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竜と兎の召喚士  作者: 九十九
北部魔法学園編
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北部魔法学園

胃痛にまみれた学園生活の始まり。得すぎた情報、担任が師匠、バレたら厄介なことになる調査…どれもこれもあの魔物のせいだ、許せない。

そんな責任転嫁を心の内でしながら、この北部魔法学園に深入りしすぎた事を後悔する。

入学したこと自体に何の後悔もないし、非知者という存在と神降ろしに深入りしすぎたのは別にどうということは無い。何故ならばそれは自分から望んだことだし、いずれ神降ろしは私の手で潰したいとさえ思っているからだ。

一方学園の方はと言うと、先輩方全員の使える魔法はだいたい覚えてしまったし、授業内容は分からないがもし戦闘演習なんかがあれば、恐らく私に利がありすぎる。あと容疑者全員を疑いの目で見てしまうのが、実は結構しんどい。

手に入れた当初は名案だと思っていたその知識が、後にこんなにも重くなるとは思っていなかった。自惚れすぎも程々にしないといけないと思い知らされたな。

教室に行くのも億劫だけれど、スピカは既に部屋を出ている。

「…行くか」

いつまでも部屋に閉じこもっているとまたレンさんが部屋に来る。師匠としてか先生としてかは、分からないけれど。

寮内にも学園内にも、長期休みとは比べ物にならないぐらいの人で溢れかえっていた。思えばこの世界に来て初めてだろうか、ここまでの人波に巻き込まれたのは。

入学式典なんかは正直どうでもいいので、とりあえず教室に向かいたい。見るべきは同じ学年の子の態度。非知者と明かしてどういう反応をされるのか、だ。

扉を開ける。あの名簿と同じぐらい重く感じた。

「ヒサメ、遅かったね」

やはり一番に私を出迎えてくれるのはスピカだった。しかし、三人で話していた所を離れて来た様子。もう人と仲良くなれたのか、すごいなこの子は…

「来るの躊躇ってました。すみません」

スピカに抱きつかれながら教室を見渡す。席の数はそこまで多くない。既に来ている人は、大人しそうな女の子と男の子が一人ずつ、あとは騒がしいスピカの一人で三人だった。

「…あ、二人ともいい子だよ。アロゼちゃん、カロンくん、この子がヒサメ!」

アロゼ、カロンと呼ばれた二人はこちらを見る。あまりスピカ以外と話す気はなかったのだけれど、仕方ない。

「ヒサメと申します、非知者です。よろしくお願いします。」

さて、スピカと同様の反応をされるのか、はたまた…

「スピカちゃんの友達、非知者なんだ…!私、アロゼ。よろしく」

「おー、よろしく。俺身分とか気にしないから、気軽に話しかけて」

一人は朗らか、一人はダウナーと言った感じだろうか。とにかく、私と口を聞いてくれる人が二人も増えたのはいい事だろう。この調子でそんな人が増えてくれるといいけれど。


どうやら私はつくづく悪運の強い人間らしく、スピカ、アロゼ、カロン以外は皆非知者に寛容ではなかった。当たりの強い人が二人だけ、残り三人は避け気味なのが不幸中の幸いだろうか。

まあこの学園の形式を考えると、お互い顔を合わせることもそう多くないだろう。

事前にレンさんから聞いていたこの学校の制度は特異そのもの。特異、と言ってもレンさんの言葉を引用しただけで、私は普通の学校の制度を知らないのでなんとも言えない。

この学園は、私のように勝手に魔法研究を始める人、そして魔法技術の発展の事がよく考えられているらしく、自分自身で出る授業を選択出来るらしい。私の場合は、防御魔法を学ぶ授業は全て出席しないつもりだ。出ても意味がない。

出席するべきは…攻撃魔法と召喚魔法は必須か。そんな風に授業の仕組みを振り返りながら考えていると、前方の扉が不意に開いた。

「みんな揃ってるね。入学式典の方もあるし、さっさと自己紹介と業務連絡を済ませちゃおうか。」

そこから淡々と繰り出されるのは、普段のこの人からは想像もつかない程あっさりとした態度の業務連絡。普段私に見せているあれは一体なんなんだろうか。

久々に見たレンさんの教育者然とした姿を見ながらそんな事を思う。いつもの様子に比べると幾分か頼もしく感じる…気がする。

「連絡事項は以上。私はクジョウ・レン。喜びなさい君たち、私の生徒になったからには攻撃魔法と防御魔法が学べるよ。じゃあ次そうだな…ヒサメちゃん、任せていい?」

どうやらさっきのは、本当に仕事をする為だけの形態だったらしい。自己紹介になった途端、よく見るレンさんに変わった。

一番手を指名されたが…まああの人からすれば適任は私しか居ないだろうな。大まかには済ませてあるため、今度はしっかりとしたものをやろう。

「ヒサメと申します。非知者です。レンさんの…師匠の防御魔法の拡張を実験中です。あとは…結界に少し興味があります。以降授業で同席した際はよろしくお願いします。次、スピカ」

「先生みたいにしなくていいから…えっと、スピカ・アレイです。召喚魔法は星霊で回復が使えるのと、浮遊が特異…なのかな?それじゃあ次は…カロンくん?」

回復、と言う単語が出た瞬間、周囲が少しざわつく。やはりそれほど貴重で強力なものなのだろうか。

「名前、カロン。召喚魔法は内緒。あとなんか言うことあるかな…んー、ないか。次、双子のどっちかやれば?」

手札を隠す賢い魔法使いであるカロンが指名したこの双子。これがなかなかの問題児なのだ。

二人揃って仲良く非知者を嫌悪しているらしく、更には実力至上主義。だから恐らく、同じく非知者でありながら研究成果をあげているレンさんに対しての当たりは強くないのだろう。正しく学園上層部のような人間だ。包み隠さずに言うとすれば、こいつらが一番面倒臭い。

「レイラ・アールバレイだ。これと言って人類に貢献してない非知者は嫌いだから、もし他に居て賢いのなら名乗らない方がいい。」

「レイラ君、あまり煽らない。私だって非知者なんだよ」

「先生は成果があるでしょう?こねくり回して改造するのとは訳が違います」

「それが出来るようになってから言ってください」

「ヒサメちゃん」

「…すみません」

と、言った具合に隙あらば侮蔑される。おじい様の危惧していた事はこれなのか、とこの数時間で何度思ったことか。

「次、俺でいいか。サバトだ。今さっき怒られてたバカの弟。俺も非知者は好きじゃないが…兄ほどでは無いはず。それこそ、そこのやつがしっかり実験の成果を見せてくれるのなら、考えるんだけどな」

もう実験なんて段階はとっくに終わってるんだけどな。見せると言っても分かりにくいし、いくら防御魔法と言えど衝撃は喰らって痛いので、あまり見せる気にはならない。一体いつ仲良くなれるのやら。

双子による強烈な自己紹介が終わり、教室に沈黙が訪れる。どうするんだこの空気。

「…流れ途切れちゃったか。じゃあ次…アロゼちゃん、お願いしてもいい?」

「あっ、はい!アロゼ・ライラです。召喚魔法は花霊で、魔法で人を回復する手段を研究したいです!次は花霊繋がりで…シオンお願い」

「はーい。シオンです。召喚魔法は同じく花霊、アロゼのとはちょっと違うんだけど…まあ似たような、攻撃しか出来ない感じのやつです。次は最後の子、お願いします」

そんな風に仲良さげなアロゼとシオンは幼馴染との事。アロゼ曰くただの幼馴染との事だが、どうにもそうは思えない、何かしらの特別な感情が見える気がして…

…そんな事はさておき、最後の一人だ。

「ガブリエル・ウィル。星霊の子と同じように、召喚魔法で回復使えるけど、星霊じゃなくて天使。だから前線出ません。よろしく」

これで全員の自己紹介が終わった、だろうか。今思えば私、双子、カロンと生徒の半数が召喚魔法の内容を明かしていない。私の場合はどうせ双子が舐めてかかってくるだろうから、が理由だけれど、他の三人はどういう事情で伏せているのだろう。カロンは私を避けないけれど、それでも教えてくれなさそうな雰囲気だ。

しばらくはお互い、腹の探り合いになるのだろうか。どうやら私の胃痛はまだまだ続きそうである。


「天使の知識を教えて欲しい?」

目の前の少女、ガブリエルにそう返される。

私の知識では、ガブリエルは福音、伝達等と関わりの深い天使だ。スピカの召喚魔法について初めて話した時と同様に、その名は私だけが理解出来るものなのか、と考える。

何せこの世界は神によって神の存在が徹底的に隠匿されている世界。彼等と関わりが深いであろう天使が、そう易々と理解される事象では無いのかと思ったのだ。

「はい。ご存知の通り非知者はこの世界の知識が浅くて、私の持っているものと擦り合わせがしたいんです。」

「私の名前、スピカって星の名前らしくて。私はそんな話聞いた事なかったんだよ。」

「んー…私も、それは知らないな。いいよ、天使、教えてあげる」

「本当ですか」

彼女の話し方から察するに、どうやらこの世界に天使の情報はある様子。

「でもただでってなるとなんかなー…あ、実験中の防御魔法?だっけ。それ見せて」

「分かりました。ですがここだと少々やりにくいので、外に出ましょう」

まさかここまで早く手の内を明かすことになるとは思ってなかった。魔法使いと言うのはもしかすると皆、知識欲の化身なのかもしれない。

攻撃魔法、喰らいたくないんだけどな…と一人憂鬱になりながら、足早に外に向かう。

「見せるのはいいんですけど、一つ謝らせてください」

「ん、何?」

「実験中、と言いましたが実は既に完成済みです。あと今も使ってます」

「おー、それはいいね。でもそれと言った魔力が見えないんだけど」

あの人型の魔物やスピカの反応から何となく察しはついていたが、やはりか。

「そこも使える点ですかね。ご覧の通り魔力量異常があるんですけど、誤魔化しが効きます」

防御魔法は、ただ魔力を防衛する意思と共に出しているだけの魔法。その意思のおかげで魔力不可視の私にも見えているが、普通の人達にはどう見えているのだろうかと気になっていたのだ。

予想通り、防御魔法も攻撃魔法も普通の魔力と同じように見えているらしい。

「なるほど、いいね。やっぱり私は君のこと結構好きだ。さ、見せて」

言語から理解することを諦めたのか、早速見せることを要求するガブリエル。人気のない場所まで来ているし、大丈夫だろう。これをよく知ってるスピカも居るし、見せられる。

「じゃあスピカ、頼みます、思いっきり」

「分かった、そこそこの攻撃魔法ね…本当に大丈夫?」

「大丈夫です。話したでしょう」

少し心配しながらも、スピカはその言葉通りに、杖にあしらわれている宝石程の大きさの攻撃魔法を飛ばしてくる。

直撃。当然少し痛むし飛ぶが、体に損傷は無い。

「…吹っ飛ぶね」

「そうですね、防御魔法を体に纏わせてますので。これが私の研究成果です。」

「失敗したな、攻撃魔法と防御魔法をしっかり勉強してから見るべきだ、よく分からない。ちなみに、それが無かったらどうなってたの?」

私やスピカはこの魔法の使い方も仕組みもしっかりと理解しているけれど、やはり初見の人には分からないらしい。思えば私も、初めて見た時はただの球体としか認識していなかった気がする。

「私もそこまで攻撃魔法上手くないからあれだけど、よくいる…そうだな、猫くらいの大きさの魔物は今ので跡形も無くなるかな」

「回復使いのはずなのに意外と怖いね、スピカちゃん」

「ガブリエルさんもなれますよ、そのうち」

「ガブリエル、でいいよ。さて、じゃあ約束の話しようか。と言っても、私が知ってる範囲でだけど。」

「それでも十分です。お願いします」


それから語られたのは、神話のお話。私の持つ知識と同じように、ガブリエルは福音や伝達と関係がある天使の名称との事。他にも聞き覚えのある天使の名前もいくつか出てくる。

神話の流れもだいたい知っているもので、ガブリエルはそれを大まかに語ってくれた。

星の名前は伝わらず、天使の名前は伝わる…

この二つの違いは…一体何だろう。話を聞きながら、そんなことを考えていた。


「…どうかな、満足して貰えた?」

「はい。概ね私の知るものと同じようです」

纏わせをした防御魔法を見せた後、私達は広場の長椅子に腰掛けてガブリエルの話を聞いていた。

「そっか…ごめんね、私は私の天使しか詳しくないの。田舎者だからさ」

複数の天使の名前がある時点で察してはいたけれど、やはりいくつか種類があるらしい。

「にしても不思議、やっぱり神様の名前は出てこないんだね」

「そうだね、神様の徹底ぶりが伺える」

「徹底ぶり、と言うのは?」

大昔の神降ろしの話はおじい様から聞いたけど、その時にも確かに神様の名前は出てこなかった。

本来ならあるはずなのだ。例えば…

…あの神様の名前、なんて言うんだっけ。

「歴史は知ってる?神降ろしで人類に降り掛かったのは呪いだけじゃなかったの。」

「そう、なんですか。おじい様からは呪いが蔓延った、とだけ聞かされました。」

「しっかり歴史も教えられていたんだ。いい人だね、その人は…と、それはさておき」

前傾姿勢になっていたガブリエルは、一度くっと背伸びをし、座り直す。

「神様は人から魔法の自由と、神に関する情報の一切を奪い去ったんだよ…ただでさえ人智を超えた魔法の力を、さらに超えた力でね」

魔法以上の物を扱うと言う彼らは、一体何者なのだろうか。力を見せしめるように振る舞いながら人々の魔法を縛り、情報を奪い…と、そこまで考えたところで、一つの疑問が思い浮かぶ。

「…奪われたんだとしたら、どうして私達は神様の存在を知っているんでしょうか」

元々、存在する神を興味本位で召喚しようとした集団に対する報復であるはずのその行動。であれば普通に人間の記憶から神の存在そのものを消し去ってしまえば良かったのでは?

「…確かに!」

「…疑問に思ったことすらなかった。やはり非知者は興味深いね」

些細な疑問から始まった問答、更にそこから得た新たな神様の情報。

神様は何のために自分たちの名称に関する情報のみを消し去ったのか…言い換えれば、どうして存在する記憶だけは残しておいたのか。

ガブリエルとの会話を経て、世界の謎と、親交が深まった。

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