妻の前歯が欠けました。
心配性で潔癖症で小心者の僕の妻。
新型コロナウイルスの感染予防に日々躍起になっています。
みんな、外出控えてよ!
人混み禁止だからね!
てか、まじ健康に気を付けてよね!
ママ、この時期、病院とか行きたくないから!
ママ、院内感染怖いから!
病院なんてウイルスうようよに決まってんだから!
そんな清々しいほどの偏見を僕と娘に豪語した矢先。
ぽろん。
僕たちの目の前で、妻の前歯が欠けました。
抜けた歯が流しのステンレスシンクに落下して、小さく乾いた金属音を鳴らしました。
十八歳の時に入れた差し歯だそうです。
二十数年何ともなかった差し歯だそうです。
何故このタイミングでポロっといくかね。
計算?
ねえ、それって計算??
相変わらず、君は、持ってるなあ。
相変わらず、君は、選ばれし人だ。
時は黄昏。
静脈色した夕焼けのなか、
人とウイルスがばっこする医療機関へ向け、
むせび泣きながら自転車をこぐ妻の後ろ姿を、
家族みんなで見送りました。
がんばれ!
負けるな!
歯欠っけママ!