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勇気とまごころの花

気弱な少年テツノリくん。

ある日、テツノリくんのお母さんが病気になりました。

お母さんを助けたいと思ったテツノリくんは、ある方法を思い出しました。

公式企画「小説家になろう Thanks 20th」参加作品です。


既出小説のキャラクターがゲスト出演していますが、旧作を知らなくてもお楽しみいただけます。


「テツノリー。あとで公園でサッカーやろうよ」


 いつも元気なジュンくんが声をかけました。でもテツノリくんは首を横に振りました。


「ごめんね。ジュンくん。今日は用事があるんだ。さそってくれてありがとう」


 そう言って、テツノリくんはジュンくんと別れました。

実は、用事があるというのはテツノリくんのウソでした。

テツノリくんは気が強いほうではなく、他人と競い合うのが苦手でした。


 テツノリくんは、ひとりでボールをけったりドリブルするのは上手です。 

でも、サッカーの試合をするとすぐにボールを取られてしまいます。


 ジュンくんには悪いことをしちゃったかな……

そう思いながら、テツノリくんは家に帰りました。


「ただいまー。……あれ? お母さん、どうしたの?」


 テツノリくんのお母さんは、部屋にお布団をしいて横になっていました。

珍しくお昼寝でもしていたのでしょうか。


「テツノリ、おかえりなさい。少し頭が痛いから休んでいるの」


「え? お医者さんにいかなくて大丈夫なの?」


「熱はないから、少し寝たら治るよ。台所におやつがあるよ。それを食べて宿題でもやってなさい」



 テツノリくんはお母さんが寝るのを邪魔しないように、部屋をでました。


 ……大丈夫かな……


 テツノリくんは心配です。少し前にテレビで健康番組をやっていました。

頭痛の人が病院にいかずに悪化する内容だったのです。


 お母さんの具合がもっと悪くなったらどうしよう。

救急車を呼んだ方がいいのかな。



 その時、テツノリくんは思い出しました。

亡くなったひいおばあちゃんにきいた話があるんです。

この町から少し離れた森の奥に、どんな病気でも治せる花があるそうです。


 そこは草木の生い茂った薄暗い森で、お化けが出ると町の人がウワサしている場所でした。

いつものテツノリくんなら絶対に近づかない場所ですが、今はそんなことを言ってられません。

勇気を出して花を探しに行くことにしました。



 テツノリくんは自転車に乗って、町はずれの森にやってきました。

うっそうとした森ですが、子供が一人通れそうな箇所があります。

そこに入ろうとすると、チリーンという鈴のような音がしました。


挿絵(By みてみん)


 音の方を見ると、お坊さんが立っていました。

そのお坊さんはテツノリくんに言いました。


「少年よ。この森の花を採りに来たのかな。ひとつ忠告しておこう。心のきれいな者が花を摘むと、その花の汁は病気を治すという。しかしだな。けがれた心も者が摘むと、祟りが起きるというぞ。もしも(やま)しい気持ちがあるのなら、ここには入らん方がいいぞ」


「そうなの? 今日、僕は友達にウソをついちゃったんだ。僕は入れないのかな。……でも、僕はお母さんの病気をなおしたいんだ」


「そういうことであれば、花も(こた)えてくれそうであるな。友達には今度会ったときに謝ればよいぞ。この森の奥に行けば、白いフチの模様のある赤い花がある。病気を治すことを念じながら、花の下から十センチのところで(くき)から抜くようにすればよいぞ。根は抜かずに、花を何本か抜いてきなさい」 


「ええと……花の下の方の茎をぬけばいいんだね」


「いかにも。それからこれを貸してあげよう。分かれ道ではこの先が向いた方に金目の……いや、価値のあるものを示してくれるぞ」


 お坊さんはテツノリくんに、黒い紙を細く巻いた()()()を差し出しました。



「うん。わかった!」


 テツノリくんはこよりを受け取ると、暗い森に入りました。

じめじめしていて、むわっと草やコケのにおいがします。

先がよく見えず、ほんとうにお化けがでそうな雰囲気で、まるで別の世界に入ったかのように感じられます。


 怖いのを我慢して、テツノリくんは子供一人がやっと通れそうな道を進んでいきました。

しばらくいくと分かれ道にきました。テツノリくんはこよりの向いた方に進みました。


 やがて少し開けた場所にでました。

お坊さんが言っていたような赤い花が咲いていました。花びらに白い点々の模様があります。


挿絵(By みてみん)


 テツノリくんはお母さんの病気が治ることを祈りながら、花を摘んでいきました。



 森から出ると、お坊さんが待っていました。

テツノリくんがこよりと花を渡すと、お坊さんは一本ずつ花を確認していきました。

そしてお母さんの症状をきかれたので、テツノリくんは頭痛のことと熱がないことを伝えました。


「その症状なら、この花がよかろう。押し花にして食えばよいのだが、気味悪がるかもしれんな。花の汁をジュースに混ぜてこっそり飲ませるのがよいじゃろう」


「え? それだとお母さんをだますことにならない?」


「人助けのためのウソもあるのじゃ。こういうウソなら神もホトケも許してくれるじゃろう」


 そう言って鈴をチリーンと鳴らした。


「わかった。お坊さん、ありがとう!」



 テツノリくんは自転車に乗って、一輪の花を持って帰りました。

家に着くと、ジュースをコップに入れ、その上で花びらを絞りました。

ぽたぽたと数滴のしずくが落ちました。


「お母さん、起きてる? ジュース持ってきたけど飲む?」


「あらあら、気が利くわね。水分補給をしたいと思ってたのよ。いただくわね」


 お母さんはジュースを飲みました。


「あら、おいしい。それに頭痛もすっとおさまったみたい。テツノリ、ありがとう」


「よかったー」


 テツノリくんはにっこり笑いました。



 次の日、ちかくの公園をお坊さんが通りかかりました。

公園の中を見ると、友達といっしょに元気にサッカーをしているテツノリくんの姿があります。


「どうやら本当に効いたようじゃのう。今時は珍しい、べりぃないすな心をもっているのじゃな。感心感心」


 お坊さんは手提げに入れた押し花をちらりと見ると、ほくほくした様子で歩いていきました。


ひだまりのねこ様に描いていただいた懺念法師(さんねんほうし)、通称『残念さん』です。

挿絵(By みてみん)


他の方の「小説家になろう Thanks 20th」参加作品や、怪しいお坊さんの他の登場作品はこの下の方でリンクしています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 花を探すところではなく、最後のサッカーをするところが「勇気」の回収なのだろうと思いつつも、ともかくも気持ちの良いお話を楽しませて貰いました。 [気になる点] 最後のお坊さんのvery ni…
[良い点] テツノリくん、勇気を出してがんばりましたね。 お母さんの頭痛も治って良かったです。 お坊さんが良いキャラでした。 読ませていただきありがとうございました。
[良い点] ほのぼのしているところ。 短編ながらキャラクターの設定が自然と伝わる描写、その魅力が伝わってくるところ。 [気になる点] 花の形。架空の花なのだと思います。どちらかというと、野生の蘭の仲間…
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