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竜と兎の召喚士  作者: 九十九
北部魔法学園編
14/34

魔力

身の毛もよだつ魔力を感じてから、私たちはすぐレンさんとの合流を図った。洞窟内のどこか、レンさん達のいる近くで発生していて欲しくないと言う願いとは真逆で、近付けば近付くほどどんどん魔力の気配は濃くなっていく。

「…ヒサメちゃんはこれ、なんだと思う?」

「さあ。私の横腹を持って行った魔物からは感じませんでしたね。一応大規模な戦闘も有りうるので、最高効率で浮遊を使ってください」

「…ヒサメさん?さっきから気になってたんだけど、魔力の増減はどういう仕組みなの…?」

「まだ教えられません。学園に対しても教えてないので」

「学園の転覆でも企んでるのか?」

あらぬ疑いをかけられたけれど今はそれどころでは無いし、これも教えられない。

「…居ました」

人数は五人居る。全員無事だし、魔物の動きは鈍い。問題は、頭痛がするほど周辺にたちこめた嫌な魔力だ。

ガサガサと動く眼前のそれは、小さな骨が寄せ集まった、奇妙な塊。恐らくまだ全貌は出ておらず、壁の中に埋まっている部分があると思われる。

見たことがあるかどうかなんて、今は気にしている場合ではなかった。

「レンさん、状況は」

「全員無事、逃げ推奨。そっちは?」

「全員無事です。一応戦闘出来ます」

「そう。なら…いや、魔力は浮遊魔法に回そう。傷一つ付かないし。となると…こいつを閉じ込める策、ありそう?」

閉じ込める、と言うと何をすればいいのか。物量で閉じ込めても結界の乱れを通過される可能性がある。魔力量で押し切ることはおそらく不可能。

私たちができることはせいぜい、時間稼ぎだ。

「…魔力量異常の私達で叩くしか、ないですかね」

「やっぱそうだよねえ…」

非知者であるが故の強みを、ここで発揮するしかない。

「一度試すだけ試します。支援を」

「分かった。召喚、花霊」

その詠唱と共に現れたのは、大きな蓮の花。すると間もなく、その数多くの花弁を飛ばして攻撃し始める。

そんな召喚魔法を横目に、私は杖に保存していた兎を出す。

そしてそれが地に落ちるよりも早く、詠唱を行う。

「メテオラビット」

そう唱えたのと同時に、膨大な魔力量の兎が飛び出した。

この大魔力兎にさせたいことはただ相手の身体を抉るだけの衝突。隕石の名を冠した詠唱を設定しておけば、速度の想像もつきやすい。

「…ちょっと欠けた?」

「みたいですね」

だとしたら勝機は見い出せそう…

「危ない!」

「っ…!」

突然の高威力の攻撃に激昂したのか、奇妙な化け物は骨をこちらに飛ばす。

「ありがとうございます、アロゼ」

「攻撃は私が見てる、大丈夫だよ」

これがカロン曰く私と肩を並べるらしいアロゼの防御魔法か。

…正直、無ければまた死にかけていたな、これは。彼女には大感謝だ。

スピカから貰った指輪をつける前に呼び出したその兎は、恐らく今の私の総魔力量の三分の一程。今私にある全魔力をぶつければ、行動不能程度になら出来るだろう。

「ヒサメさん、先生、魔力を無くせばいいならさ、俺の召喚魔法で…」

「ダメ、カロン君はまだ内緒にしたいんでしょ?それに、使用魔力の多いものなら切り札に残しておきなさい」

「私達で何とかします。スピカも、一回中止。アロゼは攻撃にだけ注意してください」

「わ、分かった…!」

先程から少しづつ支援をしていたスピカに攻撃魔法をやめさせ、カロンの申し出もとりあえず断る。

今の私の目標は、全員を生きて返すことだ。

「ヒサメちゃん、なんか思い付いた?」

「…一応。けど、今のままだと不確実です」

全力の攻撃魔法をぶつけた所で、先程のメテオラビットのように貫通しない可能性がある。

一時的な意識の喪失と引き換えに撃つとなると、もっと確実な作戦が欲しい。

徐々に魔物の体の露出も増えてきている。もう時間も無い。

ただの攻撃魔法がダメなら、何が出来る?

私の出来る技術で、敵を貫通出来そうな、最大威力の攻撃は?

何か、策を…

「もうこの際なんでもいいだろ非知者!逃げられればいいんだろ、俺達に戦わせる気がないなら隠してるもん出してでも早くやれ!」

「そう言う問題じゃないんです、私のは…」

私が隠しているものは、そんな大仰なものでも無いし攻撃に関するものでも…

…ああ、あるじゃないか。貫通が出来て、魔力量を多くできる攻撃が。

似たもの同士、やっていることは同じ。

でも、魔力の出し方は変わらない。

「そうですね、今思いつきました」

「…は?」

「レイラ、魔剣を貸してください」

眼前に飛んでくる攻撃を防御する。骨一つ一つに魔力が籠っているから厄介だ。

「早く」

「お前本当に…ああもう、やるなら早くやれ!」

私がわかりやすく、取りやすい位置に飛ばされたそれを受け取る。

ここから先は、また即興で、だ。

しかし今からやるそれは、先程一度見ているし、また私が常日頃からしていることでもある。

「レンさん、もし私が倒れたら、お願いします」

敵の動きは鈍いから、浮遊は要らないだろう。

手に握った魔剣に攻撃魔法を纏わせる。

あとは私が動くだけだ。

レイラに出来なかった事を、私がやるだけだ。

見ていろ双子兄、私はお前より早く成長する。

少し重いこと以外、案外魔剣も手に馴染む。ただ、可能ならば、二度と振るいたくは無いものだ。二重の意味で。

「攻撃魔法」

魔剣に纏わせる為、詠唱をする。

どこまで伸びているかも分からないそれは、私の目の前の魔物を、可能な限り斬り裂いた。

まだ露出していなかった部分が思ったより長かったのか、斬りきれていない。

「ヒサメちゃん、大丈夫!?」

魔力をほぼ使い切ったと思っていたけれど、そこそこ残っているらしい。意識は切れていないが、立てるかどうかは…少し怪しいか。

「…大丈夫です、とりあえずは…」

そう言えば、私の魔力ばかり気にしていて気付かなかったが…

「…魔力が、無くなってく」

「ほんとにやりやがったな」

視界はぼやけているけれど、魔物が動いていないことは確認できる。

何とかなった、上手く出来…


どうして、動いていないだけで済んでいる…?


ぼんやりとした頭で、そんな異常事態に気付いた。

「待った、何かおかしい。魔物なら塵になって消えるはず」

「…召喚魔法ってこと?」

いや、召喚魔法も倒されれば消える。それに。

「でもあの魔力量、だったらそんなことが出来るのって…!」

「ガブちゃんも幼馴染も落ち着いて。あのぐらいなら今後湧き出る魔力全てか命を代価にしないと出せないよ」

「だとしたらあれは何ですか、先生」

言われてみれば違和感はあった。欠けた骨はずっと消えずに残っていることだ。

しかしもうただの骨の塊となったそれからは、さっきまで立ちこめていた嫌な魔力は無くなっている。

「どちらにせよ人は関与してます」

残り少ない魔力量とギリギリ保っている意識で声を出す。皆が怪訝そうにこちらを見るが、無理も無い。

「人が関与してる、って…」

「一体誰が何の為に?」

そうか、裏切り者の事実を知っているのは、極小数なんだったな。

今説明してる時間は無い。そこら辺はレンさんが上手くやってくれると信じて…私は私のやるべきことをやるだけだ。

「レンさん、今から本当に意識が切れるまで魔力を使って魔法を撃ちますので…帰りはお願いします」

「立つのがやっとなら、もう浮遊で帰れるほど魔力もないか…分かった、後で絶対、説明ね」

これはまだ、私とレンさんしか知らない魔法。

魔力を見ることが出来ない私達にとって、唯一魔力を頼りにする手段。

それを今から、広域に放つ。

「非知者、ちょっと待…!」

「魔力、探知」

引っかかった魔力は…九つ。

裏切り者は、内通者は、やはり近くに、そして本当に居た。

魔力の存在を探し当てたのを確認してから、数ヶ月ぶりに私は、意識を手放す。

魔力切れでの意識喪失は気味が悪いな、そう考える隙もなく、ぱたりと落ちた。


「もうこれも慣れたなあ」

目覚めて開口一番、そう口にする。

今回は特に体が傷ついていないので、起きるのも容易い。

前回と違うところは、頭痛がする事だろうか。心なしか、目も見えにくい。そうなるのも当然、初めて魔力切れを起こしたのだ。それでも、最後のあの判断は間違っていなかったはず。

魔力探知は、今までずっと隠していた、私の師匠の三つ目の最高傑作。ずっと謎だった、初邂逅時の私の奇襲と目隠しの兎に対して、レンさんが私を見つけ出したその手段。

そして、魔力の見えない人達にとっての最大の希望となりうるもの。

「お、流石に魔力切れともなると長めだったね、おはよう」

「…どれぐらい眠っていましたか」

「今回は丸一日。そしてスピカちゃんも呼んでないから…じっくりお話しようか」

そもそもの魔物との遭遇状況、そして私の魔力探知の結果、共有すべき話は山ほどある。

「じゃあまずは…これだね」

「…なんですか、これ」

レンさんが差し出してきたのは、小さな瓶。その中には見覚えのある黒い塵が入っていた。

「ご存知、魔物が死んだ後に出るやつ、なんだけど…」

「ただの塵では無い感じですね、その言い方は」

会話の流れから、恐らくはあの骨から採取されたものだろう。少なくとも戦闘終了から一日経っていることを考えると、おそらくとても強い魔物の塵のはずだ。

「んー…というより、どうやら元からただの塵では無かったらしい、って言うのが正解かな」

「どういう事です?」

「この塵…まあ新しく魔骸って呼ぶ事になると思うんだけど、これに魔法をぶつけてみると、膨大な魔力が発生するっぽい」

魔骸、と呼ばれるそれに隠された性質は、確かに普通に生きていれば気付くことは無いものだった。

そもそも魔骸が残るほどの強い魔物に出会わないし、出会ったとしても倒せない、倒せたとしてもわざわざ死体撃ちなんかしないし、してる暇もない。

そのはずなのに、なぜ今回このようなことになったのだろうか。

「二つ、気になる事があります」

「いいね、多分私と同じだ」

「一つ、どうして魔骸の効果が発生したのか。もう一つは発生した魔力はどうなるのか」

「やっぱり着眼点良い。一つ目、回復結晶と岩の隙間に撒かれてたらしい。攻撃魔法が撃ち込まれる所だけど、誰のところかは分からない。二つ目、魔骸の数が少ないのと、危険すぎて実験は出来てないから、まだ分かんない」

回復結晶と岩の隙間に強力な魔物の死後に発生する塵がたまたま行き着くことがあるだろうか?いや、普通はそんなことは無いだろう。つまるところ、試験内容が漏れていて、魔骸を設置した何者かがいるという事だ。

やっぱり裏切り者は居るんだな、と些細なことでも実感する。

「…ちょっと待ってください、それ、裏切り者の居る範囲広がってませんか?」

「そうなんだよねえ…試験受けたみんな容疑者になっちゃった…と言うことで、ヒサメちゃんに聞きたいんだけど」

「魔力探知の結果、ですね」

魔力探知にはもう一つ役割がある。自分とは違う魔力を探すことだ。

この世界の魔力は神降ろし以降、召喚魔法の縛りの発生と同時に、誰一人として人と同じ魔力を持たなくなったのだ。そこを活かそうと考えたのが私の師匠だった、という訳だ。

攻撃魔法は攻撃する意思、防御魔法は守る意思を用いて魔力を捻出している。一方この魔力探知は、魔力を探す事を目的とし、その代価に自分の魔力を周囲に放出しているだけの行動。つまり、厳密に言えば魔法では無い。

「結果から言うと、私ができる最大範囲の魔力探知は、九を示しました。私たちの予想通り、裏切り者は確実に居ます」

「…そっか」

間違いのない事実をそう告げると、レンさんは苦しそうな顔をした。今までの中で、一番。

誰が悪い訳でも無い、強いて言うなら神降ろしの連中だけが悪いはずなのに、責任感を感じているのだろう。

「…これから、どうしますか」

「とりあえず、もっと強くなろう。私も、みんなも。正直、ヒサメちゃんが来てくれなかったら、危なかった」

そんなの、私だってそうだ。

スピカの補助が無ければ?魔剣が無ければ?そもそも膨大な量の魔力が無ければ?膨大な量の魔力と言ったって、今回は使い切るほどの事をした。これらが無ければ、どうなっていたかは分からない。

まだまだ鍛錬が足りていない証だ。

それに、これから何度こういう事に遭遇するか、分からない。

「私だって、強くなりたいです」

「そっか、だったらもっともっと実戦向けの授業をしよう。私の教え子も呼んで、そうすれば裏切り者の調査も進むでしょ?」

望みを述べた私を見て、何が良かったのか、レンさんはいつもの調子を取り戻す。

ああ、やっぱりこの人は、こうでなくては。

「…ちょっと、何笑ってるの」

「いえ、やっぱりレンさんはそうでないと、と思ったので」

「そういう君は、ここに来てから明るくなったもんね。私は今のヒサメちゃん、好きだよ?」

私の好きな人達を守るために、もっと強くなろう。スピカも、ガブリエルも、これから仲良くなる人達皆を。

そう決意して、私はこれからも魔法と向き合い、魔法に励むのだ。

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