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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
第六章 次こそ君を
80/321

楽しい

「お姉さま。お弁当ごちそうさまでした。本当に美味しかったです。」

「拙いものだし、リシアには叶わないと思うのだが…。」

「それでもですよ。」


お姉さまの残したお弁当をお夜食に回す準備をしつつ、お姉さまと話す。

今日は珍しく膝枕をしてもらったり、させられたり、もしくは抱きしめてもらったりしていない。

まだ遠慮があるのかな。


「お姉さま、もう仲直りは済みましたからいつも通りで--」

「実は、仲直りのために用意したのはお弁当だけじゃなくてな。」

「そうなんですか?」


確かに、お弁当だけにしてはお姉さまの荷物は大荷物だ。


「夏休みの時もそう思いながら、あんなことがあって機会を失っていたのだが…私はリシアのやりたいことをさせられていないんじゃないかなって。」

「私のやりたいこと?」

「いつもリシアは私に尽くしてくれてばかりで、自分のやりたいことは後回しだろう?」

「そんなことはありませんよ。私はお姉さまと何かをするのがやりたいことです。」

「海の時も、泳ぎたがっていたのは知ってたから、泳がせてやりたかったんだ。」


なるほど。確かにちょっと泳げればな、とは思っていたが。でもお姉さまがやりたいことにお付き合いするのが一番楽しかったんだけどな。


「そこで、まずはこれを持ってきた!」


そういって荷物から取り出したのは枕。枕?


「枕投げをしよう!今ならもっとやれるはずだ!」

「今ここでですか!?」


お姉さまの突拍子もない提案にびっくりする。だってここ外だし、時間があるとは言え、昼休みだし。


「問答無用!受け取れリシア。」


枕を三個、ドサドサと私に渡す。


「今回私は反撃しない。避けるだけだ。避けれず受け止めきれず当たれば、リシアの勝ちだ。来い!」


そう言ってお姉さまは構える。いいだろう、乗ってやる。

シミュレーションをしながらじりじりとにじり寄る。


「行きますよ!せいっ!」


まずは1投、足下の地面に向かって投げる。


「おっと。それは当たらんぞ。」


お姉さまは軽く足の間を広げて対応する。

今に見ていろ。


「せいやぁ!」


2投目はお姉さまの右手をめがけて投げる。


「ふふん、チョロいな。」


お姉さまは特に動くこともなく軽く右手で受け止める。

ここまで予想通りだ。


「暑いですね!」


私はそう言って胸元を大きく広げる。

お姉さまの目線がそちらに行くのがわかる。もう、変態。


「今っ!」


視線がそちらを向いてるうちに。

私は三個目の枕をお姉さまの足下に向けて投げる。

と、ともに走り始める。


「なっ、ちょこざいな!」


お姉さまは目線を取られたものの、しっかり高くジャンプして対応する。

それも読んでいた。

私はお姉さまの足下に投げた一つ目の枕に着地前にたどり着く。

右手は枕で埋まっている。対応できまい。

私はお姉さまの足下という至近距離から着地を狙い、枕を直接体にぶつけにかかる。


「なるほど!考えたな!」


貰った。そう確信した瞬間だった。

お姉さまはその体勢から上半身を大きく仰け反らせたかと思うと、猫のようにくるりと空中で回転して--


「いただき!」


回転の途中に左手で私から枕をひったくって見せた。


「な!!反撃じゃないですか!?今の!!ズルい!!というか超人的な動き禁止ですー!」

「何とでも言うがいい!」


そこから火がついた私たちは狂ったように野外枕投げに興じた。


「ハァ、ハァ、ハァ。というか…お姉さま…。午後の授業開始サボっちゃいましたよ…。」

「いいんじゃないか?もとよりそのつもりだ。」


お姉さまは汗一つかかず、整った呼吸でそう答える。

余裕面が頭に来る。


「な!授業に関しては堅物のお姉さまが!?」

「リシアが不真面目すぎるだけだ。たまにはいいかと思ってな。」


今日はそう言う仲直りの一環の午後にするつもりだったらしい。

先生ごめんなさい。


「動いたらちょっとお腹に余裕が出てきたな?」

「お弁当の残り、食べます?」

「いや、これを食べよう。」


お姉さまが荷物から取り出したのはサツマイモ。

この国に薩摩はないが、サツマイモでいいのだろうか?


「サツマイモで焼き芋を作ろうかと思ってな。」

「良いですね。落ち葉もありますし。火種貰ってきましょうか?」


どうやらサツマイモでいいらしい。薩摩とは。

火をつけるものが手元にない私は火種を貰ってこようとする。


「まぁまぁ。見ていろ。ちょっとした曲芸をやろう。」


お姉さまはそう言うとさらに荷物から剣を二本取り出す。危ないな、おい。


「まずは一本、柄を外したものを落ち葉の山の真ん中に突き刺す。」

「はい。」


私はお姉さまのやることを眺める。何をするつもりだろう。


「少し離れていろ。今から火をつける。」

「わかりました。」


私はその場から少し離れる。


「はっ!」


お姉さまは手に持った剣をもう1本の山に刺した剣に振り下ろした。

その振り下ろしは、剣と剣がギリギリ触れあうところを通って、火花が散り--


「どうだ!」


お姉さまが自慢げにすると共に落ち葉の山に火がついた。


「いや、なんかもう、やることが超人すぎて気持ち悪いですね…。」 

「何故だ!?」


何故だも何も、ねえ。勢いよく振り下ろして剣と剣をぶつけず擦り合わせるとか、ふつう出来ませんし。


「まぁこれで焼き芋にできますね。」


とりあえずお姉さまをスルーして芋を火のつきつつある落ち葉の山に埋めていく。

お姉さまも慌ててそれを手伝う。

焼けるまでの時間を他愛のない話をしながら過ごす。こういう時間が、好きだ。


「そろそろ焼けましたかね?」

「だろうな。さてまた曲芸の時間だ。リシア、何カットにしてほしい?」

「ええ…別に曲芸要らないんですけど…。」

「早く。何カットにする?」

「では1/4カットで。」


お姉さまの有無をいわさぬ勢いに、思わず譲ってしまう。

何をするつもりなんだ。


「では、リシアはこの皿を持って座っていてくれ。むむ…見えたっ!」


お姉さまが目にも見えぬ早さで剣を振るう。何をしてるんだ。

皿を持ちながらボーッと眺めていると、サツマイモの一つが急に落ち葉の山から飛び出してきて--1/4に等分されて、皿に乗る。


「どうだリシア!すごいだろう!」

「いや、普通に取り出してカットすれば良かったのでは…?」

「ロマンだ!」

「ロマンですか。」


ロマンらしいです。


とは言え、焼き芋自体は良い出来だ。さっそくいただくとしよう。


「ではお姉さま、いただきます。」

「ああ、私もいただこう。」


焼き芋にそのままかぶりつく。ホクホクで、甘く、ホロッと崩れる。


「んんー!おいしい!」

「ああ、なにもかけなくてもこんなに甘いとは。」

「ハチミツかけないんですか?」

「だから私は熊か。」


そんな話をしながら、私たちは焼き芋を思う存分堪能した。


◆ ◇ ◆ ◇


「ふぅ、遊んだなあ。」

「遊びましたねえ…。」


あの後、何故かまだあったきれいな枕をそのまま地面において寝るだとか、竿も持ってきてたので垂らしてみたが全然釣れないとか、訳も分からない遊びをたくさんした。

授業をサボってまですることかと言われるとでらあるが--


「リシア、楽しんでくれたか?」

「ええ、とっても。」


お姉さまが私を楽しませようと、二人で色々試みるのが、一番楽しかった。



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