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梟の王子と鳩の王女  作者: 八刀皿 日音
Ⅱ章 梟と狼が追いかけるものは

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15.〈時転錠〉


「そうだな……。

 どこにあるか、どんなものか、そしてそもそも実際にあるかどうかも分からない証拠を無闇に探すよりは手堅いだろうと、会談を拝聴させていただくつもりでここまで来たんだが……」


 視線で方針を確認してくるレオに答えて、ロウガはちらりと、台座の箱の方へ目を移した。


「あんなモンがこれ見よがしに置かれてちゃ、なあ?

 開けないわけにもいかんだろ?」


「……分かった。なら、まずはこっちだな」


 やはり、レオとしても気になっていたのだろう――。

 ロウガの同意を得られたことで彼は、即座に箱へ近付き、調べ始める。


「会談されるお二方が、それが開くまで適当に時間を潰した上で、向こうからこっちへ来てくれれば、手間も省けて万々歳なんだが」


 箱のことはレオに任せておいて、ロウガは部屋の他の場所を調べに動いていた。

 無駄口は叩くものの、彼の行動そのものには無駄らしい無駄はない。


「見取り図からすれば、会談に使える場所なんて幾らでもあったが……。

 それがあまり公にしたくない内容のものなら、実際選ばれるのはせいぜい、応接室か、この私室かのどちらかぐらいだ。お前の希望通りになる可能性もなくはない。

 くれぐれも、奴らの接近に気付かないなんてことがないように、警戒を――」


 緩めないでくれよ、と相棒に釘を刺すはずだったレオの言葉が、半ばで途切れる。

 書架に並ぶ本を調べていたロウガは、何かあったのかと素速く駆け寄った。


「……くそったれが。よりによって、コレか……」


「どうした? まさか、罠か?」


 ロウガの問いに、レオは苦々しげに首を振りつつ……長方形をした鉄箱の、両端にあたる短い2つの辺を交互に指差した。


「これを開けるには2つ、大きな問題がある。

 ……1つめは、この箱、両端に1つずつ、合わせて2つの錠がかかっていること。

 当然この設計だと2つとも解錠す(あけ)る必要があるが、1人で同時に、というのは不可能だ」


「1つずつ順番に開ければいいだけなんじゃねえのか?」


「……両方とも、普通の錠だったならな」


 言って、レオは2つある錠の片割れ――箱と一体になってはいるが、もう一方の錠に比べて、一目で何か仕掛けが仕込んであると分かる、大きく膨らみを持った錠を示す。

 よくよく耳を澄ませば、中からは規則正しい音が聞こえてくるあたり……まるで鋼鉄の容器に時計をしまい込んだようだとロウガは思った。


「これが、もう1つの問題だ。

 向こう側の錠は、恐ろしく精巧で真新しい造りではあるものの、あくまで難解なだけの普通の〈可動障害(タンブラー)錠〉だ。

 だけど、こっちはそうじゃない。これは――〈時転錠(オルキ・アーヴェ)〉だ」


 ロウガは一度目を見開き、改めてその仕掛け錠を見下ろす。

 話には聞いていたものの、彼も、実物を見るのは初めてだった。


 ――稀代の錠前師ラフォードが作り上げた、解錠は不可能とまで言われた錠前……〈時転錠〉。

 それは、小型化された時計と一体化することによって、その動きに合わせ、数分ごとに錠の内部も回転して内部構造を変えていくものだという。


 熟練の鍵師でも、これほどの錠となると、内部構造を調べ、実際に解錠に取りかかるまでに数分程度は優に費やしてしまうだろうが――しかしそのときには既に、錠は構造が変わってしまうのだ。

 もちろん、魔法ではないのだから、変幻自在とはいかず……時計の短針が一周する頃にはまた同じ構造に戻ってくるのだが……。

 盗みに入って1時間を待つのは自殺行為であるし、仮に構造を調べ、その時間を待てたとしても、さらに解錠作業そのものも僅かな時間で済ませなければならないのである。


 加えて、解錠手順を誤った場合、(ボルト)が動かないどころか、完全に固定されてしまうという二次的な防犯機能も備えている。

 そうなった場合、鍵を持った持ち主でも解錠は不可能となり、解体するしかなくなるのだが――当然、賊として侵入した人間にそんな猶予が与えられないよう、解体も時間がかかるように造られている。


 欠点として、その性質上、持ち主は鍵を外すために10を超える合鍵を持ち、しかも、正確な時間に正確な合鍵を使わなければならない、という煩わしさはあるものの……。

 それを補って余りある防犯性を備えた錠――それが、この〈時転錠〉だった。


「……そして、だ。

 箱の蝶番の裏側を通すように作られた、2つの錠を繋ぐこの出っ張りの部分……これは恐らく、〈時転錠〉の内部時計を利用して、2つの錠が連動する仕掛けにしてあるんだろう。

 昔、ラフォード本人から、そんな構想があるのを聞いた覚えがある」


「連動……ってことは、そうか。

 だから、この箱の両端にある2つの錠、これを同時に外す必要がある――ってことだな?」


 ロウガの確認に、レオは頷く。


「でなければ、正規の解錠手順を踏まなかったということで……〈時転錠〉の閂を固定する仕掛けが働くんだろうな」


 ロウガは苦い顔でふむ、と唸った。


「……じゃあ、もう1つ聞くが……。

 〈時転錠〉の方はお前に任せるしかないとして、もう一方はどうなんだ?

 俺でも解錠出来そうな代物か?」


 レオの技術が突出しているので、基本的に解錠作業は任せきりになってはいるものの……元は〈(シノビ)〉であるオヅノの指導により、ロウガも一端(いっぱし)の鍵師に比肩する高い解錠技術を身に付けてはいる。


 もちろんそれは承知の上で……しかしそれでも、レオは首を横に振った。


 いや、たとえロウガに任せられる程度だったとしても、彼はやはり無理だと首を振っただろう。

 ここまで限界近く酷使し、疲弊しきった彼の今の頭では……その時間制限の厳しさと錠そのものの難解さから、他の錠前よりも遙かに集中力を必要とする〈時転錠〉の解錠など、到底出来るとは思えなかったからだ。


「さすがに今実行する気はないが……箱ごと持ち去るという手段は?」


「台座にも仕掛けがされている。箱を持ち上げたりすれば、近くの私兵の詰め所で鳴子でも鳴って報せるようになってるんだろう。

 こちらは解除出来ないほどじゃないが……その後、このクソ重い箱を持ち出す手間を考えるなら、素直に解錠を試みる方がまだマシだ」


 レオの言葉に、ロウガはそうか、と舌打ち混じりに頷く。


「なら仕方ない、ひとまずこいつについては諦めるしかないな。

 そうなれば――」


 当初の予定通り会談の様子を窺いに行くべきだと、ロウガは素速くきびすを返すが――それ以上動くことなく、レオも押し止めて、そっと耳をそばだてた。


「来る――2人だ。隠れろ!」


 ロウガの警告と同時に、2人は滑るように音も無く大窓から出、その向こうへと身を隠す。


 バルコニーどころか、足場らしい足場もない壁面ではあったが……。

 補強のために張られている横木の、指一本分ほどの僅かな出っ張りに爪先を、そして石壁の隙間に指をかけて――2人はその身をそれぞれ、窓の両側の壁に縫い止める。

 そうした無茶な体勢を維持出来るのも、(ひとえ)にオヅノから受けた訓練の賜物だった。


「……来たぞ」


 言って、静かに窓を閉め直したロウガはレオに、自らの唇を指で指し示す。

 耳の良い自分が聞こえた会話をそのまま声に出さずに繰り返すので、もし聞こえないようなら唇の動きを読んで聞き取れ、という合図だった。


 それに対して、レオが頷くかどうかというとき……。

 ドアの開く音とともに、2人の男の声が部屋の中へと入ってきた。




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― 新着の感想 ―
[一言] バイオハザードでよくある、2箇所のレバーを同時に引かないと扉が開かないやつだ!(笑) シェバがなかなかレバーのところまで行ってくれなくてイライラするんだ(迫真)。
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