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主人公は悪役令嬢と仲良くなりたい  作者: SST
第六章 次こそ君を
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運動会

「シンシア様ごきげんよう!」


私は目の前の女性に元気良く挨拶する。


「リシア様、ごきげんよう。本日はお招きいただきありがとうございます。」

「堅いですね?お招きするほどの場所でもないですよ。」


その通りお招きするって呼び方になるほどの場所でもない。

私たちが居るのは学園の大きな競技場が見える坂に敷いたレジャーシートの上なのだ。


「レベッカ様はどちらへ?」

「この後の弓技に出るって言って張り切ってどこかへ行きましたよ。」

「…本当、元気になられましたね。」

「昔とは見る影もないですよねえ。」


今日は学園の運動会。

運動会と言っても貴族の催しであるので、どちらかというとオリンピックみたいな感じの競技を競うものだ。

お姉さまは弓技程度なら肉体よりは精神の競技なので良かろうと出て行った。

狩猟大会の時は体調もあって参加しなかったようだから、こうして行事を楽しめるようになったのは良いことだ。


「しかし、本当にお誘いいただいてよろしかったのですか?」 

「むしろ悪い理由とかないですよ~!」

「悪い理由しかないのでは…?」

「どうしてそう思うんですか?」 

「いえ、長居すると口から砂糖を吐きそうだなと。」

「?」


各自が競技場を見れる場所をとって思い思いに観戦するのだが、お姉さまは競技に出るみたいだし、ひとりぼっちも寂しいからとシンシアさまを誘った。

そしてこうしてやってきてくれたのだ。



「カイト様は何の競技に?」

「何故私に聞かれるのですか?」

「いや、知ってそうだなあって。」

「…午前は馬術に出るとおっしゃってましたよ。」

「そうなんですね!馬術かぁ。カイト様なら余裕では?」

「あの人の馬術は異次元ですからね…」

「ですね~。」


会話が途絶えることが不安ではあったが、共通の知り合いが居ればそれなり話が盛り上がる。楽しいな。


「弓技、始まるみたいですよ。」

「本当だ。お姉さまはあそこですね!」


弓技はトーナメント式で行われるようだ。

両者的に向かい10射行い、得た点数で勝敗が決まる。

各自弓技にふさわしい狩猟服などを着ているが、お姉さまは鍛錬の時の胴着に袴だ。

弓道少女のようですごく様になっている。


「お姉さま、勝ちますかね?」

「一番得意なのは剣術でしょうが、弓もなかなかのお手前ですよ。」

「むしろ、出来ない武術が想像つかないですね?」

「その認識で間違いないかと。」


お姉さまは下馬評通り危なげなく勝利を重ねていく。

その射姿は非常に優美で見ているこちらもすっと引き込まれる。

そのたびに呼吸を忘れてしまう。


「お姉さまの一射一射を眺めている間呼吸が止まってしまいますね。」

「どうしましょう、もう既にに砂糖を吐きそうです。」


シンシア様は怪訝な表情でそう述べるが、よくわからないのでスルーしておく。


「また勝ちましたよ!!」

「さすがですね、次は決勝ですか。」


お姉さまは全く危なげなく決勝までたどり着いた。

ここまでくれば優勝してほしい。


「お姉さま、手を気にしている?」

「何やら手を閉じたり開いたりしていますね。」


どうやら手が気になるらしく、しきりに手を閉じては開きしている。

前に手はよくしびれが来ると言っていたし、何か異変があったのかもしれない。


「あ!」

「…矢が抜けましたね。」


お姉さまの第一射。放った矢はあらぬ方へ飛んでいく。

ミスと言うよりは手が滑って発射されてしまったような形だ。


ここで優勝して、何かが変わるわけでも、ない。

ただ学園からトロフィーがいただけるだけだ。

でも、ここまで来たのなら、やはりお姉さまに勝ってほしい。

そう思った私は、お腹の底から声を出す。


「お姉さま!頑張って!」


その声が届いたのか、ただ静かにその場でお姉さまは頷く。

そこからのお姉さまは鬼気迫るものがあった。

ほぼ全ての矢を的の真ん中に命中させて圧勝したのだった。


◆ ◇ ◆ ◇


「リシア~。頑張ったぞ、褒めてくれ。」


お姉さまは競技を終え、真っ直ぐにこちらに向かったと思うと、そのまま私の膝を枕に寝転がる。


「仕方ないなあ。今日だけですよ?」


褒めろとお願いされた私は、膝の上に乗ったお姉さまの頭を撫でる。幸せそうだ。

何故かシンシア様は苦虫を噛み潰したような顔をしているが。


「レベッカ様、優勝おめでとうございます。」 「ああ、シンシア。ありがとう。」


お姉さまは膝の上で幸せそうに撫でられながらそう返答する。

シンシア様の顔はさらに渋いものとなる。


「お姉さま、手に何か異変が?」

「どうも使ってるうちに痺れが来てな。握力がなくなってきたんだ。」

「大丈夫ですか?」

「リシアの応援を聞いたら痺れなど吹っ飛んださ。見ただろう、その後の活躍を。」

「ええ、本当にすごかったです!」

「そうだろうそうだろう。もっと褒めてくれ、リシア?」

「仕方ありませんね!優勝に免じて褒めてあげます!」


ちょっと甘やかし過ぎな気はするが、今日は本当に頑張ったのだ、仕方ないだろう。

私はさらにお姉さまの頭をなでなでしまくったのだった。


「…カイト様、どうしましょう。私、もう口から砂糖が止まりません…。」


◆ ◇ ◆ ◇


「次は馬術みたいですね。」

「カイト様の番ですね!」


馬術の競技は、様々な障害物が置かれたコースを速く回るというものだ。

予選、準決勝、決勝の三回行われる。


「お姉さまとカイト様ならどちらが馬術はお上手なんてすか?」

「私が負けるとでも?と、言いたいところだが、奴と私はそこまで遜色がない。ここ数年馬に乗っていないことを考えると、カイトの方がうまいだろうな。」

「へぇ、カイト様はやはり凄いんですねえ。」

「来年には私が勝つがな。」

「馬術も出れるくらいになるといいですね。」


対抗心を露わにするお姉さまをとりあえず撫でておく。


「シンシア様はカイト様を応援されないんですか?」

「必要あります?別にカイト様なら問題無く優勝されるでしょうし。」

「まぁそうですねえ。」


とは言うものの、やはり気にはなるようで、しっかりとカイトの実技を眺めているようだ。

特に波乱もなく、カイト様が優勝する。

どことなく、シンシア様もほっとされたようだ。


「良かったですね、シンシア様!」

「良かったのは私ではなくカイト様でしょう。」

「シンシア、素直になった方が良いぞ?」

「素直すぎるレベッカ様に言われたくありません。」


それは少し同意かもしれない。


◆ ◇ ◆ ◇


「よお、リシア嬢、レベッカ嬢、シンシア!勝ってきたぜ?」

「カイト様!おめでとうございます!」

「来年は私も出る。せいぜいそれまで首を洗ってろ。」

「レベッカ嬢が出るとなると俺も油断できねえなぁ。」


カイト様はどっかとシンシア様の隣に座る。


「おう、シンシア、何か言うことはねえのか?」

「午後の競技でもご油断めされぬよう。」

「ああ、ありがとうな。」


素っ気ないように見えて独特の空気感が流れる。

二人は二人で少しずつ進展しているようだ。


「何だこの甘ったるい雰囲気は。」

「「レベッカ嬢(様)には言われたくないな(ですね)」」


何故かお姉さまが集中砲火にあっていた。


◆ ◇ ◆ ◇


「皆様、お弁当を作ってきたのですがお召し上がりになられますか?」

「いただいてもいいのですか?」

「おう、腹が減って困ってたとこだ。」

「リシアのお弁当…。」


三者三様、反応は違えど好意的に捉えてくれているようだ。

お花見のときはウケが悪かったから、嬉しいな。


「これはお米、ですか?」

「ええ、おにぎりって言います。」


お弁当の一段目は色々おかずを、二段目はたくさんおにぎりを詰めてきた。

うちは運動会はおにぎり派だったんです。


「リシアの握ったおにぎりか。誰にもやらんぞ?」

「お姉さまは黙っててください。」


膝の上の顔を思いっきりひっぱたく。静かになった。


「あまりこっちでお米を食べる文化はないみたいですが…意外とおいしいですよ?無理にとは言いませんが…。」

「いえ、驚いただけです。いただいても?」

「これは手で取ってもいいのか?」

「ええ。そのままサンドイッチみたいにとっていただいていただければ。」


そういうと二人ともおにぎりに手を伸ばし食べ始める。気に入ってくれるかな。


「お米って、こんなに美味しいんですね。」

「中のおかずが良くあうな。これは何だ?」

「梅干しって言います。梅の実を漬けたものですね。」

「こちらは?」

「昆布という海藻を甘く煮たものです。私は大好きですね。」


おにぎりに入っている具材で盛り上がり、別のものにも手を伸ばしてくれる。良かった。喜んでもらえて。


「リシア、食べさせてくれないか?」


相変わらず起きあがる様子がなく、膝の上にある顔がそう言う。さすがに甘やかしすぎたか。

そう思った私は、おにぎりを一つとって鼻の上に置く。


「リシア!?そこは鼻で…あっ、落ち…!」

「落としたらお弁当抜きですからね?」


お姉さまは慌てて落ちかけたおにぎりを拾い、起き上がって食べ始めたのだった。


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