表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

虚無唄

作者: 勿忘草

朝が嫌いだ。

目を覚めなければいけないから。

平日なら仕事に行かないといけない。

休日なら居心地の悪い空間で息をしないといけないから。

何も楽しくない1日が理不尽に始まる。

それがずっと嫌だった。

だから、俺は朝が嫌いだ。


昼が嫌いだ。

外を歩けばカップルが子供連れの家族が目に入るから。

かといって、部屋に引き籠れば家族がうるさい。

何者にもなることができなかった俺に居場所はない。

社会から必要とされなかった無駄な命を

無責任に消費するのが嫌だった。

だから俺は昼が嫌いだ。


夜が嫌いだ。

大して寝ることができないのに、寝なければならないから。

目を閉じれば、姿なきモノが責めてくる。

無駄に1日を費やした、お前はクズだ。

朝が来るまで、事実を突き付けてくる。

それが嫌だった。

だから俺は夜が嫌いだ。


全てが嫌いだ。

自分も他人も嫌いだ。

自分より辛い人がいるなんてわかっている。

でも、そんなのクソくらえだ。

他人の辛さを知って何になる。

自分の辛さが緩和されるわけでもない。

自分はまだ大丈夫なんだと自分を騙すことになるだけ。

別に自分が一番可哀想なんて思わない。

親も友達もいる。

いない人と比べたら恵まれる。

だけど、それは暴論だ。

全員、あるモノとないモノがある。

ないモノに目を向ければ、ある人はみんな恵まれている。

吐き気がある。

だから、俺は言うよ。

言ってやるよ、クソみたいな言葉を。

生きているだけ恵まれているだろ。

昨日死んだ人間がいる。

ならば、今日生きている人間は皆恵まれているのだ。

本当に反吐が出る。

屁理屈だって?

あぁそうさ、こんなのは屁理屈だ。

俺は正論だけが言うのが大嫌いなんだ。

正論で人が救えるわけがない。

逆に正論で人が死ぬ。

人間である糸を切るのは、悪意だ。

そこに無自覚な善意も入っている。

詭弁だって怒る人間がいる。

良かったな、それを怒れるだけの感情があって。

感情があるだけ恵まれているね。

全部嫌いだよ。

嘘のある世界も

薄っぺらい言葉しか吐かない人間も

正社員以外に価値がないとする社会も

結婚するのが当たり前という風潮が

親孝行するのが当たりという考えが

全部クソくらえだ。

息苦しいだけの人生なんて

俺は求めていない。

助ける気がないから傷に触れるな。

助ける気があるなら何があっても助けてよ。

中途半端に来るなら、敵だ。

お前らに俺の何がわかると言うんだ。

わからないことに何も思わない。

俺たちはどこまでいっても、他人なんだ。

他人でしかないんだ。

同じ釜の飯を食う仲でも他人だ。

互いに愛を囁き合う仲でも他人だ。

俺の人生は俺だけのもの。

あんたの人生はあんただけのもの。

それでいいだろ。

友達でも恋人でも家族でも

他人でしかない。

自分の手には全てが重すぎた。

だから、俺は全てが嫌いだ。



そうやって、言葉にできたら楽になるのだろうか。

そうやって、周囲に敵意を剝き出しにしたら楽になるのか。

きっとそんなわけない。

これはただの妬みなのだ。

羨み妬んだ末に、全てを憎んだ。

自分はこうなったのは、自分の責任だと思いたくなかっただけの

醜い感情をゴミ捨て場なのだ。

誰かのせいにしてしまえば、心が死ぬことはない。

だけど、思ってしまう。

そうやって守った心に価値なんてあるのか。

頭では解っているのだ。

こうなったのは

自分のせいだと。

全部自分が悪いんだと。

過去の過ちが、過去の選択が

現在を形作っている。

それが現在の罪なのだ。

そうやって自分に言い聞かせた。

人を殺す夢を見る。

モノを盗む夢を見る。

人を犯す夢を見る。

大切な物を壊す夢を見る。

きっとこれは罰なんだ。

全てを憎んだ俺にはお誂え向きな罰だ。

さぁ嗤えよ。

どうか嗤ってくれ。

道化にすらなれなくなった俺を嗤ってくれないか。

観客を笑わせることができない道化に価値なんてないのだから。


嘘が嫌い

人が嫌い

男が嫌い

女が嫌い

人間が嫌い

子供が嫌い

大人が嫌い

自分が嫌い

自分を形成する要素が嫌い

自分が存在している事実が嫌い

何もかもが嫌い

でも、一番嫌いなのは

生きている自分なのだ。

何も価値ない自分が生きているだけで

重罪だ。

死刑だ、極刑だ。

誰か俺を裁いてくれ。

そして殺してくれ。

自分がいたという現実すらも消してくれ。


生きることに疲れた。

生きることに憑かれた。

生存本能という亡霊に憑かれた。

ずっと声がする。

犯せ犯せ犯せ犯せ犯せ

誰もお前に興味なんてないから死ね

人を殺せば楽になれる

いい加減ヒトのふりすることをやめろ

気持ち悪い

死ね死ね死ね死ね死ね

狂えば楽になれる

お前に生きる価値なんてないから死ね

自分の本性は獣なんだ

さっさとヒトであることをやめちまえ


だから俺は全てを捨てた。

未来も希望も期待も関心も全てを捨てた。

利用できるなら利用する。

邪魔する人間は排除する。

愛なんてもう存在しない。

ヒトであることに、もう飽きた。

明日はもういらない。


さようなら、全て

こんにちは、クソみたいな人生


今日生きる気はない

死ぬのはいつか

魂は死んだ

後は体だけ


最後にどうか嗤ってくれないか。

こんな生き方しかできない俺を嗤ってくれないか。

願わくば、誰もこちら側に来ないことを祈るよ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ