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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
第六章 次こそ君を
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お夜食

この旅を始める前に二人で決めたこと。

それはなるべく二人一緒に行動することだった。

お姉さまの領地に入った今、何かを契機に原作であった誘拐イベントが発生する可能性は充分にある。

そうならないことが一番なので、なるべく多くの護衛を連れることにはしているが、起こったときのことを考えると一緒に居た方が色々都合はいい。

お姉さまには直接は説明出来ないから、エドワードにかこつけて相談してみたのだが、お姉さまも悪い予感がしているとのことで、素直に了承いただけた。

なので今は寝ている時以外はたいていそばに居るのだが--


「今日も共に風呂に入るか?リシア。」

「だから公衆浴場と家の風呂はまた違うものじゃないですか…」


私の中でどうしてもそれが線引きされる。

宿などの公衆浴場は二人で入るのに抵抗はないが、家のお風呂はどうしても違うものだ。気恥ずかしさが勝る。

なるべく一緒に行動すると決めているが…。


「まぁ、そう言うだろうな。ならば私が居ない間の護衛を誰かつけてもらうとするか。」

「お願いできますか?」


ローエンリンデの家は武の気風が強く、誰一人取っても強い武人の人が多い。

誰かつけてもらえると少し安心できる。


「アランにリシアにつけてもらえる護衛を見繕ってもらおう。頼めるか?」


お姉さまは使用人にそう声をかける。

これで入浴問題は解決出来そうだ。


◆ ◇ ◆ ◇


「護衛であらばこの私がやりましょう。誰かに任せるよりご安心できるでしょう。」

「アランなら安心だな。私と同じくらい彼は強い。」

「公務は大丈夫なのですか?」

「ある程度私が居らずとも回るように出来ています。ご安心を。」


少しの気まずさを感じるが、お姉さまが一番に信頼されるアランさんなら大丈夫だろう。

私は素直に任せることにした。


「それじゃあ私は入浴してくるよ。また後でな、リシア。」


お姉さまはそう私の頭を一撫でして浴室へ向かう。

さっそく二人きりだ。


「…あの、よろしくお願いします。」

「はい。よろしくお願いします。」


アランさんに声を掛けるとやはり丁寧に対応してくださる。だが目が笑っていない。


「何とお呼びすればよろしいでしょう。エヴァンス子爵令嬢でしょうか?」

「リシアでかまいません。」

「では、リシア様と。」


あまり堅苦しいのは性に合わないし、アランさんとも仲良くなりたい。

ここは楽に呼んでもらえれば。


「リシア様は如何されますか?お先に用意したお部屋に戻られますか?」

「んん、そうですね。少しお付き合いしてもらってもよろしいですか?」

「ええ。何か御用が?」

「厨房にちょっと。」


◆ ◇ ◆ ◇


厨房までの行き道、アランさんは不思議そうに私に訊ねる。


「厨房に何のご用事でしょう?」

「お姉さまのお料理、あれじゃ少し足りないかと思いまして。夜中にお腹を空かせるでしょうから、お夜食をと。」

「あれで足りないのですか?昔は良くお食べになられましたが…」

「確かに少し前なら難しかったでしょうね。でも今は本当に良くお食べになられるんですよ?」


まだアランさんは私に疑いの目を向けているが、そのうち解るだろう。

今はそれ以上何も言わないようにした。


「あ、これはお姉さまの昔の姿絵ですか?」

「ええ、お嬢様の小さい頃の姿絵ですね。」


ふと廊下にある絵に目をやると、そこにはお姉さまそっくりの小さな少女の絵があった。

すごく小さくて可愛らしいのだが、もうこの時期から雰囲気は凛々しくて変わらない。

いいなあ、私も部屋に一枚ほしいなぁ。


「とても可愛らしくて良いですね!欲しくなってしまいます!」

「今も充分可愛らしい方ですが、サイズが小さい分可愛さもひとしおですね。」

「解ります解ります!こう、お姉さまのミニチュア人気みたいな!」

「良い喩えをなされますね。」


アランさんの表情が緩む。この人も私と同じで、お姉さまがとても大切なのだ。

それだけは伝わってくる。


「しかし、本当にお嬢様をお姉さまとお呼びになるのですね?」

「ええ。血のつながりはなくともリシアは私の妹で家族だと言ってもらえてからは、お姉さまとお呼びするのが染み着いてしまいました。」

「なるほど。経緯はお嬢様よりお聞きしておりました。」


気まずいと思っていたけど、話すとそれなりに答えてくれる。

話も振ってくれるし、悪い人ではないのだろう。


◆ ◇ ◆ ◇


「食材何か余ってますか?ここらへんの方の物は使っていい?ありがとうございます。」


私は厨房の人たちに承諾を得て、食材を手に取っていく。


「これなら残り物でピザトーストでもしましょうかね。お姉さまなら喜ばれるでしょう。」

「自分でお作りになられるのですか?」

「大したものではありませんし。アランさんも召し上がられますか?」

「お手数でなければ食べてみたいですね。」

「では私も。」


三人分の具材を取り、調理していく。

普段は夜中は食べないんだけど、たまにはこういうのも良いでしょう。


◆ ◇ ◆ ◇


「リシア、ただいま~!次はリシアがお風呂に…なんだか美味しそうな匂いがするな?」

「おかえりなさいませ。ピザトーストを作ったのですがお姉さまもどうですか?」

「本当か?実は夕食が足りなくてちょっとお腹が空いてたんだ。」


お姉さまはとても嬉しそうに席に着く。

アランさんの方を見ると、とても驚いた顔をしていた。


「なんだ、アランも食べるのか?リシアの料理は絶品だぞ?」

「お姉さま、そんなハードルを上げないでください。」

「いつもリシア様のお料理を食べておられるのですか?お嬢様は。」

「いつもも何も、私の向こうでの昼食はいつもリシアのお弁当だよ。本当に毎日、世話になっている。」

「なんと。リシア様、お嬢様がいつも申し訳ありません。」

「いえいえ、私がやりたくてやっていることですから。」


頭を下げるアランさんに頭を上げるようお願いする。

本当に私がやりたくてやっているだけなんです。


「そんな堅いやり取りは抜きにして冷める前に食べよう。私はもう我慢できなさそうだ。」

「ふふ、そうですね。」


今か今かと待ち遠しそうにしているお姉さまにこれ以上待たすのは酷だ。いただきますをして各自食べていく。


「んんー!美味しい!小腹が空いた夜にはたまらないな。」

「これは美味しいですね。お嬢様が喜ばれるのもわかります。」


私とアランさんはふつうのものを。お姉さまのは少し多めにケチャップを塗り、コショウを振ってある。

気に入って貰えたなら嬉しい。

アランさんもお姉さまもすごい勢いでピザトーストを食べていった。


「どうだ、アラン。リシアの料理はすごいだろう?」

「ええ、お嬢様の好みや食べる量まで把握されているのですね。」

「いつも私のことを一番に考えてくれているからな。」


確かにお姉さまのことは一番に考えているが、改めてそれを褒められるのは照れくさい。

私は何も言わず小さくなっている。


「そんなリシアだから、伴侶にしたいと思った。解ってくれ、アラン。」

「まだリシア様とお会いしたばかりですし、それはそれですから。」


少し仲良くなれたと思っていたが、まだまだお許しを得るには遠そうだ。



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