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梟の王子と鳩の王女  作者: 八刀皿 日音
Ⅲ章 祖の心か、梟の真意か、鳩の真実か

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 6.復讐に、手を血で染めるのか


「つまり、結局お前……この作戦にマールを加えるために、余計な波風を立てたくなかったってことか?」


 侵入の下準備にと買い取った露店を離れがてら、レオが問い詰めると……ロウガはあっさりとそれを認める。


「そりゃそれが第一だろ。

 ……何だ? 本気でケンカの仲裁でもしてほしかったのか?」


 からかうようなロウガの返答に、レオはついとそっぽを向く。


「……くそったれが。子供じゃあるまいし」


「子供だろ。少なくとも舌は」


「あくまで好みの問題だって言ってるだろ。

 ……いや、そんなことよりも、奴らがマールを捜してるって話はどうなんだ?

 そんな状況で、奴らが開くパーティーに紛れ込むとか……いくら何でも危険過ぎる。

 ナローティの方はまだしも、バシリアは間違いなくマールの顔を見知っているんだぞ?」


「だろうな。――だが逆に、だからこそ、とも言える。

 向こうも、まさか捜している人間が自分から懐に飛び込んで来ているとは思わんだろ。

 ……もちろん変装はさせるし、極力接触しないようにお前がエスコートする必要はあるが」


 自信に満ちたロウガの言にも、レオはなかなか渋面を崩さない。

 その様子にロウガは、妹の身が心配なら素直にそう言えばいいものを――と、相棒の子供っぽい頑固さに心の中で苦笑する。


「なあ、レオ。改めてはっきりさせておくぞ?

 ――お前は結局、どうしたいんだ?

 お前に今のような生き方を強いるきっかけになったアイツらを……自分を殺そうとした連中を。

 ……殺してでも、復讐してやりたいか?」


 ロウガの問いかけに、足を止めたレオは視線を落とし――〈仕事〉のときには短剣を挿している腰の辺りを、何かを確かめるように手で叩く。


 ――憎いかどうかで言えば、間違いなく憎い。

 さらに、この数日で明らかになってきた彼らの所業も鑑みれば、いっそ殺してしまったところで、さほど良心の呵責を覚えないのも確かだろう。

 そして……ただ殺すだけなら、オヅノから叩き込まれた〈(シノビ)〉の技をもってすれば、簡単とまではいかなくとも、不可能なほど難しくないのも事実だ。


 しかし――と、レオは小さく首を振る。

 もとより綿毛のように軽い殺意は、それだけであっさり掃き捨てられる。


 ……レオとて、これまで人を殺めたことがないわけではない。

 人買いの監禁から逃れて放浪する中、盗賊などから身を守るため、やむを得ず相手を手にかけたこともある。

 だが、そこに私情はなかった。

 人を殺める罪は同じだとしても――私情によって、望んで手を汚すことだけはしなかったのだ。

 そして、これからもそれだけはするまいと、彼は改めて思い直す。


 たとえ復讐のためでも、それが私情である以上、奴らと同じに成り下がる――と。


「……馬鹿馬鹿しい。

 アイツらに、自分を貶めてまでこの手で殺してやるほどの価値なんてあるもんか」


「その1人に、仮にオフクロさんが混じっていたとしても――か?」


 重ねての問いに、レオは僅かに眉を動かしたものの、やはり首を横に振った。


「尚更だ。息子を殺そうとするような女のために、わざわざ手を汚してたまるか。

 ……大体、〈黒い雪(ネロ・ネーヴェ)〉にとって、私情に駆られての殺しは御法度――だろう?」


 レオの答えに、ロウガは口元を緩める。


「殺すための道具を、相手を殺さないように――且つ、自分が殺されないように効果的に使う一番の方法は、その道具を理解することだ。

 だからこそオヤジ殿はお前にも、殺しの技を徹底的に叩き込んだ。

 ……熱くなって、独断専行で兄弟に迷惑かけるような真似はしても、そこのところはきちんと覚えているらしいな?」


「だから、それは謝っただろうが。

 しつこいぞ、くそったれめ」


「拗ねるなって。

 ……ともかくほれ、殺さないとはっきり決めたなら、その他の方法で奴らを吊し上げるためにも、手掛かりを徹底的に追いかけるしかないだろ?」


 冗談とも本気ともつかないロウガの物言いに……。

 レオはその顔をちらと見た後、力が抜けたように大きくため息をついた。


「分かったよ、仕方ない。

 虎穴に入らずんば虎児を得ず――だったか。お前の計画に乗ってやるよ。

 ……マール本人が承知すればな」


 ロウガは、そこは任せておけ、と、レオの肩を叩いて歩き出した。


 レオも早々に後を追おうとしたものの――そこでふと思い出して、懐に手を入れる。

 そうして彼が引っ張り出したのは……マールにせがまれて作った、あの揃いの首飾りの片割れだった。

 あれ以来仕舞いっぱなしだったのを、『マールが手掛かりを持っているかも知れない』という、先のやり取りの話で思い出したのだ。


 もしかすると、その造りに何か秘密でもあるのか――と。


 マールが引いた精緻な図面通り、彼女の持つ本物とほぼ同じ造りに仕上がったはずのその首飾りを、彼は色んな角度から観察してみる。

 しかし、そうして見つかったのは……いつの間に付いたのか、裏側の、何かで引っ掻いたような小さな傷だけだった。


「……昨日、か? 結構激しく動き回ったしな……」


 一見すると純銀にも見えるが、純銀でこれだけの細工物を作るとなれば資金も手間もかかりすぎる。

 なので、実際に材料として使ったのは、(スズ)など安くて柔らかい素材を混ぜ合わせた、見た目こそ純銀に近いものの、それよりもよっぽど加工がし易い合金だ。

 そして、加工が容易ということは同時に、変性も耐熱性も、純銀に比べて低いということでもあり……。

 記憶に残るような強い衝撃でなくても、傷が付く程度は充分ありえる話だった。

 むしろ、もっと酷いことになっている可能性もあったはずで――。


 そこに思い至ったレオは、別のポケットから布きれを取り出すと……それで首飾りをそっとくるんでから、改めて懐に戻した。


「もっとぞんざいに扱うと思ってたんだがなあ」


 いつの間に戻ってきていたのか、レオの手元を覗き込んでロウガがのんびりと呟く。

 気を取られていたレオは一瞬驚くものの、すぐつっけんどんに言い返した。


「……一応、手間暇かけて作った物だからな」


 ――そもそも、そうして精魂を込めて作ったのも、約束通りに持ち続けているのも、妹を想う心が――引いては、家族を想う心があるからこそだろうに。


 そんな風に思いながらも、しかしそれを口に出すことはなく……ロウガはただ小さく肩を竦めて、きびすを返した。




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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱシスコンなんすねえ(ニヤニヤ)。
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