表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
梟の王子と鳩の王女  作者: 八刀皿 日音
Ⅲ章 祖の心か、梟の真意か、鳩の真実か

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/74

 5.パートナーの条件


 ……街中の賑わいは、この数日というもの、日ごと目に見えるほどに増してきていた。


 旅人らしき人間の往来が増え、露店の数が増え、軒先に並ぶ品の数が増え、忙しく立ち働く人の数が増える。

 活気が漲り、熱気が街全体を覆う。


 ――まさに、祭りだ。

 〈聖柱祭(グラン・グラツィア)〉本番へ向けて、いよいよもって街は祭り一色に染まっていた。


 特に、〈麗紫(ヴィオラ)商会〉の本店が軒を構える央都中心街ともなると、それは殊更に顕著で……。

 日の高い時間ということもあって、それこそ流れを形作るほどの人手のただ中を、泳ぐように縫いながら……レオとロウガは、商会本店の周囲をぐるりと一巡りする。


 明日の夜、〈麗紫商会〉で開かれるパーティーに忍び込むための下準備だと、ロウガに連れ出されたものの……未だ詳しい話を聞けずにいるレオは、ただ困惑するだけだった。

 そもそも彼にしてみれば、昨日、見取り図で内部構造は頭に叩き込んだのだし、何より実際に一度忍び込んだ場所だ。

 確かに、パーティーが開かれるとなれば状況は昨夜と変わるだろうが――それでもわざわざ今さら、もう一度下準備とやらに来る理由が分からない。


「……で?

 そろそろ話してくれてもいいだろう、何を企んでやがるんだ?」


 ロウガが、何気ない様子で目抜き通りから折れ、細い路地を覗き込むこと3度目に至って――ついにレオは、そう話の口火を切った。


「ん? 何だよ、いい加減気付いてると思ってたんだが……まだだったのか?」


「だからこうして聞いてるんだろうが」


 口を尖らせるレオをまあまあと宥め、一瞬周囲を窺い――人通りはあるものの、却ってその騒々しさから問題ないと判断したのか、改めてロウガは答える。


「まあ、お前には、明日のパーティーに紛れ込んでもらおうと思ってな」


 そんなことは分かってる、とばかりに不満げにレオは()め付けるが……ロウガは何処吹く風で調子を崩さない。


「貴族や豪商が集まるような会に、野郎が2人――それも、俺のような礼儀知らずと連れ立って参加するわけにもいかんだろ?

 だから、お前には相応しいパートナーをエスコートしてもらう。

 ……つまり今日は、お前だけじゃなく、素人を1人連れても容易に侵入出来るような足場を築きに来た――ってことだ」


「……なるほどな。

 で、パートナーってのは? サヴィナにでも頼むのか?」


「サヴィナなあ……着飾れば、アイツも見た目は十二分に合格点なんだろうが。

 残念ながらアイツも俺と同じで、根っこに染みついた自然な礼儀作法ってやつを持ってない。

 王族出のお前に合わせて、貴族どもの中に自然に溶け込むのは難しいだろう」


 しばらく辺りを見て回っていたロウガは、そう語りながらも、やはりこっちか……と、きびすを返し、もと来た道を戻り始めた。


「なら、どうするんだ?

 〈蒼龍団(ザフィル・ドラグ)〉が面倒を見ている娼婦の中に、貴族出身者がいたか?」


「まあ、小さい没落貴族の出の娘なら、いることはいるぜ?

 だが、それよりもっと相応しい人間がいるだろうが?」


「…………。

 お前、まさかとは思うが……」


 眉をひそめるレオ。

 一方ロウガは、答えを保留すると……路地を1つ抜けた人気の少ない裏通り、大きな壁の袂に粗末な露店を開いている老人のもとに近寄っていく。


 そして、老人と何事かを話し合うと、傍目(はため)にも大金と分かる金貨袋を手渡した。


 中身を確認した老人は、目を白黒させていたものの……やがて笑顔になり、何度もロウガに頭を下げながら、店も商品も置いたままそこから走り去っていく。


「……何をしたんだ?」


「この露店と商品全部、まとめて買い取っただけだ。

 ……ちょいと色を付けてやってな」


 答えてロウガは周囲を見渡す。


「露店の屋根を足場に壁を上れば、そこを伝って〈麗紫商会〉本店の庭まではすぐだ。

 ついでに、ここなら人目には付きにくいし……繋がる通りが少ない上に道幅が細いからな、ちょっとした騒ぎを起こして道を封鎖するのも容易い」


「それは分かった。で――さっきの答えは」


 ちょっと待て、とレオの問いかけを手で制すると――ロウガは小さく鋭く、指笛を吹く。


 すると、彼らの近くに付いていたのだろう、1人の青年が路地の奥の方から駆け寄ってきたかと思うと……。

 そのままロウガの指示に従って、さもここはもとから自分の店だった――と言わんばかりの自然さで、露店の奥に座り込んだ。


「で、お前のパートナー候補の話だったか。

 ――先に言ったよな、パーティーに紛れ込む目的は、あの鉄箱を開けるためのものを盗み出すことだと」


「ああ。言ったな」


「鍵そのものを盗むのは、お前が言ったように難しい。

 だが……その〈構造〉だけなら、どうだ?」


 レオを振り返ったロウガはニヤリと笑う。

 そこでようやく、レオもロウガが言わんとしていることに思い至った。


「気付いたみたいだな?――そうだ。

 あの娘は〈(ハト)の目〉……一目でも見たものなら、完全に覚えていられるほどの尋常じゃない記憶力を持っているだろう?

 その上さらに、それを細緻な図に描き起こすだけの画力もある。

 そこに、昨夜実際に鍵を調べたときに得た、お前自身の記憶と感覚、技術が重なれば……本物と変わらない複製を作ることが出来るはずだ」


「……しかも、礼儀作法という条件まで完璧、ってわけか」


 眉根を寄せたまま、レオはとんとんと眼帯を指で打つ。


「ただ、一番の問題は……。

 お前が頑なに嫌がるんじゃないか、ってことなんだが」


「嫌に決まってる。第一、本人の意志もあるだろ。

 それにお前、分かってるのか……?

 アイツらが捜してるんだぞ、マールは!」


 数刻前、〈酒盗亭(しゅとうてい)〉でやり取りしたばかりの会話を思い返しながら……レオは声を荒げた。





「……アイツらが、マールまで捜してるって?」


 オヅノの話を聞いたレオとロウガは、さすがに驚いた様子を見せた。


「どういうこった? 別にあの嬢ちゃんが行方不明だろうと、アイツらにはどうでもいいことなんじゃねえのか?

 人質にする――には、継承権もない末の王女ってんじゃ、冒す危険に見合う成果があるとも思えん」


 ロウガの疑問にレオも首を捻る。


「親父を非難するだけなら、重臣の1人として予め知らされていたにせよ、あるいは後から自力で知り得たにせよ……王女が姿を消したこと、そして父としてそれを知りながら隠して公に捜そうともしなかったことなどを暴露して責め立てればいいだけだ。

 わざわざ、マール本人を捜す必要なんてない。

 ……となれば……他に考えられる理由は2つだ。

 今奴らが進めているだろう、王位を得んとする計画を悟られないように……表向きは親父への恭順を装うため、臣下として素直に王女捜索という職務に従事している――というのが1つ。

 そして、もう1つは――」


 半ば無意識のうちに、だろう――レオは、手の中の箸を握り締めていた。


「……マール自身が、奴らの計画と何らかの関係があるって可能性だ」


「まあ、そうなってくるよな。

 ……しかしいくらなんでも、嬢ちゃんの歳から考えて、お前の暗殺にまで関わってた共謀者ってことはないだろ。

 そうなると……嬢ちゃん自身が、というよりはむしろ、奴らが陥れようとしているテオドラ様との関連か?

 何か、証拠のようなものを持っている――だとか」


「……本人に吐かせるのが一番手っ取り早いだろ」


 そう言って立ち上がったレオを、オヅノがまあまあ、と宥める。


「吐かせる、とはまた物騒だねえ。その考え自体、単なる推測に過ぎないのに。

 ……大体、今まであの娘が、そうした秘密があったとしてそれを話さなかったのは……あの娘自身そのことを知らないか、隠しておきたい理由があるからかのどちらかだと思うんだ。ね。

 だから、ヘタに突っついて刺激するよりも、せめて確たる証拠を得るまではそうした話は伏せておいて、このまま様子を見ている方が得策じゃないかな」


「ふむ……まあ、オヤジ殿の意見にも一理あるか。

 ああ見えて、結構大胆で行動的なお姫サマだ――俺たちに疑われてると思ったら、また飛び出していくかも知れんしな。

 捜索の手が伸びている以上、そんなことになるとさすがにヤバい。

 それに――」


 立ったままのレオを見上げ、ロウガはニッと笑う。


「わざわざこれ以上、兄妹ゲンカを悪化させることもないしな?」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ