依頼
ガブリエルとの会話から数日、あれからずっと神様について考え続けていた。
と言っても、しっかりと授業には出ているし、防御魔法の授業を全て出席せずにいたら、どこぞの担任に自室に乗り込まれたりした…等、色々な出来事を体験した。
神様が奪った情報をこうしてずっと考えること、当の本人達にもしバレようものならまずい気もするけれど、私の知的好奇心が考えないことを許さない。しかし。
「ヒサメー、歴史の授業行こー?」
「今行きます」
…と言った具合に、出る授業にはしっかりと出ている。
ガブリエルと言う友達…と言うか、一方的に強い関心を持たれている人も増え、教室での肩身はそれほど狭くもなくなった。
あの双子は私を嫌っているからと言って八分にする気は無いが、花霊幼馴染組とも一度しっかりと話をしてみたくもある。
そんな感じで、しっかりと学生らしく、色々なことに悩んで楽しんでいる。何か一つ世界の謎に関しても悩んでいる気がするけれど、そこは別に良い。
色々考えながら受ける歴史の授業。おじい様から大まかには聞いていたけれど、それはあくまで神降ろし付近の話のみ。誰が魔法を作ったとか、どの組織が何をしたとか、そう言う古い話や細かい話はおじい様から教わってないので、この授業は普通に楽しいものがある。
「…で次はうちだね。北部魔法学園はだいたい今から…三百年ぐらい前かな、に設立されて、その時期にはまだ大結界がなかった…と、この教科書には書かれてる。この大結界は今の結界術をもってしても、仕組みがわかってないの。」
こうして見ると、レンさんは本当に非知者なのかが疑わしく思える。おじい様と彼女自身の努力の賜物なのだろう。
そんな努力の人はと言うと、結界の研究がしたいなら結界術を受けてね、とこちらを見ながら呟いた。要らない気遣いだ。
「次は南部魔法学園。ここは中央とうちに比べると比較的新しめの所なんだけど、結界が無くても生徒が粒揃いだって聞いてる。で、この三学園、開発の南部、総合の中央、改良と発展のうちが揃ってから魔法は劇的に発展していくんだけど…」
そうして淡々と語られていく歴史の授業は、ほぼ魔法史と言っても差し支えのないものだ。おじい様のものがつまらなかったという事では決して無いが、聞いているだけでも楽しい。
私が最低限使える程度の浮遊魔法、これも南部魔法学園の生徒が開発したらしく、向こうには攻撃魔法と似て非なる物もあるとの事。いつか行ってみたい。
…そんな風に授業にのめり込んで、アロゼとシオンと話したいという欲望が完全に忘れられてしまった。
いつものように攻撃魔法の授業を欠席し、スピカに防御魔法を教えていた日の午後、またしてもこの魔法の開発者がお叱りにやってきた。
「君達脅威の欠席率だね。さすがの私も驚きだよ」
「怒ってますか?」
「うーん…ちょっと?まあ君達ならサボってるとかもないだろうし、お互い高め合えって言った私も悪いしね。どう?ヒサメちゃんの攻撃魔法と、スピカちゃんの防御魔法の上達具合は」
どうやらお見通しだったらしい。大人の目は誤魔化せないか。
と言うのも、私が防御魔法が上手なのと同様に、スピカは攻撃魔法の扱いがかなり上手い。知者である事も考え、まずは魔力を出すことから練習を…と色々試していたところ、ただ飛ばすだけの攻撃魔法ではなく、動きが自由自在な攻撃魔法を会得した。流石、もとよりこの世界に住む人間である。
もちろん初心者の訓練ついでに生まれた技術なのでほぼ悪癖に近い。だからこれからも改善が必要だけれど…あれを完全に自分のものにした時、スピカは攻撃と治癒の両立が出来る魔法使いになれる。
「私は正直兎の方が魔力効率がいいんですけど…一応止める技術は習得しようと頑張ってみてます。スピカは?」
「私は多分球体のやつが精一杯かなあ…全身に纏うってなると、なんか息ができなくなる気がして怖くて…」
私とスピカはそれぞれ、攻撃魔法と防御魔法の進捗を報告する。
「んーそれは想像力の問題かな。大丈夫、そういうの全く怖がることなく研究し始めたこの子がおかしいから」
「指差して異常者扱いしないでください。レンさんも最近使ってるでしょう」
防御魔法は私にも見える。最近薄膜を見に纏っている彼女をしばしば見るので、残念ながら把握している。
「あれバレた?」
「非知者ってどうしてこう怖いもの知らずが多いの…」
スピカからの呆れ…と言うか恐れの一言を貰った所で、私は自己紹介の時に疑問に思ったことを思い出す。
「そう言えばレンさん、召喚魔法を隠す意味って何ですか?私隠しちゃったんですけど」
おじい様は手の内を明かすべきでは無いと言っていたから納得は出来る。しかし、実際に色々な魔法使いが隠している事実をこの目で見た今、考えが少し変わってしまった。
「んーそうだなあ…私が知る限りはだいたい二つ。一つは超強力な切り札だから。もう一つは名家が独占してる召喚魔法だからかな。君達の二つ上の代にそういう子が居るよ。今はもう隠してないけど」
なるほど、確かに名前と召喚魔法が結びついているのなら、高名な一族がその権利を有していることもあるのか。
だとすると全ての召喚魔法を集めた書物が存在しないことにも納得がいく。名家様による召喚魔法の独占及び寡占が行われているという事だろう。
「私、先生の召喚魔法について聞いたことないんですけど、もしかして切り札何ですか?」
「あれ、二人に言ってなかったっけ?私はえっと…シオンくんと同じ攻撃特化の花霊。多分蓮の花。まぁいつか見せる機会があれば見せるよ」
この学園に召喚魔法に関する授業は無い。理由としては、この世界におけるそれは個性で、そしてあまりにも種類が多く、一元的に管理できないから…らしい。あくまで表向きで、普通に授業の中で話にあがったりはするのだけれど。
だから見せるとすると実践で、と言う事だけれど、見せる機会はなるべく来ない方がいいだろう。
「でもヒサメちゃんが隠したのは正解だと思うよ。角生えたウサギはちょっと…あまりにも特殊過ぎる」
「にしてもほんと不思議だよねえ…ヒサメの知識には無いの?角の生えたウサギって」
膝の上に兎を召喚してあげると、スピカはすぐに撫で始めた。たまに角を触っては、興味深そうにしている。
「兎は兎ですし、角のある子は見たことは無いですね…」
ただでさえ謎の多い非知者の私だけれど、この兎が一番の謎だ。おじい様ですら初めて見た、スピカは当然見たことがない、同じ非知者のレンさんまで特殊過ぎると言うのだ。
大量に召喚できて、角のおかげで多少の攻撃性能もあり…魔法として見れば優秀だけれど、概念があまりにも異質だ。尖りすぎた個性、とでも言うべきだろうか。
「これはいつか他学園にある書物も見てみないとだねえ。南部は行った事ないけど、中央なら何回か行ったことあるから今度連絡とってみる」
「良いんですか、そんな手間かけさせてしまって」
「いいのいいの、君達二人は愛弟子なんだから、もっと私を頼りなさい…あ、愛弟子の前に生徒としてしっかり授業には来ること。いい?」
「すみません」
「ごめんなさい…」
少しお説教はされたものの、その後はいつものようにお茶会を楽しんだ。
「課外実習…ですか?」
「そう。まあ言っちゃえば、攻撃魔法と防御魔法の試験だね。もしなんかあった時のために、ヒサメちゃんには絶対来て欲しいの!」
「私学生なんですけど…良いんですか?」
「学生の身分で私より防御魔法の研究進めてるくせに何言ってんの。また新しいことしてるでしょ?」
なんでバレているんだろう。監視されているのだとすれば、杖にほぞんされている大魔力の兎を部屋に常駐させ、侵入者を倒す命令を下さないといけなくなる。それだけはごめんだ。
「…なんでそれを知っているかはさておいて、何をすればいいんですか」
「いわば補助監督だね。私一人で八人の面倒はさすがに見切れないから、ヒサメちゃんとガブちゃんに何人か任せようかと思って」
私も呼んだことがないような愛称で生徒を呼んでいることはさておき、私にそんな大役が務まるのだろうか。と言うか試験で何をするつもり何だろうか。
「あの…今更ですけど試験って、何するんですか?」
「ちゃんと実戦で使えるような魔法の授業だと、だいたい山だね」
山。レンさんの口から何度か放たれた事のあるそれはこの学園よりさらに北に位置する山脈の事だ。
上からも中からも、誰一人として越えたことはなく、その向こうは一切が未知。世界の端だとする説もあれば、まだ人類の行けない領域が先にあるとする説もある。
この学園の創設者は後者の説の提唱者で、そこからの魔物の襲来を防ぐ目的で北部魔法学園を設立、以降学園街と魔物の襲来を防いで来た。
ちなみに大結界は山脈の内部で乱れてしまっているため、今では前者の説が有力視されているとか。
「山脈内部では魔物が湧くんでしたっけ」
「そう。だから試験会場にぴったりなの。それにしても、山の内部では乱れるのに、街と学園には一切魔物が入ってこない…大結界の神秘ってすごいと思わない?」
「受けませんからね、結界術は」
以前の授業からやたらと結界術を推される。興味があるのは事実だけれど…私が最終的にしたいのは神降ろしを潰すこと。絶妙に噛み合っていないのだ。
…まあ、詳細を知れば気が変わったりもするかもしれないが。
つれない私の回答に拗ねた顔をするレンさん。
「えー、絶対伸びるよ、君は」
「もういいですからこの話…それで、ガブリエルの魔法の練度はどれぐらいですか」
「ガブちゃん?そうだねえ…防御魔法は上から数えた方が早くて、攻撃魔法は下からの方が早いね」
「攻撃は不得意そうでしたし、納得です」
スピカをレンさんに、ガブリエルを私に付けることによって回復役と監督役を上手く用意出来る。それなら私を監督役に任命してくれたのもうなずける。
「よし決まり、打ち合わせ終了!試験は二週間後…弟子である前に一生徒の君に頼むのは本当に申し訳ないけど、受けてくれて本当にありがとう」
「気にしないでください、色々とお世話になりましたから」
尊敬する人は誰だ、と聞かれたならば、第一におじい様、第二にレンさんを挙げる。それ程この二人にはお世話になったし、恩返しもしていきたい。だからいざ助けを乞われたのであれば、私は積極的に力を貸すつもりでいる。だから私にとって、この依頼は願ったり叶ったりなのだ。
初めての課外活動、久しぶりの大結界の外、同級生との交流。これらがどんな反応を起こすのか、今の私にはまだ分からない




