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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
第六章 次こそ君を
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夏以来

「お姉さま、リシアです。入ってもよろしいですか?」


私は隣の部屋の戸を叩く。

中から物音はするが返事はない。

もう一度戸を叩こうとすると、不意に戸が開く。


「リシア!会いたかった!」


お姉さまは熱烈に私を抱きしめる。


「大袈裟ですね、10分も経ってないではないですか。」

「今日はずっと一緒に居たせいか、その10分も長い。」

「はいはい、そうですね。で、離してもらえますか?」 


お姉さまを軽くあしらい、部屋に入る。

最近距離感が近すぎるお姉さまのことだ、きっと二人で一部屋くらいのことはしてくるんだろうな、と思っていたのだが意外にも宿は一人一部屋だった。

まだ領地に入ってないとは言え、あまりお姉さまの視界外にいるのも危うい。

就寝の時以外はお姉さまのそばに居ようと部屋を訪ねた。


「それは無理だな。もう私の体はリシアとくっついてしまった。」

「はぁ。でしたら私が切って差し上げます。お姉さまの愛剣をお貸しいただけますか?」


もはやこういったやり取りも慣れたものだ。

たいていいつも冷たくあしらわれるのに、私がたまに甘やかすせいか懲りずにやってくる。


「むぅ、もう少し恋人に優しくしてくれてもいいのではないか?」

「充分に優しいかと。」


事実私はかなり甘やかしている方だと思うのだが。

しかしお姉さまは納得がいかないようで少し寂しげな表情で私を見つめる。

やめてほしい、私はその表情に弱いのだ。


「仕方ないですね。このまま部屋の中の椅子までエスコートしてください。」


私は妥協する。


「わかった。私がエスコートしよう。」


お姉さまは何を思ったのか、そう言うと私を横抱きに抱える。これはいわゆる、お姫様だっこというやつだ。


「お姉さま!?」

「相変わらずリシアは軽いな、ちゃんと食べているか?」


お姉さまはお姫様だっこのまま私に本当に嬉しそうに笑いそう囁く。

さすがに、それはちょっと、反則で。


「下ろしてください…」

「椅子までエスコートしますとも。お姫様?」


そう言い張る割にはお姉さまは全く足を進めようとしない。私を抱えたまま立ち尽くしている。

この人、この体勢のまま私をからかって遊ぶつもりだな?

ちょっとムカついた私は、咄嗟にやり返すことを決める。


「お姉さま、お耳をお借りしたいことが。」

「ん、なんだ?」


お姉さまは私の顔に耳を寄せる。

今だ。思い切って私はお姉さまの頬に口づけをする。


「エスコートしてくださる私の騎士様にご褒美です。」


お姉さまの顔がどんどん赤くなる。スキンシップこそ多い私たちだが、お姉さまの妙なチキン…奥手さでキスすら数は少ない。

まだまだ有効な反撃手段だ。


「それでは椅子までエスコートお願いできますか?お姉さま?」


そういうとお姉さまは頭のてっぺんから足の先まで真っ赤になったまま、ぎこちなく椅子まで連れて行ってくれた。

今回は私の勝ちみたいだ。


◆ ◇ ◆ ◇


「先ほどいただいたみかんでオレンジティーにしてみました。お姉さまもどうぞ。」

「これはすっきりとした甘さで美味しいな。私は好きだ。」

「そうおっしゃられると思いました。もっとも、お姉さまはいつもだいたい美味しいとおっしゃられるのですけど。」

「いつも本当に美味しいと思ってるのだがな。」

「解っておりますよ。」


普段の食べっぷりを見るとそれは良く知っている。


「しかし、こういうのも夏以来ですね。」

「もうそんな前になるか。懐かしいな。」

「あの頃のお姉さまはもっと可愛げがあったんですが…。」

「今の私は嫌いか?」

「どうでしょうねえ。」


そう言葉を濁し微笑み返すと、少し不安そうな顔になる。

良い薬だ。


「旅の一日の終わりにこうしてのんびりするの、良いですよね。」

「私も好きだ。隠居したら、毎日こうして旅をしようか。」

「もう隠居後のお話ですか。気が早いですね。」

「リシアと過ごす隠居生活が私の夢だからな。」

「そのためにはまず当主になっていただかないと。」

「先日軍部の爺さん一人を締め上げて同意を得たからこの調子で行けば問題ないだろうがな。」

「ちょっと待ってください。今なんとおっしゃりました?」


そんな話は聞いていない。いつの間に?


「いや、あの、リシアにはまだ話して無かったがな…。」

「ええ、聞いてませんね。そもそも私、今はまだ無理をなさらないで下さいといつも申しているはずですが。」

「この話はまた今度…」

「まだまだ時間はたくさんあります。ゆっくりお伺いしましょうか。」


お姉さまを床に正座させて、ゆっくりと。





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