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竜と兎の召喚士  作者: 九十九
北部魔法学園編
12/34

探し物

休日、資料倉庫。

…資料倉庫、と言っても実態はただの図書室。一般人は見ることの出来ない資料の入った本当の資料倉庫は、もっと奥にある。

そんな場所になぜ出不精の私が、わざわざ一人で、休日に出向いたのか。それはひとえに、私の召喚魔法のためである。

レンさんや中央学園?を疑っている訳では無いが、私だって今出来ることはしておきたい。そんな一心でやってきたはいいものの…

「また、ない…」

まるで誰かがそれだけを抜き取っているかのように、召喚魔法について記された書物だけが無い。これではここに来た意味が無いでは無いか。いっそ本当に資料倉庫に入ってやろうか。

行き場のない怒りを抱えながら諦観しかけていたその時、見覚えのある顔を見かけた。

しかも…私の目的であったそれを多く携えて。

「休日に何してるんですか、カロン」

「…おお、ヒサメさんか。そっちこそ、どうしたの」

「探し物です。それがそこにあったので話しかけました」

お互い召喚魔法を隠している身。そんな二人が、同じ目的を持ってわざわざ休日にここに出向いたとなると…腹の探り合い、とまでは行かないが、少し警戒をしてしまう。

そんな私と相反してカロンは何も気にしていないらしく、依然その本を見つめている。

「召喚魔法か。そう言えばヒサメさんのって何だっけ?」

「…黙秘権使っても良いですか?」

「良いよ。俺も教えてないし」

控えめに笑いながらも、彼の紙を捲る手は止まらない。

…困ったな、私もそこにあるやつ読みたいんだけど。

「…どれか読み終わったのってありますか?読みたいんですが」

「歯に衣着せぬ言い方するねえ、これとか…これ、良いよ、持っていきな」

「ありがとうございます。横、失礼しますね」

どうせ私も全部読むのだ。持っていきな、では無い。

急に横に座られたことが余程驚きだったのか、初対面の時とは打って変わって珍しく狼狽している。

「なんですか、その反応」

「いや、わざわざ横に座らなくても…」

「これ一冊だけじゃないんですよ、読みたいのは。それにいい機会ですし、少しお話していきましょう」

「あーそう、分かった。ちなみに今の対応で、俺はヒサメさんのこと結構気に入った」

カロンはようやく本から目を離し、私の目を見てそう言った。好きだとか気に入っただとか、魔法使いの興味を持つ基準がよく分からない…

そんな本命とは全く関係のない事を考えながら、手元の書物を流し見る。

…分かってはいたけど、角のある兎なんてものは無いな。それに、おじい様の持っていた少し古そうな本に載っていた召喚魔法が無かったりもする。レンさんの言う通り、文献は中央学園の方が信頼が厚いのだろうか。

一応読み進めて行くうちに動物、幻獣の花霊の項目に入ると、少し気になる記述があった。

「…今いいですか?」

「ん、いいよ。何?」

「この…結界可能性って何ですか?」

この世界に来て三年弱。度々見聞きするその結界と言う文字は一体何なのか…結界可能性、と言う字と共に添えられた一から十までの数字。これは雑に添えられていると言う訳ではなさそうだ。

それにしても、おじい様も使ってるような発言をしていたし…もしかすると結界とは皆当たり前のように使う物なのだろうか?

「俺も詳しくは知らないけど、花霊って結界に取り込みやすいらしいよ」

「取り込む…?」

余計な事を聞くんじゃなかった。誰も悪くない、本当に誰も悪くないが結界についてまた理解が遠のいた気がする…

そのうち知識として習得しなければならないものだとは分かっているけれど、こうも訳 の分からない概要で頭に入ってくることが多いと、少し億劫になる。

「…訳分からん、って顔してるね」

「現時点で結構嫌になってますよ、結界」

今の時点でこれ程嫌になっているのだ。いずれ訪れるであろう、学ぶことの出来る機会が訪れる時が少し怖くなるな。理解し切れるかどうか不安だ。

そんな私の憂いを他所に、カロンは本を閉じて立ち上がる。

「それじゃあ、いい時間だし俺はそろそろ。その本、読んでいいよ」

「…いい時間ってまだ昼前ですし、片付け押し付けて投げようとしてません?」

「…半分ずつで」

「えぇ…」


一体私は朝から何をさせられたのだろうか。そんな気持ちを抱えつつ私は自室に戻った。

流石のスピカもそろそろ起きているはずだ。少し悪いが、不満解消に付き合ってもらおう。

「おかえりーヒサメ。書き置きぐらいしてってよ」

「すみません。急に思い付いた勢いでそのまま出たので…」

真っ当なお叱りだ。休日に好き放題寝ているスピカも悪いとは言え、そもそも意思疎通を図ろうとしなかった私も悪い。

しかしお叱りと言えどそこまで怒っている訳ではなく、反省している私に彼女は質問する。

「…それで、何か得られたものはあった?」

何かを探しに行ったことまでは分かっているらしい。

「あったような無かったような」

「それってどういう事?」

私の率直な感想に対して、愉快そうに笑うスピカ。詳しい説明には時間がかかるし、聞きたいことも出来た。さっさと本来の目的に移るとしよう。

「話長くなりますし、魔法の練習でもしながらどうですか?」

「う…ヒサメの攻撃受けながら話聞けるかな」

「あ、違います。防御の訓練じゃなくてですね」

きょとんとした顔をしながら首を傾げるスピカ。それも当然。今日やろうとしていることはこれまた思いつき、未だにやった事がないなと思ったので、やってみたくなったことなのだ。

「実戦形式でやりましょう。自分達の使える手札を全て使った、ちゃんとした戦闘を」

スピカと、戦う。

共闘と言う点で見れば、彼女はとても優秀な補助役だと思う。召喚魔法で回復が出来る上に、本人の攻撃能力も程よく高い。防御の能力が少し低いとはいえ、そこは私が補えばいい話なので問題ない。

ただ、相手になるとどうだろうか。

程よく高い攻撃能力、と言うのはあくまで様々な魔法使いを考慮に入れた相対評価の上での話だ。それもまだこの世界での生活が浅い私の視点からの。

つまり何が言いたいかと言うと、レンさん曰く、回復持ちであの攻撃能力は割と無法の強さ…との事。どうやら回復役と言う括りの中では、上位の強さを持っているらしい。

そんな復習と、それに対する対策を頭の中で練りながら、広場へと向かう。どうやら使用許可さえ取れば普通に戦闘練習に使ってもいいらしい。

「適当に撃ち始めていい?ヒサメ」

一体何がスピカに無法たる強さを与えているのか。

「良いですよ。私もやるので…回復も遠慮なく使ってください」

「それじゃあ…」

スピカは天に杖を振るう。

私は何を恐れているのか。何故私が恐れるのか。

…答えは簡単だ。私の得意をかき消す程のそれ、だ。

「いつ見ても壮観ですね」

「壮観って…そんな大それた景色でもないでしょ」

「スピカの努力の賜物でしょう。壮観ですよ」

私が壮観だと言うそれは、宙に浮く十発の攻撃魔法。

端的に言ってしまえば、彼女は上等な量と質が両立した攻撃魔法の使い方をする。

「行くよー!」

空に向いていたスピカの杖がこちらに向けられると…十発の攻撃魔法が、それぞれ独立した動きで私に襲いかかった。

「無茶苦茶ですね。敵になると尚更…砂塵、疾風」

もちろん明確な弱点はあるので、それをしてしまえばかき消せるのでいざとなっても問題は無い。

「それ!卑怯じゃない?」

「どの口が言ってるんですか。ちゃんとした対抗策ですよ…召喚、兎」

「それも!!」

無法には無法を、と言いたいところだけれど、私のこれは本当にとてつもない数を同時展開出来るので、程々に抑えておく。

手を抜きたい訳では無いが、なるべく私の兎や彼女の攻撃への対処法は彼女に見せたくは無い。自信の足りないスピカに、自身の技能の凄さを思い知って欲しいのだ。

「それで話したいことなんですが」

「今!?」

驚いた声を出してこちらを見ながらも、スピカは冷静に兎を一匹ずつ潰していく。しょうがないだろう、私も今思い出したのだ。

そして彼女はまた攻撃魔法を複数発出す。次の標的はどうやら私らしい。

「スピカはどれぐらい…っ、召喚魔法について知ってますか?」

質問の最中でも容赦なく浴びせられる弾幕に少し動揺しながらも、冷静に対処する。一つ避けて一つ潰せば、間髪入れずに次の一撃が飛んでくる。

数と隙を見て兎を無詠唱で出しているので、なかなか追撃は飛んで来ない。無理もないか。

「知ってることってっ…!?そんなに無いよ、私とヒサメの知識量って、案外同じぐらいだよ」

そこまで多く兎を出したつもりは無かったのだけれど、どうやら苦戦しているらしく、ところどころ言葉が詰まっている。

防御が苦手なのはあまり良い事では無いけれど、だからこそ防御を使う前に倒し切るという意識そのものはとても重要だと思う。

それはそうと、また一つスピカに言いたかったことを思い出した。

「…スピカ?あなたさも私の事を知者みたいに言いますけど、非知者ですからね」

「…だからどうしたの?」

何も分かって無さそうだ、いや別に分からないから怒っている訳では無いのだけれど。

お互いに攻撃の手を止める。

「そもそも私とあなたでは常識の量が違うんです」

「…?あー、つまり、この世界では当たり前だけどヒサメが知らなさそうなことを教えて欲しいって事?」

「そうです。と言うか、知ってる種類に関しては多分私の方が多いですからね」

「うそお!?」

嘘じゃない、おじい様の書物を舐めないで欲しい。ついでに言えば双子の召喚魔法も概ね見当はついている。

「なーんか不服だなあ、ようやく並べたと思ったのに…で、私達の間じゃ常識な事だよね?」

「ある意味私は一生スピカと並べないですけどね。そうです、都市伝説的な物でも良いですよ」

裏技だの都市伝説だの、その手のものは普遍的に存在するし、むしろそちらの方がこの角付き兎に繋がる情報がありそうだと思った。

「都市伝説…って訳じゃなくて実際に存在するんだけど、たまに召喚魔法二種持ちが居るらしいよ?戦術の幅広がりそうだけど、魔力管理も大変そうだよね」

「二種…ですか。スピカは?」

「私?私は星霊だけだよ。他のやつ知らないって言うのもあるけど」

「逆にどこで星霊を知ったんですか、それ…」

二種類使えるかどうかは生まれた時点で決まるのか、はたまた努力でどうにかなるのか…

いや、そもそも使える召喚魔法自体いつ決まる物なのだろうか。生まれた時か?命名の時か?

…考えても、当然分かることは無い。真相は。

「神のみぞ知る、ってやつですね…」

「なんか言った?」

「いえ何も…っと。やっぱり戦いながらじゃ話しにくいですね。戻りましょうか」

「珍しくヒサメが身勝手だ…!」

事実、カロンにやられた事の八つ当たり…のようなものだ。そう言われるのも仕方ない。

それにしても、やはり知識の擦り合わせはやるべきだ。今後も隙あらばこういう機会は取るべきだな…そんな事を、ふと思った。

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