…って何その荷物」

「見るの初めてでしたっけ。外出用のですよ」

「持ちすぎじゃない…?まあいっか。ねえ、学園七不思議の二つが代替わりしたって聞いた?」

「そういうのあんまり代替わり制度採用してないと思うんですけど…というか、そもそも七不思議について全く聞いたことないです」

少なくとも私の知る七不思議、とかの都市伝説は基本伝統として変ることなく、未来永劫語り継がれるものだった気がする。

この世界だとそういうものにまで代替わりと言うか下克上と言うか、そういったものが採用されるのか…と驚きと呆れが同時に訪れる。

「ほら、例の洞窟試験での事件あったじゃない?それから洞窟付近で色々妙なことがあるらしいの」

「それがその二つ、ですか?」

「うーん、細かく言うといくつかあるんだけど、代替わりした二つは火の玉と黒い砂塵かな」

なんでこの世界で火の玉が七不思議入りするんだろう。魔法で出せるはずなのに。

気になるのは黒い砂塵の方だけれど…

「それで、詳細は?」

「ガブリエルと同じで淡々と話すねえ。火の玉は夜な夜な洞窟に入っていくやつで、黒い砂塵はたまに山脈にかかるやつ。」

「火の玉は多分私ですけど、砂塵の方は全く見た事ないですね。夜の話ですか?」

「今なんかとんでもないこと口にしなかった?」

長期休暇から出来た日課、それは山脈の洞窟の探索だ。

現状普通なら入ることの出来ない洞窟だが、学園の上層部との交渉の末、探索の許可が降りた。

交渉、と言っても、端的に言ってしまえば、切り札の二つ目、魔力吸収を取引に出したのだ。

魔骸から魔力が発生したこと、私達の試験を着けていた人が居たこと、これらが引っかかっていた私は、洞窟内部に魔骸が自然発生でもするのではないかと睨み、探索に踏み切った。

長期休暇が始まってから数度洞窟に足を踏み入れたが、依然としてそのような事象は確認出来ていない。

「なんで火の玉がヒサメなの?」

「着火は使い慣れてて魔力効率が良いんですよね。なのでわざわざ松明作るのよりも賢いかなと」

「犯人の自白聞くのってこんな感じなんだね…いや、なんで夜な夜な洞窟付近うろついてるの?」

「調査です」

「また妙な事して…まあでも、ヒサメはあんまり私を巻き込みたくないんだよね。分かってる」

にやけながらこちらを見るスピカ。出会った日のことを、あの拒絶についてを一度しっかりと話してからは、よくこうやって揶揄われる。

何度やられても腹が立つなこれ…いや私が全体的に悪いのだけれど。

「…で、黒い砂塵とやらはいつの時間帯の話なんですか」

「ごめんごめん怒んないで。ガブリエルから聞いた話だと、本当に条件がバラバラらしいよ。私は一回しか見たことがないから分からないけど」

「その言い方だと、ガブリエルは逐一状況記録してそうですね…」

そこまで頻繁に現れるのであれば、尚更私が一度も見た事が無いのは謎だ。いくら出不精とは言え、食材を買いに外に出るし、スピカとの魔法練習だってする。

…どうにも嫌な感じだ。なんにせよ、頭の隅に入れて置いて悪いことはないだろう。

「そうだ、そのガブリエルなんだけど、今から私たちの練習観戦したいらしくて。いいかな?」

「その日は明日じゃないです?だから私、探索の準備してたんですけど…」

「明日はちょっと用事出来ちゃって…今日じゃダメ?」

「…良いですよ。行きましょうか、それなら」

あまりにもスピカに甘すぎる気がするけれど、用事が出来たのであれば仕方ないし、ガブリエルも都合があるだろうし。

…と頭の中で自分を正当化しながら、私は準備半ばに部屋を後にした。


レイラのように局所的に瞬間的にとまでは行かずとも、スピカは瞬間的に防御魔法を展開するようになってきた。

それだけでも大きな成長だ、と思う反面、やはり気になるのは私と彼女の魔力量の違い。しかしそれすら問題にならないほどの大きな脅威は、スピカの攻撃魔法だ。

少しでも私が攻撃の瞬間を逃そうものなら、即座に切り返してくる程に目敏い。おまけにサバトよりも上下左右、遅速を緻密に操り、一切の攻撃の隙を与えようとしない。

体に纏う防御魔法は息が出来なくなりそうで怖い、なんて言う彼女の攻撃魔法は、同じ大きさの鉄球を浮遊魔法で同様に操ろうとするならば、完全に物理法則を無視している程の出来具合。

対人戦では厄介もいいところ。正直、教えるんじゃなかったと後悔している。

ただし

「あっまた…!」

こちらも隙を作ってしまえば、それでいいのだ。

詠唱なしの浮遊…というかもはや急上昇。そこから広域防御でスピカの攻撃魔法を打ち消し、ようやく攻勢に転じる…

「ねぇちょっと待って二人とも、ちょっと止まって」

つもりだったが、ガブリエルのそんな声を聞いて私達二人の動きは止まる。

「どうしましたか?」

「これが当たり前みたいな顔しないで?普通に殺し合いでも見てるのかと思ったし、なんで他の生徒達は見に来ないの、こんな派手な戦闘」

「最初はちょっと見に来てましたけど、三日くらいで誰も来なくなりましたね」

「それ呆れられてる」

それこそ初めての日は寮の方から駆け付けてくる子が結構居たけれど、今となってはこの広場は閑古鳥が鳴いている。と言うか閑古鳥も避けている。

「先生に怒られたりしないの?」

「レン先生?むしろ先生は協力してくれてるよ。ここ使いなーって」

「変な奴しか居ない」

レンさんは喜んでここを使えと言うけれど、他の先生がどうなのかは全く知らない。

どこかで私達の魔法を見ているのかもしれないし、嫌に思っているのかもしれないけれど、今の所特に実害は無いので大丈夫なのだろう。

「最近になって非知者と交流するようになったけど、好奇心も危険信号も凄まじく反応しているよ」

「そう言えば、ガブリエルは学園街の外から来たんでしたっけ。森とか言ってた記憶があります」

「そうだね、ヒサメと同じ感じで、最近出てきたばっかり。でも、私の場合は本当にこの世界の端。具体的に言うと…あっちの方?近くに街もないし、人との交流もほとんどなかったね」

そう話しながらガブリエルが示す方向は、山脈の方、北西辺りを指している。とすると本当に世界の端、言い方は悪いけれど、周りは山と森しか無さそうだ。

「そんな状態だったのに、どうして学園に来たの?」

「学園街に買い物に行った時、その道中しつこく誘われた。何回も」

「あー…」

何年も、とまでは行かないけれど、心当たりがある。

思い返せば、レンさんに複数回お誘いをされた記憶があるし、早く来ないのかと催促されたことに至っては、恐らく両手では数え切れない。

それほどまでに人員が不足しているのだろうか、と新たな疑問が芽生えつつも、話はつつがなく回る。

「ねえヒサメ、黒い砂塵の話聞いてみたら?」

「…そうでした。ガブリエル、黒い砂塵ってどんな物なんですか?」

「ああ、七不思議の。ほんとに砂みたいで、少なくとも霧では無いと思うけど…真偽は不明。絵で描いてみたいところではあるけれど…」

「砂塵だから描くのが難しい、という事ですね」

こくりと頷くガブリエル。見た本人が霧では無い、と言うのであればそうなのだろうけれど、だとしたらますます謎が深まる。

砂のよう、というのであれば、実体や外郭がはっきりとしているのだろう。それに山脈にかかっていると言うことは、ある程度の浮上力も持ち合わせているとなるけれど…まさか、魔骸?

「なんか一人で納得言ったような顔してるー」

「いえ、確証がないので納得はしてません。なんにせよ、一度見て見ないことにはなんとも言えませんね」

そもそも、二人が見えて私が見えないと言うことであれば、黒い砂塵はまず間違いなく魔力で、直ぐさまレンさんに報告しなければならなくなる。

そういう点も込みで、一度目視する必要があるのでは無いか、と推測したのだ。

「…どちらにせよ脅威であることには変わらないですね」

「同感。時期も偶然とは思えないし」

「火の玉…も不思議だしね」

こちらに目配せをしてきたスピカに向けて、首を振る。ガブリエルを信頼していない訳では無いが…首を突っ込まれたくないのだ。言い方は悪いけれど。

そうして話は終わり、この日の練習は、ガブリエルに防御魔法の手解きをして終わったのだった。


日課の時間だ。

夜遅く、誰もが寝静まる時間帯。こそこそと洞窟の手前までやってくる。

何やら私が火の玉として認識されているらしいので、前回の調査の時よりも遅い時間帯に外に出た。

本当に灯りが一つも無く、前回より少し手こずったが、今回もしっかりと辿り着けた。

洞窟までの道はご丁寧に橋一本のみにされているので、その橋まで辿り着かないとまず中には入れない。そして橋を渡った後も奇妙な仕組みがあり…

「火の玉、お前は誰だ」

背後から声が掛かった。想定外も良い所だ。どうして前回より遅い時間に来たのにも関わらず、初めて発見されてしまうのだろうか。

…ここに来るまでに灯りが無さすぎて、しかも手こずったからか。しまったな、スピカの話に惑わされずにいつも通りに動くべきだった。

そして更なる問題は聞いた事のあるその声…

「どうしてここに居るんですか、クアリゲ先輩」

この暗さでもよく分かる、その背の高さ。

「…君、ヒサメさんだっけ。久しぶりだね」

「お久しぶりです。それで、どうしてこちらに?」

「いや、例の火の玉が見えたからね。ここまで来たんだ」

この状況は確かに想定外ではあるのだけれど、私はそこまで馬鹿では無い。無論、こういう時の対処法も既に考えてある。

「奇遇ですね、私もです。暗くて時間がかかってしまって、結局また逃しましたけど」

嘘をつく時、程々に真実も混ぜてやると効果的だと、誰かが言っていた気がする。

「もしかしたら火の玉の目的は洞窟じゃないのかもね」

「ところで先輩、一つ質問があるのですが」

対処法は、一つだけだとあまりにも無策が過ぎるだろう。と言う事で私は、先程から気になっていたことを質問するついでに、即興で芝居を打つことにした。

「どうして学園街出身の先輩が、ここにいらっしゃるのでしょうか」

「まあ僕の方が怪しまれるよね…」

私は寮生だけれど、この人はそもそも学園街が地元のはず。なのにどうしてこの時間に、学校の敷地内に居るのだろうかと、先程から気になっていた。

それに、先輩全員に対して、まだ警戒を解く訳にはいかないのだ。

「…信じてくれるかな?」

「内容によりますね」

話によっては、すぐにこの杖を向けることも辞さないつもりだ。そんな事になって欲しくは無いけれど。

「内緒にして欲しいんだけど…夜間警備の仕事なんだよ」

「夜間警備?」

「そう…今の君みたいな、規則違反してる子を見つける為のね」

「あー…」

今日の私はあまりにも抜け過ぎていた。そう言えば深夜の外出禁止なんて規則もあった気がするな。

「まあでも、僕ら生徒達ならみんな気になってるからね、火の玉にしろ砂埃にしろ…今日は優しい先輩が見逃してあげよう。部屋まで送るよ」

その発言は一見紳士的。では、あるのだが…

「…女子寮、入ってはいけないのでは?」

「…とりあえず、寮の入口まで行こうか」

私の先輩方は、皆面白い人だ。


「罪悪感は一応あるんですけどね」

紳士なクアリゲ先輩の気遣いをひたすら無下にしている気がするが、それでも調査には行かないといけない。

すっかり目が暗闇になれていることに気付いた私は、なんの躊躇いもなくまた外出、そしてようやく洞窟に辿り着いた。

他の洞窟は見たことがないので分からないけれど、ここの内部は着火による灯りを必要としない程に明るい。

その原因こそが、あの事件のきっかけの一部でもあるこの魔鉱だ。今の私には回復結晶意外見分けがつかないけれど、大体は紫や黄色、そして緑の回復結晶で、それらは煌々と輝いていた。

一応どれも調査という名目で私の懐に一つずつくすねているけれど…これはバレたら怒られるのだろうか。

そうして光り輝く道をしばらく歩くと、ぽつぽつと魔物が現れ始める。魔物、と言っても、学園の大結界の外で見られるような獣の形を模した物ではない。これはなんと言うか…奇妙で、何物とも類似していない、言い表せない形をしている。それに、そんな有象無象を倒して発生する魔骸なんかは、すぐに消えてしまう。

「…進捗がないな」

事件現場まで来てもその有様で、本当に進捗が何一つとしてない。魔骸も回収できなければ、特に新しい魔鉱を見つける訳でもない。大結界について何か分かったかと言われればそんなこともないし…

本当に先輩の気遣いを無下にしただけの人じゃないか?私。

…まあまだ調査は片手で数えられるほどしかしてないし、今日は無駄に神経をすり減らしてしまったし…一度帰宅する事にしよう。

この後、スピカに見つかってこっぴどく叱られたのは、言うまでもない。

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