ご両親
広い広い、それは地の果てすら見渡せそうな草原のど真ん中、ぽつんと立つ一本木の下にそれはあった。
「はじめまして、私はリシア・エヴァンスと申します。」
私はドレスが汚れるのも厭わず、膝を着き、そうご挨拶する。
ここは、お姉さまのご両親とお兄様のお墓だ。
上を草が少し覆っていたので、手で抜き整える。
「後で使用人にしっかり掃除してもらうから、そこまでしなくてもいいぞ?」
「私がやりたいので。」
「では私も手伝おう。私の両親だから、私がやらないとな。」
「私もお手伝いします。」
私の作業にお姉さまとアランさんが加わる。
三人でやればすぐに終わる。
綺麗になった墓を見つめ、再度祈る。
レベッカ様のお父様、お母様、お兄様。
私、リシア・エヴァンスはレベッカ様の恋人をさせていただいております。
未熟者で、御納得いただけないこともたくさんおありになるかと思います。
これからもレベッカ様をお支えできるよう、精進いたしますのでどうかお見守りください。
様々なご報告やお願いをただ祈っていく。
祈りを済ませ立ち上がると、アランさんとお姉さまが後ろで待っていた。
祈りが長くお待たせしたようだ。
「すいません、お待たせしました。」
「いや、そんなに長く祈りを捧げてくれて私も嬉しいよ。」
「たくさんご報告することがありましたから。」
「そうか。」
お姉さまは少し嬉しそうだ。
「ここはすごく見晴らしが良くて素敵ですね。」
「御当主様、奥様、若旦那様。皆様ご家族でここで馬を駆られ、狩りをするのがお好きでした。」
「私も良く連れられてきたものだ。」
「なるほど。ご家族の思い出の場所でしたか。」
思い出の場所だからこそ、ここを選んだのだろう。
当時場所の策定に関わったであろうお姉さまとアランさんの思いはいかほどだったろうか。
「私も葬られる時はここが良い。覚えておいてくれるか?」
「縁起でもないことをおっしゃらないでください。」
穏やかにそんなことを告げるお姉さまに少しムッとする。
気持ちはわかるけども。
「そうだな。リシアと会う前は家の為に死ねれば良いと思っていたが。」
「今もそんなことを言い出したら私、遠慮なくお姉さまの頬をぶちますからね?」
「怖いな。今はリシアと永く共に居たいと思っているよ。」
「そうでなければ困ります。私を置いていくようなことがあれば、一生恨み言を言ってやりますからね。」
「向こうでもそばに居てくれるのか?」
「そう言うつもりで言ったんじゃありません!」
お姉さまはからかうように私の発言をあげつらう。
困った人だ。こっちは真剣に言ってるのにな。
「若い女性が二人して死後の話をされるのも如何なものかと思いますよ。」
「ああ、そうだな。」
お姉さまはアランさんの助け船に乗っかって誤魔化す。
いつか真剣にお小言を言う必要がありそうだ。
「そんなことより、リシアが持っているそれはお弁当だろ?今朝から楽しみにしていたんだ。」
「王都では毎日召し上がられてたじゃないですか。」
「王都から離れてからは一度も食べていないともいえる。」
たった一週間とちょっとというのに大袈裟というものだ。
そもそも昨日もピザトーストを作ったというのに。
「早く食べよう!すぐそこに小休止に向いた場所があるんだ。」
「もう、せかさないでください。アランさんもお召し上がりになりますか?」
「私はお邪魔では?」
「たくさん作りましたから、むしろ二人じゃ余ってしまうかもしれません。」
お姉さまがアランさんを両親代わりと言うのなら、是非とも共に食べていただきたかった。
私はお姉さまと新しい家族の思い出を作っていくと約束したから。
「アランも一緒に食べよう。料理はたくさんの人で食べるのが美味い。」
「いつもカイト様にリシアのお弁当はやらんって睨んでるお姉さまが…」
「あれはまた別物だ。」
そんなやり取りが少し面白かったのか、アランさんはくすりと笑う。
「では、ご相伴に預からせていただきます。」
「ええ、では急ぎましょう。お姉さまのお腹と背中がくっついてしまいます。」
私達は足取り軽く、お姉さまの言う場所へ向かう。
そこに爽やかな風が一つ、吹き抜けた。




