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竜と兎の召喚士  作者: 九十九
北部魔法学園編
13/34

急襲

ようやく訪れた試験日は、組み合わせの時点から既に波乱が巻き起こっていた。

「非知者と同じ組、ねえ」

「レイラ、お前はもうちょっとヒサメさんと話をしたらどうだ?」

「防御魔法下手なのに、傲慢」

「カロン、天使女、お前らはもう喋るな」

双子の上の方、ガブリエル、カロン、私の組み合わせで出来上がったこの班、正直不安でしかない。

ガブリエルは想定内だからまだいいのだけれど、常に気怠げなカロンと常に私を敵視するレイラ…この二人を飼い慣ら…上手く扱うのが難しそうだ。

「カロンさんはどれぐらい使えますか、攻撃と防御」

「んー…どっちも程々?防御魔法は君とアロゼさんの二強だし、攻撃魔法はスピカ、シオン君、双子が上手でね。それに比べると見劣りするよ」

「使えるのなら良いんです。双子兄の方は?」

「次にその呼び方をしたらお前の防御魔法を吐かせてやる。癪に障るからレイラで良い」

そうは言っても絶対レイラって呼んだら睨みそうだ。いや、睨みそう、ではなく睨む。間違いない。

「ヒサメ、こいつ防御魔法応用できない。球体状態だけ」

「だから下手って言ってたんですか。分かりました、そういう時のために今日呼ばれたので心配しないでください」

「ここで上級魔法を使っても良いがどうする?」

煽り過ぎると本当に上級魔法が飛んできそうなので、程々にしておく。とは言え非常時のために呼ばれたのは本当なので、しっかりと守る意思があることを伝えないと、またこじれそうだ。

どうにかして彼の態度を軟化させなければ、と考えているとガブリエルが助け舟を出してくれる。

「ヒサメはちゃんと君のこと守るよ。そこは安心していい。知者の私の言うことなら信用できるでしょ?」

「…どうだか」

ガブリエルの見事な話術により、とりあえずその場は丸く納まった。

ただの興味でここまで尽くしてくれる彼女には、感謝しかない。

「では行きましょうか。試験内容、覚えてますか」

「松明のある道を辿って攻撃魔法で鉱石を破壊、それを持って帰れば良いんだよね」

一件簡単で些細に思えるこの試験、その鉱石と言うやつが重要になる。

山脈が世界の端と言う説を強めるものの一つに、この洞窟で取れる鉱石に高価なものが多いから、という事がある。例えば今回持って帰るものは、身体の回復に繋がる魔鉱。重宝されるがとても脆いため扱いが難しく、採掘の際に攻撃魔法の精度が試せるからという事で今回の目標に設定したとのこと。

道中も一応試験中ではあるのだけれど、敵が出てこなければただのちょっとした散歩の時間になってしまう。何かを見られている訳でもないこの時間、自然と私の話題になった。

「ヒサメさんって外から来たんだよね?大結界って見えた?」

「いえ、私魔力が見えないので…それに、結界内に入る寸前に魔物に絡まれたりしたので、何も分かりませんね」

「絡まれた、ってことはある程度苦戦した?」

「横腹抉られましたね。今生きてるのはスピカのおかげです」

「…防御魔法を研究しているのに、か?」

煽り…では無さそうだ。純粋な疑問だろう。

これにはどう返すべきか。事実を伝えるべきなのは分かっているが…どう転んでも怖がらせてしまう。あまりにも未知なもの過ぎるからだ。

「防御魔法が貫通されたんです。皆さんは魔法を使う魔物からは逃げた方がいいですよ。私以上、レンさん以上に魔力の扱いが上手なので」

あの時の戦闘は今思い返しても愚かそのもの。教員から直々に招待され、知者の子と旅をして奢った愚かな魔法使いのただの相打ち。今なら兎を大量に呼び出して逃げることを選ぶ。

「…魔物って魔法使うの?」

「あれきりそんな奴は見た事ないですね。人型の魔物が居ることはおじい様から聞いていましたが」

「だいぶ高名な魔物だろ。天使女、なんでお前は非知者と同じ知識量なんだよ…」

「私は森出身の芋女だからね。そんな知識はないよ」

森出身、となるとガブリエルも外から来たのだろうか。そして先程のカロンの発言を考えると、カロンは大結界の中で生まれ育ったのだろう。

そうして私の経験談を交えた魔法の話なんかをしながら奥に進む。世界の端、と聞いていた場所はいざ来てみると大して変わった様子はなく、息だって魔法の使用だって出来る。

問題があるとすれば…

「…魔物だ。カロン、構えろ」

「うわ…そこそこ大きいね」

そこに現れたのは見たことの無い魔物。

今まで見て来たものはある程度生物らしい形をしていたけれど…今回のこれは異形、という言葉が良く似合う。これこそ結界の乱れの産物なのだろうか。

「ガブリエルと私は後衛で。二人は前線を頼みます。攻撃はなるべく攻撃魔法で。私からレンさんに報告するので」

「ごちゃごちゃと指導者気取りか非知者。言われなくても分かってるよ」

そう言って双子兄は敵に向かって走り出す。と言うか、最初からずっと気になっていたけど、彼の持つ武器は…

「…剣?」

「魔剣だね。あんなものを喜んで使うのはバカか誇りに縋ってる亡霊か、本当に強いやつだけ」

バカと亡霊と、強いやつ。

亡霊はよく分からないが、人とは思えないほどの身のこなし、そしてカロンとの連携で一気に距離を詰めるこいつは、強いやつなのかバカなのか…

カロンの攻撃魔法で捌ききれなかった敵の攻撃は、私の防御魔法、ガブリエルの攻撃魔法で妨害する。

双子兄の動き方は正しく猪突猛進。とは言え、正面から来ている攻撃からはしっかりと回避している。棘のある言い方をしながらも私たちの事を信用しているのか、横や後ろを気にすること無く、ただひたすらに距離を詰める。

魔剣を大きく振りかぶると、ぼんやりと刀身が大きくなったように見えた。

攻撃魔法を剣に纏わせた、という事だろうか。

「失せ、ろっ!」

魔物を切ったにもかかわらず、何の滞りもなく魔剣は落ちた。綺麗に切れた魔物はすぐに跡形も無く消えていく。

少し特殊だったとはいえ、攻撃魔法の使い方は上々だ。ただ問題は…

「…レイラ、防御魔法を出しませんでしたね」

「いいだろ別に。攻撃魔法のこと、しっかり伝えろよ」

「そういう訳にも行きません。防御魔法の試験も兼ねていますし、一度ぐらい出せたでしょう。なんならずっと出していても良かったんですけど」

「そんな事をしたらすぐ魔力が無くなる。それができるのはお前だけだ」

「…とりあえず、一度は見せてください。お願いします」

やはり双子兄とはどうも馬が合わない。

このままでは本当にレンさんに報告出来ないので一度は出して欲しいところではあるけれど…本人は自分の視野の外は無警戒。正直言って困った物だ。


その後も双子兄は防御魔法を見せることなく、遂には中間地点まで来てしまった。

先行組…レンさんとスピカが居る班は右の通路に向かったと分かる印が付けられていた。

もう小言を言う気も失せたので、とりあえず目標地点まで到達した時に一度見せて貰うことにしよう。

再度、印を確認する。私達が行くべきは…左側だな。

「こっちに印があったので…」

立ち上がり、今後の進路を報告するために全員が居るであろう後ろを向く。

攻撃魔法が、飛んで来ていた。

咄嗟に防御し攻撃は防いだものの、多少の後ずさりを許してしまう。

何が起こった?いや、誰が攻撃した?ガブリエルは無い、だとしたらカロンは、と思い彼の手元を見るが、杖がない。

とすると容疑者は、もう一人だけ。

「あなたは私の敵になるんですか、双子兄」

「さっきよりはマシになったがやっぱり癪に障るな。少し話をしよう」

今更何を話すことがあるのだろうか。攻撃魔法を撃ってきたという事は、それ以上でもそれ以下でもないだろう。

そしてよく見てみればカロンも、ガブリエルも杖を持っていない。一体いつ、どこに隠されたのか。

「目敏いお前なら気づいてただろうが、俺は魔剣を扱う為に必死に習得した技術が二つある。分かるな?」

「浮遊魔法と攻撃魔法の応用ですね」

先程見えた人のものとは思えない動き方は、恐らく自身に瞬間的に浮遊魔法を掛け、身体能力が高いように見せたのだろう。

そして攻撃魔法の応用は、私と同じように物体の周辺に纏わせる技術を用いたもの。

これができて防御魔法を上手く扱えないのは正直言って疑問でしかないけれど…今は彼を刺激すべきでは無い。

「分かってるじゃないか。だったらなぜ左右をチラチラと見ているんだ?」

二人の杖は一体どこに行ったのか、と探していたが…どうやらそれもお見通しらしい。

「…何が言いたいんですか?」

「俺の浮遊魔法を侮るなって事」

「ヒサメ、上!」

直後、頭上から降ってくる鋭い物体。少なくとも、岩石や大岩の魔法では無い。

「浮遊魔法で自分の体を自在に操ることが出来るようになってから、何故かは知らんが何でも割と自在に操れるようになったんだよ」

そう話しながら余裕そうに攻撃魔法を飛ばしてくる双子兄。先程の落下物…もとい二人の杖が原因で起こった砂埃で、上手く前が見えない。

これも恐らく浮遊魔法を解いたから、では無く、浮遊魔法を使って思い切り私を突こうとしたのだろう。だとすれば、納得の威力だ。

「試験官気取りで色々言っていたが、お前自身の攻撃魔法も見せてもらわないとな…!担任が居ないのは俺ではなく…この班全体だ!」

…双子兄の言い分も確かに一理あるが、頑なに防御魔法を見せない分際でこれを言われていることに、珍しく腹が立つ。

攻撃魔法を纏わせた魔剣をこちらに向けて振るっているが、私の防御魔法もお構い無しに、ただ私に攻撃する事を考えている様な動きを見せる。

しかしこの猛攻の中では喋っても声は届かないだろう。砂埃で状況もよく分からない。

…使うしかないか。

「広域防御」

これは、ずっと練習していた防御魔法の応用、というか厳密には派生。

結界術について考えている途中、それと同じ様にできるのでは無いかと思った。実戦で、それに加えてこんな広い空間でちゃんと使うのは初めてだったけれど、上手くいってとりあえず安堵する。

「満足しましたか、これで」

「それがお前の研究成果か?」

「ただの副産物です」

成程。こうして目立つ物はやはり目視出来ているのか。であれば、身に纏わせている防御魔法はまだバレてないな。

「正直驚きです。あなたの事を舐めていましたから、魔法を物に纏わせる発想が被るとは思っていませんでした」

「…何言ってるんだ、お前は」

「レイラ、ヒサメは常時防御魔法を身に纏ってるんだよ」

瞬間、はっきりと歪む双子兄の顔。嫌がるだろうからバレたくなかったんだけどな、同じ事をしていると分かってから。

「カロン、ガブリエル、私の報復は見逃してくれますか」

「まあレイラも散々やったし…」

「程々にね、ヒサメ」

さて、二人からの承諾も得た。

ここから少し、ほんの少しだけ私の独壇場だ。

「召喚…兎」

レイラの左右、五十ずつ。歪むその顔は、何に対してか。

「っ!?」

反射神経だけは流石の高さを有しているな。またしても浮遊を使って、見事に兎の攻撃を回避した。

そう言えば、ガブリエルが何かを言っていたな。魔剣を使う人はバカか亡霊か、だったか。もし後者であった場合、縋っているそれに攻撃してやると…一体どうなるのだろうな。

「舐めた真似をっ…!」

魔剣を狙った攻撃魔法は真っ直ぐ飛んでいくが…真っ二つに切られてしまった。

舐めた真似、とまで言い切る癖に防御魔法は吐かないのか。本当に、変な奴だ。

「召喚…」

「待て、そのウサギ、得体の知れない物をやめろ」

数で誤魔化せた気になっていたけれど、角はしっかりと見られていたらしい。

懸念すべき点はそこなのかと若干の不満を覚えつつ、私は私の本来やるべきことを思い出す。

何の為に攻撃を仕掛けたのか?手癖で兎を出してしまったが、目的も手段も完全に違っていた。

「今から少しだけあなたを攻撃します。止まった状態でもいいのでちゃんと防御魔法を出して下さい」

「…気付いてたのならなぜ強要した」

やはり、か。確証は無かったが、使えるはずなのに使おうとしないとなると、何かしらの制約があるのだろうと目星はついていた。

何故止まっている状態じゃないと攻撃魔法が使えないと気付けたのか…それは、私もよく知っているからだ。

「本当に止まってじゃないと出せないんですね」

残りの試験の事を考えると、とりあえず私の全力攻撃三秒だろうか。あまり得意ではないのだが。

いつものように防御魔法を吸収し、攻撃魔法を置いておく。すると、魔力量の上昇を見たのか、全員が嫌な顔をした。人間からこれをされるのは、少し気分が悪い。

「レイラ、お前喧嘩売る相手間違ったかも」

生唾を飲む音すら聞こえそうな静寂、全員が、恐らく私でさえも緊張している。

薄々気付いていたけれど、私と彼は似ているのだ。魔法における癖も、魔法の改良方法も。

…私だって、攻撃魔法を使う時は止まって撃ってしまうのだから。

とは言え見るものを見ないと話は進まない。攻撃魔法を…


撃とうとした途端、背筋がゾッとする程の魔力を感じた。


量が?質が?いや、そんな物は分からない。とにかく、不気味で気持ちの悪いものだ。

レンさんが研究中のあの魔法も今は使っていない。そのはずなのに、基本感じることの無い魔力をしっかりと感じる程の嫌な魔力。

「今の…」

「何だ…?」

それをこの場にいた全員が察したようで、カロンとガブリエルの視線が落下物、もとい杖に向かう。

「試験は一時中止、合流を急ぎます」

流石の双子兄でも自体の緊急性を察したのか、素直に右の通路に向かう。浮遊魔法で杖二つを所有者の元に飛ばした。

スピカとレンさんの無事を祈り、私たちは先を急ぐ。

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