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竜と兎の召喚士  作者: 九十九
北部魔法学園編
16/34

先輩

スピカに起こされることなく、目が覚めた。

普段もたまにある事だけれど、ちょっとした悩みのある今は、それが良くないのかななんて思ったりもする。

そんな気を紛らわせるべく、髪を結って、上着を羽織って、普段なら絶対に行かない防御魔法の授業へと向かう。

人の心なんて魔法では制御出来ず、そのくせ機微ながらも常日頃揺れ動くものだ。些細な事で。

「げ」

「その反応、やめてくれませんか」

「どうした、珍しいね。ご機嫌斜め?」

「げ、とか言われて愉快になる人居ませんよ」

「レイラより友好的だったはずなのに、あんだけ煽り散らした奴目の前にしてげ、が出ないやつも居ないと思うなあ」

そう言う一番乗りのサバトは、また信用の出来ない笑みを浮かべ、頬杖をついて座っている。

私、こいつに関してはそこまで煽った記憶は無いのだけれど…と言うかむしろ、舐めた態度を取られた私が怒ってもいいのでは無いだろうか。勝手に勝ちを確信された挙句、召喚魔法も使ってこなかった輩だ。うん、やはり怒ってもいい。

「それで、なんでここに居るの?天変地異の前触れ?」

「…目が覚めたので、それだけです。友好的にしてくれるのなら、与太話でもしますか」

「そうだね、一つ聞きたいことがあったんだよ…召喚魔法について」

やはりか、と思った。やたらと私のやる事について興味を持っているらしい、そして性格の悪い彼ならば、いずれ聞いてくるだろうとは思っていたのだ。

角以外特に何の変哲もないし、非知者だからで済まされるのも分かりきっているので教えてもいいけれど…流石に等価交換、彼の召喚魔法の情報も引き出さなければ。

「自分は使わなかったのに、私だけに言わせるのは不平等では?」

そう言葉で刺すとサバトは言ってなかったか、と一言漏らす。

言っていないとかでは無く、言わなかった上にわざと使わなかったんだ。嫌味が通じているのか通じていないのか…

「コウモリだよコウモリ。特筆すべき点は相手の魔力を自分のものに出来ること…まあ、その魔力を俺に注入する時に俺も傷付くんだけど…さあ、次はお前の番だぞ」

魔力を自分のものにする、という話を聞いた時、私のあの技術やあの人型の魔物のことが思い浮かんだけれど、それとは違うらしく胸を撫で下ろす。

あの技術は、まだ人に漏らしていいものでは無いのだ。

「私のは前に見てご存知の通り、兎です…で終われないでしょうね」

「ああ、俺は見たからね」

見た、か。相変わらず目敏い奴だ。確かこいつの前では一回しか見せていないはずなのに、あの角は…そもそも兎はそんなに大きくないはずなのによくあの特異性に気付いたな。

「教えてあげたいのは山々ですが、あなたが見た以外のものはありません。角の生えた、ちょっと不思議な兎です」

軽い説明の後、私は杖からその兎を出す。

「…本当に角が生えてる。しかもちょっと尖ってるしちゃんと硬いし。ほんとにこれ以外特異性は無いんだ?」

「だから私も困ってるんですよ。それで、少し聞きたいんですけど…」

と、サバトにあることを聞こうとすると、背後から扉の開く音がした。

こんなに早くに、勤勉な子だ…と思ったけれど、そう言えばサバトはそれ以上に早いのか。一体何故だったのだろう。

「…ヒサメちゃん?珍しいね、この授業に来るって」

「アロゼ、おはようございます。少し早く目が覚めたので」

「来ない理由って寝坊だったんだ…あ、それって例の召喚魔法のウサギちゃん?」

何かあらぬ誤解をした後、小走りでこちらに向かってくるアロゼ。

今までしっかりと話したことは無かったので初めて気がついたけれど、この子はかなり背が小さい。

そんな小さな女の子が兎を抱えている画は、どこかしらに需要がありそうだ。

「可愛い!けど角がちょっと怖い、かも。この子でどんな敵を倒してきたんですか?」

「言うほど実績もありませんけど…質問がちょっと怖いですね」

スピカと違って少しおどおどしているな、と思っていたけれど、結構積極的に迫ってくる子だ。可愛らしさから来る眩しさが私には少しきついかもしれない。嫌いでは無いけれど。

「アロゼは…花霊でしたっけ」

「そうなんですけど、花と言うより…茎?」

「…茎?花霊じゃなかったか」

「説明が難しくて、今ここで召喚も出来ないし…あ、バラって言えば分かりますか?」

バラの茎、と言うと棘だろうか。確かにそちらの方が想像しやすい。

しかしいくら棘があるとはいえ、それを攻撃に転用?花弁はどうなるのだろう。やはり召喚魔法は、言葉だと伝わらないことが多すぎるな。

「あー、棘で攻撃って事か。なら君もあの男も説明に時間がかかるのも納得」

「あっ、シオンは普通に花弁で攻撃するような感じですよ。私よりは役に立つと思います」

「いや、君が役に立たないとは言ってないけど…初見じゃ何かわからないし、弱くはないと思うよ」

花弁ではそもそも攻撃が出来ないのか、それともアロゼの想像力が足りていないのか…どちらかは分からないけれど、花弁でも攻撃ができるなら騙し討ちも出来るようになるはずだ。

とは思ったものの、確かこの子は回復についての研究がしたいと言っていたような気がする。無理に強制するものでも無いだろう。


「…っと、普通に話し込んじゃいましたけど、なんだかこの三人って珍しい組み合わせですね」

「そもそもこの双子が私と話してくれませんからね」

「話して欲しいんなら話して欲しいなりの態度とって欲しいんだけどな…」

召喚魔法の話に続いて、各々の使える魔法、試験の話等をしていると、アロゼがふとそんなことを言い出した。

思い返せば、私はスピカとガブリエルと、アロゼはシオンと、サバトは兄とカロンと話してばかりいる気がする。

アロゼは元より良い子だと言うことは知っていたし、サバトも挑発した時を除けば、どこぞの兄と比べてそこまで悪態はつかない。

「…弟の方はまだ口きいてくれるだけマシじゃないです?」

「俺はお前が意外と話出来るやつって分かったからな。レイラにも煽らずに接してやってくれよ」

「せっかく同期なんだし、私はみんなで仲良くしたいな、って思うけど…」

少し沈黙。アロゼの意見は肯定できる。しかしレイラに皆と同様に接する、と言う事は…

「…出来ると、良いですけどね」

「即答しろ」

私が少し渋ったのには、理由がある。

仲良くなりたくないという訳では決してないのだ。むしろその後にどうなるかが問題だと思っている。魔法があるだけの世界ならばそれで良かったのだけれど、なんと言ってもこの世界には魔物がいる。神降ろしの連中も居る。

仲良くなったその後で、誰かと死別したら…なんて考えると、多分私は立ち直れない。

「どうした?急に黙り込んで」

「…いえ、少し考え事です」

怪訝な顔をする二人は、恐らく何も知らない。

それでいいと思う。非知者と神降ろしのことを知るのは、私達だけでいい。

どうかこれからも、そんなことは知らずに、幸せに過ごして欲しい。

「あれ、ヒサメが居る」

「ほんとだ。朝部屋に居ないと思ったらそういう事か…」

ぼんやりとこの世界の脅威について考えていると、いつの間にか対照的な金髪と銀髪の二人、スピカとガブリエルが教室に居た。

「…ここ現実?魔法で何かしら改変されてない?」

「どんな高度な魔法ですかそれ…失礼ですね、ここはしっかり防御魔法の授業ですよ」

「ああいや、それもそうなんだけど…」

「弟の方も兄までは行かなくても結構仲悪くなかったっけ…?それにアロゼちゃんまで居るし」

誰とでも仲良くなれそうなアロゼはさておいて、私とサバトはこの前の対戦で、容赦のない煽り合いをしたのだ。

二人から見ると、仲良くしていること、と言うか話していること自体が異常なのだろう。

「お互い腹探るために話してたのに、アロゼが来てから雑談に移行して」

「普通にお話してたら盛り上がっちゃって…」

「結果今に至る、ですかね」

「アロゼちゃんの力凄くない?」

確かにアロゼが来ていなければどうなっていたかは分からないけれど、とにかくサバトと話せるようになったのは嬉しい誤算だ。

あとは兄の方だが…あれはもう流れに身を任せるしかない気がする。これからも私にはどうにも出来ないだろうな。


そんなこんなで仲良くなった三人で授業を受ける。周りから不思議がるような目で見られたけれど、特に気にしていない。

「さて、前回の実戦授業を経て、なんでまた今回は座学なんだと思った子もいると思います」

「…確かに?」

そう呟くアロゼを横目に、そういえばそうだなと私は思う。

終わり際にまた今度、と言っておきながら今回はその今度じゃないのだろうか。

と言うかこの前置きから始めた時点で、とてつもなく嫌な予感がする。

「ヒサメちゃん相手じゃ良くも悪くも話にならないということがわかったので」

「気付きが遅すぎるだろ」

「君たちの一つ上の代の教え子を何人か連れてきました!」

直後手招きをするレンさん。先輩方はもうすぐそこにいるのか。

そう思ったのも束の間、入ってくる人達。そして中には知った顔もある。

…この人達もレンさんの無邪気の被害者だろうか。彼らの疲れ切った顔からそんなことが察せる。

「よし、それじゃあアリスから自己紹介」

「はい。アリス・ラパンです…あの先生、何話せばいいんですか」

「…得意魔法?」

「私達これからこの子達に戦闘教えるんですよね!?今言える訳無いでしょう!」

「んー、ヒサメちゃんと違ってスパッと怒ってくれるから気味いいね」

私だって怒りたくて怒っている訳では無いのだけれど。と言うかこの人、私以外にも常々怒られているのか…

「そもそも何するかもほとんど教えてもらってないし…」

レンさんがもし魔法の開発の才に富んでいなかったのであれば、この傍若無人ぶりは許されていなかっただろう。

アリスさんからはどうも私と同じ、腹が立ちながらも尊敬せざるを得ない状態…あの何とも言えない複雑な感情を抱いている、そんな気がする。

「じゃあ次ルナちゃん、お願い」

「エルーナ…何すればいいのかよく分からないけど、連れてこられた…」

「何を隠そうこの子は、すっごくおっとりしてるのに攻撃魔法の成績が一位なんだよ!」

「言わなかったら言いふらす、まさに外道」

「この人には個人情報の概念が無いのかしら…?」

…もしかすると尊敬されていないのかもしれない。

それはさておき、少なくとも一年はレンさんから攻撃魔法を学んだであろう彼ら彼女らの中で一位となると、かなり警戒しなければならないだろう。

現状、私達の中での上位である双子があの出来なのだ。その数倍の練度があると考えると恐ろしい。

「はーい私への文句はさておいて次、カトロ!」

「カトロよ。ヒサメちゃんとスピカちゃんはお久しぶりね。言われる前に言っちゃうけど、私は防御魔法の成績一位よ」

「あら、言われちゃった」

授業が始まる前、一度だけ話したことがある人だ。まさか防御魔法に造詣のある人だったとは。思いもしなかった。

「…あの、レンさん。一つ聞きたいことが…」

「はいヒサメちゃん」

エルーナ先輩だけならば特に疑問に思わなかったけれど、流石にこうなってくると話は別だ。

「この先輩方を選んだのには、なにか理由はあるんですか?」

「二分野の一位が居るとなると、疑っちゃうよねえ…まあ正直なこと言っちゃうと、各分野の手練だね。アリスは魔法全般、ルナちゃんは攻撃、カトロは防御、で最後のクアリゲ君は召喚魔法。それぞれ今この学園にいる私の教え子の中で一番の子達。」

「一番の…」

やはり、そうだ。

この人は教育において、絶対に手を抜かない。

そのことは知ってはいたけれど、まさかここまでしてくるとは…レンさんなりに、洞窟での事件のことを色々考えた結果だろう。

「だとしたら私達勝てなく無いですか?」

「…確かに?」

「確かにって言うのやめてください」

「二対一でもすればいいんじゃないですか」

そう呟いたのは右端のそこそこ大きな男の人。さっきレンさんがクアリゲ、とか呼んでた人だろうか。

クアリゲ、で召喚魔法…鰐?だとすれば順当に強いだろうな。

「ちょうどいいや、最後自己紹介しちゃってクアリゲ君」

「クアリゲです。召喚魔法が上手いらしいですけど、正直こればっかりは生まれつきなので…俺は度外視してください」

「謙遜しちゃって。君の強みと言ったら…いや、これ言うと面白くないか」

とても嫌な会話が聞こえた気がする。知者の人ならまだ予想の余地はあるけれど、私にはそんなものは無いのでそう言う不穏な事を言わないで欲しい。

あと両隣、こっちを見ないで欲しい。私の召喚魔法は特殊ではあっても強くない。やめろ。

「二対一ねえ…普通ならそれが妥当なんだけど、この子達二人一組で連携凄い、みたいなのが多くてさ。だから迷ってるの」

「…そんなこと、ある?」

隣のサバトがこちらを見ながら囁く。

「あると思いますよ。私とスピカはずっと一緒に居ますし、双子もそうでしょう?それにアロゼとシオンも同じ感じでしょうし。年上組二人は…どうか分かんないですけど」

相互理解はどの分野においても確かに強力なものだ。かと言って、今の私が、私とスピカがこの恐ろしい連中に敵うのだろうか?

多分、そんなことは無い。よく出来て五分だろう。

「…とりあえず、なんでもいいからやってみればいいんじゃないでしょうか。私達はこの子達のこと知りませんし」

「それもそうだね。じゃ、アリスちゃんは一番すごい子達とやってもらってもいい?」

笑顔のまま固まるアリス先輩、呆れた様子の他の先輩。

楽しげに、こちらを見るレンさん。

…なんだかまた、とても面倒なことになりそうだ。

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